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第四話 指パッチンができないから魔法が使えなかった

 「それじゃあ、リョウヘイ君もやってみようか。」

 そう言って、エリーザさんは一冊の本をぼくに手渡した。

 「その本には魔法文字と基本的な魔法の魔法術式が書いてあるわ。読んで勉強するといいわよ。」

 魔法の教本(テキスト)だった。

 「そいつは買い直すと結構高いから、失くしたり汚したりするなよ。あと、冒険者ギルドの外への持ち出しも禁止な。」

 おっさんが釘をさす。そっか、本が高価な世界なのか。『渡り人』は印刷技術とか伝えなかったのかな? まあ、印刷技術があっても専門書は高いか。

 「最初は光を出す魔法を試してみましょう。これなら失敗しても危なくないわよ。」

 エリーザさんはさっきの本をめくり、あるページを開いた。

 「これが光を表す魔法文字、ルクスよ。この一文字だけの魔法術式を書くの。こんな感じよ。」

 エリーザさんはささっと魔法文字を書くと指を鳴らした。すると空中に光る球が現れた。特に熱も発していないようだし、確かにこれなら安全だ。

 安全なのに、ルークさんもおっさんもどうして下がるんですか?

 まあいいや、とにかくぼくもやってみる。

 まずはエリーザさんを真似して指先に魔力を集めてみる。うーん、こんな感じかな? あ、指先が光った。成功だ。

 あとはこの魔力をインクのように使って魔法文字を書くだけだ。ルクスの魔法文字はそんなに複雑じゃないから簡単に書ける。

 こんな感じかな。おお、本当に空中に文字が書けた!

 「うん、ちゃんとできているわね。あとは発動子――指先に魔力を込めたまま指を鳴らせば魔法が発動するわよ。」

 よし、これでぼくも魔法使いだ。指先に魔力の光が灯っていることを確認して、ぼくは指を鳴らした。


 ――スカッ!


 あ、あれ? 鳴らない。当然魔法も発動しない。


 ――スカッ!

 ――スカッ!

 ――スカッ!


 しまった、ぼくは指パッチンができなかったんだ!!!

 どうしよう?


 「あの~、指を鳴らすのってどうやるんですか?」

 恐る恐る、エリーザさんに聞いてみる。

 「え?」

 「え?」

 あれ、なんだろう、指パッチンできないことが信じられないみたいな空気。

 「ちょっと見せて。」

 エリーザさんが慌ててぼくの手を取る。

 ああ、エリーザさんの手、柔らかいな……じゃなくって。

 「うーん、特に怪我をしているわけでも、指の長さがおかしいわけでもないわねぇ。」

 怪我をするか、指の長さが極端に長いか短いかしない限り鳴らせるのが当然みたいだ。

 ぼくは助けを求めるようにルークさんの方を見る。

 「指を鳴らす方法? そんなもの考えたこともなかったな。」


 ――パチン!


 ルークさんはあっさりと指を鳴らして見せた。

 「魔法使いの真似は子どもの定番の遊びだからな。だいたい物心つく頃にはできるようになっているんじゃないか。」


 ――パチン!


 おっさんまで、華麗に指を鳴らして見せた。

 もしかして、指パッチンのやり方教えてくれる人はいないの?


 ――スカッ!

 ――スカッ!


 ルークさんやおっさんの真似をしてみるけれど、やっぱり鳴らない。

 魔法文字はまだ消えていないけれど、魔法は発動しない。

 大魔法使いへの第一歩が、こんなところで躓いてしまうとは。本当に、どうしよう。


 「何か、何か他に方法はないんですか? 指を鳴らすところだけ他に人にやってもらうとか。」

 「発動子は魔法術式を書いた本人が、自分の魔力を込めて鳴らさなければ駄目なのよ。」

 「じゃ、じゃあ、指を鳴らさずに魔法を使うことはできないんですか?」

 「魔法術式を書いて、発動子で発動するのが魔法の基本なのよね。発動子無しでできることはほとんどないわ。そうそう、チュウニビョウ派の人たちも結局は魔法術式を書いて発動子で発動しているわよ。」

 くっ、やっぱり指パッチンできないと駄目なのか。

 「重罪を犯した魔法使いに対して、両手の親指を切り落とす刑罰があったな。指を鳴らせなくなるとほとんどの魔法が使えなくなるらしい。」

 おっさんが怖いことを言う。想像しちゃだめだ。想像しちゃだめだ。想像しちゃだめだ。

 「発動子無しで効果があるものというと、まずはこれね。癒し(サニターテム)の魔法文字を書いて、そこに魔力を流し込むのよ。」

 空中に書いた魔法文字が輝きだし、魔力の光がエリーザさんを覆った。

 「これはセルフヒーリングと言って、怪我やダメージからの回復効果があるわ。手を怪我して魔法が発動できない状態でも使えるから、非常用に覚えておくといいわよ。」

 よし、これでぼくも回復魔法の使い手に……

 「ただ、魔法として発動するよりも効果は落ちるし、自分に対してしか効果がないのよ。」

 残念。味方を回復できなければ回復魔法使いとは呼べないよね。

 一応試してみたけれど、怪我をしているわけでもないのでよく分からなかった。エリーザさんの時と同じように魔法文字が輝いていたから成功したとは思うけど。

 「それから、守護(カストス)の魔法文字に魔力を流し込むもの。簡単な魔法の防壁を作ることができるわ。」

 エリーザさんがやって見せると、魔法文字の辺りに半透明の壁のようなものが現れた。

 「セルフプロテクションと言うのだけれど、魔法として発動するよりも弱いし自分の目の前にしか出せないわ。これも緊急避難用の技術ね。」

 うーん、うまく立ち回れば仲間を守ることができるだろうけど、魔法使いが壁役(タンク)をやるのはどうなんだ?

 とりあえずぼくも試してみよう。えーと、守護(カストス)の魔法文字を書いて、魔力を流し込む、と。できた!

 「なに、これ? こんなに魔力の密度が濃いのは初めて見たわ。」

 あれ、エリーザさんが驚いている。そういえば、エリーザさんの出した壁よりも大きくて厚いみたいだ。

 「へー、なかなか頑丈そうだなぁ。」

 ルークさん、壁を殴るのは良いけど、剣で切りつけるのは止めて、恐いから!

 「この手の魔法は込める魔力によって効果が変わると聞いたが、そのせいか?」

 「たぶんそうだわ。魔法適性が高くて魔力が多いから、並の魔法使いが発動した魔法よりも強力になっているのね。」

 エリーザさんとおっさんがそんなことを話していた。ふっ、こんなところでぼくの才能が現れてしまったな。

 それはそうと、ルークさん、そろそろ止めてもらえませんか?

 「それでは次へ行きましょう。次は強化(フォルティス)の魔法文字を使ったセルフブーストよ。」

 エリーザさんはまた別の魔法文字を書いて魔力を込めた。

 「一時的に身体能力を向上させることができるのだけど、やはり自分にしか効果がないし、魔法として発動した場合よりも効果が弱くなるわ。」

 そんなことを言いつつ、好奇の視線がぼくに集まる。先ほどの例からすれば、ぼくが同じことをすると効果が大きくなる可能性がある。

 ということで、さっそく試してみる。魔法文字を書いて、魔力を注~入~。

 おお、なんか体か軽い! 試しに軽くジャンプしてみよう。


 ――ビヨ~ン。


 うわぁ、その場で軽く跳ねただけなのに、五メートルくらい跳んでいるよ!

 屋根のない場所で良かったよ。屋内だったら、天井に頭をぶつけていたね。

 「やっぱり、物凄く強力になっているわねぇ。これでちゃんと魔法が発動できれば……」

 ぼくがやれば結構強力になるみたいだし、もしかして指パッチンできなくても魔力のゴリ押しでどうにかなる?

 「他にはどういうものがあるんですか?」

 「これだけよ。」

 「え?」

 「最初に言ったように、発動子無しで使える魔法はほとんどないの。今教えたものも、厳密には魔法とは呼ばれないのよ。」

 うーん、やっぱり指パッチンできないと魔法使いとは呼べないらしい。

 それに、今教わった魔法(?)では多少規格外でも、魔法使いというよりも……

 「リョウヘイ、剣士にならないか? 超強化した身体能力に、頑丈な防壁、自己回復もできれば前衛が務まる。」

 ルークさんがにこやかに言う。

 そうなんだよね。あれを魔法だと言い張っても、できることは前衛職。強化した肉体で物理で殴って、防壁を張って身をもって仲間を守る。それで怪我をしたら自分で回復する。

 それで大活躍できても、魔法使いとはなんか違う~。

 それに、ルークさんよりもエリーザさんと訓練したいし~。(ここ、重要!)

 ――やはり汝には詠唱魔法しか残されていないようだな。

 あ、さっきぶり。這いよる黒歴史さん。

 ――変な名前を付けるでない! それはとかく、あの女のやり方では駄目なことが判明したのだ。もはや汝には詠唱魔法に賭けるしか残っておるまい。急ぎこの世界の同胞の元に向かうのだ。

 え~、やだよ~。そもそも中二病派の人も、詠唱でなくて魔法文字と指パッチンで魔法を使っているんだから意味ないよ。

 ――くっ、気付いておったか。

 そりゃあ、ぼくだって魔法を使いたいからね。問題があっても可能性があるならば詠唱魔法も検討するんだけど。

 ――だが、あの女に付いて行っても意味はあるまい。

 そうでもないよ。指パッチンできるようになればいいだけだし。

 それにもう一つ気が付いたんだ。ルークさんに剣術を習って、指パッチンもできるようになれば魔法剣士を狙える!

 ――魔法剣士か、……それもまた甘美な響きだ。よかろう、我も暫くは見守るとしよう。

 はいはい、期待してね~。

 ……目指すのは中二病じゃなくて、リア充だけどね。

 「剣士になるかどうかは別として、ルークに基本的な体の使い方、戦い方は教わっておくとよいだろう。それに、セルフブーストもちゃんと使いこなせるように練習が必要だしな。」

 おっさんがまとめて、なんか方針が決まった。ぼくも特に異存はない。

 「まあ、あとは明日で良いだろう。リョウヘイは当面はギルド寝泊まりしてもらう。ルーク、部屋に案内してやってくれ。」

 この日はこうして終わった。


皆さんは指パッチンできますか?

私はこの話を思いつくまでできませんでした。

今の世の中便利なもので、ちょっと検索するとやり方を教えてくれる動画とかが見つかります。

けれども、誰にも正しいやり方を教えてもらえない状態で、自力で指を鳴らせるようになるかといわれるとちょっと自信がありません。

亮平が魔法を使えるようになるのは簡単なことではありません。指パッチン以外は才能あふれているんですけどね。

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