第四十一話 亮平、家を買う。 その3
二階に到~着~!
飛行魔術はまだ未完成で、高く飛び上がるのは怖いけど、ちょっと浮かぶくらいならばできるんだよ。
落とし穴が作られているのは一階に集中しているらしいから、ここから先は攻撃パターンが変わってくるはず。
まあ、穴に落として強制排除ができない分、殺傷能力が上がるらしいんだけど。
そうそう、屋敷を攻略する三つ目の方法だけど、レイモンドさんに聞いたところ、
「三つ目の方法は、殺傷能力の低い一階の仕掛けを発動させ続け、魔力切れを狙います。ただし、何年かかるか分かりません。」
だ、そうだ。
この屋敷の魔道具に使われている魔石は結構大きくて高価なものらしい。蓄える魔力も多いし、周囲から魔力を吸収する速度も速い。
魔道具が吸収する魔力よりも多くの魔力を消費させ続けなければならないから、まず不可能だと考えられた。
年中無休24時間かかりっきりでさっきのを続けなきゃいけないんだよ~。絶対無理でしょう。
だからぼくは一階で遊んでいないでこのまま進む。
セルフプロテクションの鎧の状態を確認して、いざ二階の攻略を始め――
――ヒュン!
うわぁ、いきなり正面から矢が飛んできた!
魔力の鎧で受けたから大丈夫だけど、下手に避けようとして体勢を崩したら、まだ滑り台になっている階段に突き落とされていたかもしれない。
――ヒュン! ヒュン! ヒュン!
続けざまに矢が飛んできた。魔力の鎧で防ぎきれるけど、受けているだけでは事態は好転しない。
飛んでくる矢を無視して、ぼくは一気に通路を駆け抜ける!
――ズサ!
ヌウォ! 今度は足元めがけて槍が飛び出した!
これも鎧で防げるけど、なんか走り難い!
槍を避けて飛び上がれば矢の集中砲火を浴びるし、槍も足元だけでなく色んな高さで襲って来――うわぁ、下から槍が突き上げてきた!
攻撃のパターンが豊富だなぁ。矢も前からだけじゃなくて色んな方向から飛んで来るし。
ふと気になって後ろを見ると、あれだけ飛んできた矢が床に落ちていない。回収して再利用されているとすれば、際限なく矢が飛んで来ると言うことだ。
魔力の鎧で全部防いでいるけど、このままでは埒が明かない。
雨あられと降り注ぐ矢や槍を魔力の鎧で弾き飛ばしながらぼくは進んで行った。
ジグザグに折れ曲がる通路を道なりに進み、幾つ目かのコーナーをスピードを落とさずに曲がると、その先には真直ぐな通路が続いていた。
そして、あれほどしつこかった矢や槍の攻撃がぴたりと止まった。
「あれ、もう打ち止め……」
――ガコン! ゴロゴロゴロゴロ……
「……じゃなかった!」
通路の前方に突如現れたのは、巨大な鉄球だった。通路いっぱい大きさの鉄球が、こちらに向かって転がってくる!
――バタバタ!
背後を見ると、突当りの壁だった場所が観音開きに開いて、外が見えていた。ああ、空が青いなぁ~。
つまり、鉄球から逃げると屋敷の外に放り出されると。二階にもあったんだねぇ、侵入者を追い出す仕掛けが。
そうこうするうちに鉄球は迫って来る。どうする?
よーし、ここは……セルフレビテーション!
――ゴロゴロゴロゴロ……バタン…………ズシン!
鉄球が外に出るとすかさず壁が元に戻った。そして一瞬間をおいて鉄球が地面に激突する鈍い音が響いてきた。
「よし、やり過ごした。」
ぼくは通路に降りると、ふうと息をつく。
え? ぼくが何処にいたかだって?
通路の天井の端の方だよ。四角い通路に丸い鉄球を転がしたら隅の方に隙間ができるからね。頑張ってへばりついていたよ。
さて、次の鉄球が転がってくる前にさっさと通り抜けよう!
ぼくはダッシュで通路を走り抜けた。
巨大鉄球の通路を抜けると、再び槍や矢による攻撃が始まった。まあ、魔力の鎧で全部防げるけど。
けれど、進むに連れて攻撃が激しくなっていく。防げるけど、これがかなりうっとおしい。
それに、飛んでくる武器が矢と槍だけじゃなくなった。多種多様な武器が襲ってくる。
短剣、長剣、メイス、フレイル、斧、ハンマー、ボーラ、回転する丸鋸、落ちて来るギロチンの刃、振り子のように揺れる巨大な刃、ボウリング玉くらいの鉄球、鎌、十字手裏剣、出刃包丁、金盥。
あらゆるものが飛来し、落下し、跳ね上がり、様々な角度からぼくに突っ込んでくる。
……あれ? なんか変なものも混じっていなかった?
とにかく、数が多すぎて視界が悪くなってきた。
ぼくは盾も展開して視界を確保し、足元に転がる障害物もわきに除けながら先を急いだ。
そしてようやくたどり着いた三階への階段。
もちろんここにも仕掛けがあるから、セルフレビテーションで一気に飛び上が……え?
階段の段の側面にまるで銃口のように穴が開いた。これって……
――ダダダダダ!
やっはり~!
銃じゃないけど、パチンコ玉くらいの大きさの鉄球が連続して飛び出してきた!
銃弾ほどの威力はないし、魔力の鎧で防ぎきれているけど、付き合いきれないからさっさと三階に上がることにする。
アイ、キャン、フラ~イ!
どうにかやってきました、三階。目的地まであともう少し。
この調子でどんどん行こう! ……って、あれ?
通路が左右に分かれている。
ここまでずっと一本道だった。たぶん遠回りさせるために、屋敷内の通路をあちこち壁で塞いで通れる道を限定していた。
これがここにきて迷路にした?
そうだ、レイモンドさんからもらった屋敷の見取り図があるんだった。確認しなくちゃ。
ぼくはアイテムボックスにしまった図面を取り出そうとするが、
『右っス。左の通路は目的地に繋がっていないっス。』
先に阪元さんが答えてくれた。アイテムボックスに仕舞った見取り図は既に確認済みのようだ。
これは助かる。阪元さんがナビゲートしてくれれば分かれ道の度に立ち止まって確認しなくて済む。
『あんまり当てにしない方がいいっス。』
え、どうして?
『この屋敷、設計とずいぶん変わっているっス。設計にない仕掛けもあったっス。』
阪元さんは見取り図だけでなく、何処にどんな魔道具を設置したのかを記した詳細な設計図も把握済みのようだ。
でも、設計図にないなんて、屋敷を建てた後で追加したのだろうか?
レイモンドさんによると、この設計図は三十年前の時点で実際に施工した業者からも裏を取ったからかなり正確なはずらしいのだけど。
『見取り図にない通路もあったっス。見取り図も設計図もあまり当てにならないっス。』
言われてみれば、ここまで来たルートも最初に聞いていたよりも複雑だったような……。
それに、レイモンドさんに聞いていた中にない攻撃もしてきたような……。
夢中だったから、よく分からん。
とにかく、注意しながら進むしかないかな。
『俺っちも、できる範囲でサポートするっス。』
方針も決まったことだし、さっそく右の通路に……
――バシン!
え? 何? 今の?
攻撃された? いきなりかい!?
魔力の鎧で防ぎきったけど、って、もう次が来ている!
火の球が二個三個と、続けざまに向かって来る!
これは魔法攻撃!? 屋内で火を使うの!?
ぼくは飛んでくる火の玉を避けながら、右の通路に飛び込んだ。