第四十二話 亮平、家を買う。 その4
この屋敷の防備は、一階は落とし穴に落とそうとするものが多かった。
二階は様々な武器を使用した、物理攻撃が中心だった。
どうやら階毎に傾向があるみたいだ。
では、三階はどうなっているか?
どうやら三階は魔法攻撃を主体に攻めてくるらしい。
魔道具だもんね、魔法攻撃できるものがあっても不思議はないよね。
でもね、聞いた話では、攻撃魔法を放てる魔道具って、無茶苦茶高いらしいよ。
特に強力なものは国が管理していて、民間人には入手もできないんだって。
さすがに屋敷内で使うものだから、ご禁制の強力過ぎる兵器はないだろうし、屋敷を壊さない程度に威力を抑えている感じはある。
でもその代わりに攻撃の数が多いんだよ!
火、水、風、地、様々な属性の魔法がポンポン飛んでくる!
しかも、進むにつれて攻撃の密度がどんどん高まってくる!
いったい、高価な魔道具をどけだけ投入しているんだよ!
「ハア、ハア、ちょっと、これ、まずいかも知れない。」
ナビケートを阪元さんに任せて突っ走ってきたけど、攻撃の数が増えてきて避けきれなくなっていた。
一応魔力の鎧で全部防いで入るのだけど……
ぼくのセルフプロテクションは物理攻撃よりも魔法攻撃の方が耐久力を削られる。
減った耐久力は魔力を充填することで回復するのだけれど、元々の効果時間を超えてセルフプロテクションを維持することはできない。
今纏っている魔力の鎧は屋敷に入った時に作ったものだから、もうしばらくすると消えてしまう。
一度解除して魔力の鎧を作り直したいところだけど、この攻撃の密度だと魔力の鎧を出す前に何発か食らってしまいそうだ。
さっき出した盾はもう少し持つけど、全方向から降り注ぐ魔法攻撃を全て防ぐのは無理そうだし。
セルフブーストで防御力をあげれば多少攻撃を食らっても死なないだろう、というのにかけて鎧を出し直すしかないか……
『お兄さん、そこの部屋に入るっス!』
あっ、そうか!
ここまで先に進むことだけを考えて無視していたけど、屋敷の廊下なのだから所々部屋に入るためのドアが付いている。
ぼくは阪元さんの勧めに従って近くのドアに飛びついた。鍵がかかっていたけど、マスターキーで開けて中に入る。
……。
攻撃が止んだ。
『一部を除いて住人用の部屋には攻撃用の魔道具を置かない設計になっていたっス。設計通りで良かったっス。』
入った部屋の中を見ると、書斎のようだった。こんな所で攻撃魔法を放ったら、威力は弱めでも室内は滅茶苦茶になる。
部屋の中は安全そうなので、一息つくとする。とりあえず、セルフヒーリング~!
ふう。
見回すと、本棚にはぎっしりと大量の本が並んでいた。背表紙のタイトルを見る限り、魔法関係の専門書みたいだ。
前の持ち主は高名な魔法使いだと言ってたっけ。ここに並んでいる本だけでも一財産になりそうだ。屋敷に使われている大量の魔道具といい、どれだけの大金持ちだったのやら。
おや? 机の上に置いてあるのは、日記かな?
『俺っちが確認するっス。何か屋敷の攻略情報があるかもしれれないっス。』
そう言うことならば、阪元さんに任せた!
ぼくは机の上にあった日記帳をアイテムボックスに仕舞った。
休憩を挟んで魔力の鎧を作り直したぼくは、再び通路に出て進み始めた。
通路に出たとたんに雨あられと降り注ぐ攻撃魔法を余裕を持って受け止める。
やはり屋敷を壊さない程度に威力が抑えられているらしい。全ての魔法攻撃は魔力の鎧で防ぎきることができた。
その分ガリガリと鎧の耐久力が削られるけど、魔力の鎧は作り出したばかりで効果時間はまだまだ残っている。魔力を充填してやれば何の問題もなかった。
それにしても、これだけ絶え間なく魔法攻撃が飛んで来るなんて、すごい量の魔力を消費しているはずだ。よく魔力が切れないものだ。
『たぶん、三十年近くかけて溜め込んだ魔力を使っているっス。』
なるほど、三十年分の出血大サービス中なわけか。派手なわけだ。
『それを耐えきるお兄さんの魔力量も底知れないっス。』
防御だけなら、攻撃魔術程には魔力を使わないみたいなんだよね。
今のところ魔力が尽きる心配はなさそうだから、また魔力の鎧の制限時間が来る前に目的地に着けばいい。
三階の通路は迷路のようになっていて、正しいルートがよく分からない。でもこちらには阪元さんのナビゲートがある。
レイモンドさんからもらった図面とは違いがあるみたいで何度か行き止まりにも当たったりしたけど、どうにか前に進んでいる。
この調子なら、目的地――この屋敷を管理する中枢までもうすぐ着くんじゃないかな。
『それなんスけど、この屋敷、予想以上に面倒なことになっているかもしれないっス。』
阪元さん? もしかしてさっきの日記に何か書いてあった?
『この屋敷の主人は、完成した後に屋敷に手を加えているっス。屋敷の中枢にダンジョン産のアーティファクトを組み込んでいるっス。』
アーティファクトって、ダンジョンで見つかる不思議アイテムの総称だっけ? 魔法倉庫みたいに人の手で作れない奴とか。
この屋敷に組み込まれたやつはどんな効果があるの?
『魔道具を支配下に置いて、屋敷全体に自己再生・自己増殖・自己進化の効果を与えるって書いてあるっス。』
何そのヤバそうな効果!? 屋敷が増殖しちゃうの?
『空間魔法の効果で屋敷内の空間が拡張されてるっス。部屋が増殖していると思われるっス。あと、攻撃用の魔道具も間違いなく増えているっス。』
この執拗な攻撃は、そのアーティファクトのせいなのか。それに勝手に改築されていたのなら、見取り図が役に立たなくなっているのも納得だよ。
これって、時間がたつほど手強くなるんじゃない?
『三十年かけてここまで手強くなったっス。それと、最初に大量の魔石を用意していたみたいっス。魔石を使い切ったところが魔道具の増殖の限界っス。』
ふーん。まあ、戦いながら節操なく進化していくとかじゃなければ大丈夫かな。屋敷を破壊するほどの攻撃はできないみたいだし。
それに、そのアーティファクトが中枢に組み込まれているというならば……
『目的地は一緒っス。』
どんどん進もう!
あ、そうだ。ついでだから盾も出してっと、盾で攻撃を受け止める練習をしておこう。
せっかく自在に動かせる盾を出せるようになったのだから、かっこよく攻撃を受け止められるようになっておきたい。
エイ! エイ! それ!
結構どうにかなるものだな。盾は数も多いし、攻撃魔法はルークさんより遅いし。
でもさすがに死角からの攻撃は対応できないんだよなぁ。背中側にはガンガン攻撃魔法が当たっているよ。
盾の方はまだ余裕があるけど、見えなきゃ防げない。
うーん、全方向を盾で防げれば、魔力の鎧を作り直す間の隙を、盾でカバーできるんだけどなぁ。
そうか! 空間認識~!
これで全方向死角なし! これで背後から迫る攻撃も……空間認識だと攻撃魔法は分かり難い!
空間認識で分かるのは物質的なものだけだっけ。いいアイデアだと思ったんだけどなぁ。
『お兄さん、お兄さん。魔法に対しては魔力視が有効っスよ。』
魔力視……魔法文字とかを見るやつか。最初から見えていたからあんまり気にしたことなかったけど、あれって目で見ているわけじゃないんだってね。
本来ならば目を瞑っていても魔力が見えるはずなのだけど、常にあらゆる魔力を見てしまうと混乱するから、無意識に視界に重ねて魔力を見ているらしい。
つまり、その気になれば目に頼らずに魔力を見ることができるわけか。
やってみよう。うーむ。
あ、できた! 空間認識のイメージに重なって攻撃魔法の魔力がはっきりと見える!
ぼくの盾も背後のものまではっきり見えるからすごく分かりやすい!
ハハハ、見える、ぼくにも見えるぞ!
それ! それ! どうだ!
『三発に一発は受け止めてるっスね。この攻撃密度からしたら上出来じゃないっスか。』
まだまだ! この際、練習しまくるよ~。