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第四十四話 マリー、襲来 第二波

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 目が覚めると、見慣れぬ天井があった。

 いや~、昨日引っ越したばかりだからね。

 それに、こんなにでっかいお屋敷に住んだこともないから、なかなか慣れそうにないよ。

 天蓋付きのベッドとかあるんだよ~、豪華すぎて落ち着かないよ~。

 とりあえず、比較的質素な部屋があったんでそこで寝たんだけど。

 『たぶん、使用人用の部屋っス。』

 ああ、そう……

 まあ、前の持ち主も使用人は雇っていなかったみたいだけどね。

 さて、朝食はどうしようか?

 食材を用意しておけば屋敷の魔道具(マジックアイテム)が料理も作ってくれるらしいのだけど、さすがに昨日の今日でそこまで準備していない。

 外食にするか、冒険者ギルドにお邪魔して職員と一緒に食べるか、それとも……アイテムボックスに入れっぱなしになっている保存食を食べちゃおうか。強制依頼の時の残り物だし。

 確か一階にダイニングとかリビングっぽい部屋もあったっけ。


 先客がいた。

 「よう、リョウヘイ。邪魔してるぜ!」

 え? ええ?

 「ど、どうしてマリーさんがここに!?」

 ぼくは昨日この屋敷を手に入れたばかりだ。知っているのはレイモンドさんと転居先の報告をしたおっさんくらいなはずだ。

 それに、過剰なセキュリティは解除したけど、部外者が簡単に入れるほどこの屋敷は甘くはない。

 いろんな意味でマリーさんがここにいるのはおかしい。

 「ああ、レイモンドに聞いたんだ。以前から、リョウヘイお兄ちゃんが家を買ったら教えてね! と頼んでいたからな。」

 レイモンドさ~ん! なんであっさり教えちゃうんですか~!

 「そうしたら、昨日連絡があって、この家の場所を教えてもらったついでに入れるようにしてもらったんだ。」

 レイモンドさ~ん!! なんでそこまでするんですか~!

 確かにレイモンドさんに管理者権限を設定したから、特定の人の立ち入りを許可するくらいはできるけど。

 いきなりぼくに内緒でやりますかぁ~!

 「リョウヘイお兄ちゃん、わたし来ちゃダメ?」

 相変わらずあざとい!

 中身を知らないとあっさり騙されるんだろうなぁ~。

 「いや、マリーさんは別にいいんだけど、領主とか言う人に目を付けられるというか……」

 娘が絡むと危ない人らしいし。

 「ああ、あの過保護親父なら問題ない。」

 え、大丈夫なの?

 「お前はとっくに目を付けられているからな。」

 ええ? 何で?

 「この国では『渡り人』は保護されるし、問題を起こさないかある程度動向を把握しようとしている。冒険者ギルドで保護した時点で、『渡り人』が現れたことは領主や国に報告が行っているのさ。」

 そう言えばおっさんもそんなことを言っていたような……、『渡り人』を保護すると国から補助金が下りるんだっけ? 領主は知らんけど、国には連絡してるはずだよなぁ。

 「冒険者ギルドは国や領主の配下じゃないから必要以上のことはしないが、独自に調べは付いているはずだ。あの男、領主としては優秀だからな。」

 えー、何時の間に調べられていたの? 全然気が付かなかったよ。

 「だいたい、オレがお前のことを知ったのは領主の集めた情報からだぞ。」

 そーゆーことを娘が知っていてもいいの?

 領主のセキュリティーホールがここにいま~す!

 「そもそも、この屋敷をお前に勧めたのにもフォルダム辺境伯が一枚かんでいるぞ。『渡り人』の実力を測るついでに、上手くいけば人が住めなくて困っていた屋敷をどうにかできると踏んだんだろう。駄目でも損はないからな。」

 レイモンドさんが主犯だと思ったら、黒幕がいたぁ!

 「しかしいい屋敷だな。美味い茶と茶菓子は出るし、何よりこそこそと人をつけ回す護衛が入ってこれないのがいい! のんびり羽を伸ばせるぜ。」

 あ、やっぱり護衛が付いているんだ。たぶん本人にも内緒で見守っているんだろう。マリーさんにはばれてるけど。

 ……あれ? マリーさんのぱくついているクッキーは自分で持って来た物じゃなかったの?

 「まだ食材を仕入れていないから、食べ物は出てこないはずなのに……」

 水は出るから風呂には入れるんだけどね。でも、茶葉もないからお茶も出ないはずなんだけど。

 「そう言えば、昨日レイモンドが色々と搬入していたぞ。これはサービスだとか言って、小麦とか調味料とか持ち込んだみたいだな。」

 おお、さすがはレイモンドさん。サービスが行き届いている。

 「つまり、もう頼めば料理が出て来るのか。」

 『お食事になさいますか、マスター?』

 すかさず屋敷が聞いてくる。うーん高性能だ。更にテーブルの上に光る文字でメニュー浮かび上がった。

 「ずいぶんとハイテクなんだな。」

 マリーさんも感心する。

 「それじゃあ、シェフのおすすめ朝食セットで。」

 ファンタジー世界の魔道具(マジックアイテム)というより、タブレットで注文するファミレスみたいだよ。音声で注文できるからAIスピーカーかな?

 それにしても、シェフのおすすめって……?

 「マリーさんもなんか食べますか?」

 「いや、俺は食べて来たから、お茶だけでいい。」

 そうですか。

 お、もう料理が来た。早いなぁ。

 ふわふわと宙に浮かぶお盆に乗って料理が運ばれてきた。こういうところはファンタジーだ。

 えーと、料理の内容は……ふかふかのパンに、野菜サラダとスープ付き。

 なんか豪華だ。この世界の庶民の朝食じゃないよ。

 庶民のというか貧乏な冒険者の食べ物は、まず硬い黒パンだ。日持ちがするから冒険者用にリントでは安く大量に手に入る。硬い黒パンを薄切りにして、さらにカチカチになるまで乾燥させたものが冒険者用の携帯食だ。

 サラダなんてしゃれたものはほとんど食卓には上がらない。新鮮な生野菜を食べられる時期は短い。庶民は傷みかけた特売品を買って来て煮て食べる。あるいは塩や酢につけて保存食にする。採れたて野菜を生のまま丸かじりするのは農家の特権だった。

 スープにしても肉やら野菜やらを適当にぶち込んで塩で味付けしただけのものが多いらしい。まあ、辺境では魔物肉が割と安く手に入るから、くず肉や骨で出汁を取ったスープなんかもよく見かけるけど、だいたいが大味だ。

 対してこの屋敷で出てきた料理は、日本で見かけるのと同じような白くてふかふかの柔らかいパンだ。しかも焼き立てだよこれ。小麦から焼いたの? この短時間で?

 サラダはぱっと見五種類くらいの野菜が使われている。更にドレッシングもかかっている。かなり贅沢だ。

 スープはコンソメスープみたいに薄い色の澄んだスープだ。具は入っていないけど、スープだけで深い味わいがある。

 一見シンプルだけど、庶民の朝食ではない。

 味はともかく量をよこせという冒険者向けの料理でもない。

 「貴族相手にも出せそうな料理だな。」

 出てきた料理をまじまじと見ながらマリーさんが呟く。

 マリーさんは庶子とは言え領主の娘だから、多少は貴族の生活を知っているらしい。

 まあ、貴族かどうかは知らないけれど、前の持ち主は金持ちだったことは間違いない。

 それでも、魔道具(マジックアイテム)だけで貴族にも出せる料理を作ってしまうのは凄いな。

 それに、屋敷だけでなくレイモンドさんも奮発してくれたのだろう。高級料理には高級食材が欠かせないはずだ。

 「そう言えば、レイモンドが屋敷の魔道具(マジックアイテム)から直接注文を受けて品物を納入できるようにしたと言っていたな。」

 え? そんなことできるの?

 何だかできそうな気がしてきた。

 確か離れたところにメッセージを送る魔道具(マジックアイテム)が存在する聞いたことがある。魔道具(マジックアイテム)の塊のようなこの屋敷ならそんな魔道具(マジックアイテム)があってもおかしくはない。

 屋敷の中枢にあるアーティファクトはかなり高度な判断ができるみたいだから、不足する物を調べて注文を出すくらいのことはできても不思議ではない。

 そんな注文を出す屋敷はここだけだから、配達先を間違える心配もない。

 さっき料理を運んできたみたいに、受け取った品は仕分けして格納庫に保管することもできるだろう。この屋敷、冷蔵庫や冷凍庫に相当する設備もあるみたいなんだよね。

 代金はクレジットカードならぬ冒険者ギルドの口座から引き落とせばいい。

 テイラー商会はamaz〇nか何かですか!?

 あー、でもこれは気を付けないといけないかもしれない。

 屋敷が色々と作ってくれるからと言って贅沢三昧していると、いつの間にかテイラー商会に高級食材の注文が大量に出ていてぼくの口座がすっからかんに、なんてことになりかねない。

 日本では贅沢でもなんでもないものが、こっちでは高級品だったりすることもあるんだよね。噂では王都には味噌や醤油を再現した調味料もあるらしんだけど、超高級品なんだそうだ。

 それから砂糖なんかも庶民の手に届かないというほどではないけれど割高で、砂糖をふんだんに使った料理やお菓子はかなり高級品だそうだ。ああ、長崎が遠い。

 後でレイモンドさんがどんな設定をしたのか調べておかないと。購入限度額とか設定できるかな?

 それに、屋敷についても全部の部屋や全ての魔道具(マジックアイテム)について調べたわけでもないから、不明なところも多い。

 でも全部調べるなんて無理だよねぇ! 自己増殖とか自己進化とかしちゃうし。

 重要そうなところから少しずつ調べて行くしかないかなぁ。


『渡り人』として目を付けられることと、娘と親しい男性として目を付けられることは違うのですが、そのあたり亮平は気が付いていません。

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