表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/62

第三十九話 亮平、家を買う。 その1

 突然だが、家を借りようと思う。

 現在ぼくは冒険者ギルドの保護下にあるため、冒険者ギルドの建物内の一室を無料で借りて寝泊まりしている。

 しかし、この『渡り人』の保護制度はこの世界の常識に疎く、頼る身寄りもいない『渡り人』が自立できるように支援するのが目的のセーフティーネットだった。

 初代国王が同胞である『渡り人』を保護しようとしたという面もあるけれど、特異な能力を持った『渡り人』犯罪者として活動することを防ぎ、その能力を正しく社会に役立てること、という大義名分で今まで続いている制度なのだそうだ。

 いずれはぼくもギルドの保護下から自立しなければならない。

 まあ、ギルドの保護期間は一年間でまだその四分の三以上残っているし、ギルドマスターが認めれば延長もできるらしいのでそう慌てることはないのだけれど。

 それでも、ギルドの保護下にあるうちはギルドの建物に住まなければならない決まりがあるわけではない。お金に余裕があるならば、他の冒険者のように宿屋に泊まったり、家を借りて住んだりしても良い。

 これも自立のための訓練みたいなものだ。

 別にリントに定住すると決まっているわけでもないし、住居は後回しで良かったんだけど、アイテムボックスが使えるようになって引っ越しが楽になったことと、色々あってお金に余裕ができたことで家を借りることを考えるようになった。


 話は強制依頼とその後の解体祭りが一段落したころに遡る。

 ぼくはおっさんから言われたのだ。

 「あの爆音石をギルドに売らないか?」

 なんか、予想以上に好評だったみたいだった。

 ぼくとしては魔道具(マジックアイテム)作成の練習と、何かの時の護身用になればくらいの気持ちで作ったものだった。それにしては作り過ぎたけど。

 しかし、第一線で戦っている冒険者からするとまた違った感想が出てきたみたいだ。

 この前やったみたいに隠れている魔物を燻り出したり、魔物の群れを攪乱したり、注意を逸らしたりと色々と使い方は考えられるんだそうだ。

 殺傷能力は皆無だし、そこまで使えるとは思ってなかったよ。ぼくが使ったら音と光で魔物を呼び寄せるだけな気がする。

 まあ、冒険者の先輩方の役に立つのなら、ついでにぼくも楽に小遣い稼ぎができるのならばと、その時は軽い気持ちで引き受けたんだけど……。

 この話をレイモンドさんが嗅ぎ付けた。商人の嗅覚、侮りがたし!

 レイモンドさんが介入したことで話がまた大きくなった。

 レイモンドさんは、それほど有用なアイテムならばリント以外の冒険者にも供給すべきと正論を言って、爆音石の独占販売権を得ようとした。

 冒険者ギルドと大商人の息詰まる攻防の中、ぼくが魔道具(マジックアイテム)を作れることがばれてさらに混乱したりもした。

 まあぼくについては、阪元さんにもらった本を見せたらそれ以上追及されなかった。魔道具(マジックアイテム)の作り方自体は特に極秘でもなかったみたいだ。

 問題になったのは、必要な数、生産量だった。

 リントの冒険者だけならぼくが頑張れは何とかなるけど、国中の冒険者に行き渡る量をぼく一人で作るのはちょっと無理だ。

 レイモンドさんとしては、大量の爆音石を供給して価格を下げ、冒険者に気楽にジャンジャン使ってもらいたいらしい。消費が増えれば低価格でも売り上げは増えるという算段だ。

 薄利多売だねぇ。いや、大量生産大量消費かな。

 「いやー、まさか魔道具(マジックアイテム)を使い捨てるという発想はありませんでしたなぁ。」

 「全くだ。儂もまさか魔道具(マジックアイテム)だとは思わんかったぞ。見た目もただの石だったからな。」

 魔道具(マジックアイテム)というものは高価なもので、新規開発する場合でもなるべく付加価値を付けたり素材やデザインにこだわってより高価なものを作ろうとするから、使い捨て出来るほど安い魔道具(マジックアイテム)という発想自体がなかったみたいだ。

 ぼくもあんまり魔道具(マジックアイテム)を作っているという意識はなかった。魔法倉庫(マジックストレージ)の練習中にたまたまできた副産物だったし。

 ぼくは意図せずとんでもないものを作り出したのかもしれない。

 作るのは簡単だけど、さすがに数多くの冒険者が大量消費したらぼく一人では生産が追い付かない。

 もしも高値がついても欲しがる者が出るほどの人気商品になると、高値安定して高級品になってしまう。

 そうなると最悪、怪しげな組織に拉致監禁されて、延々と爆音石を作らされる未来が待ち構えているかもしれない……とおっさんとレイモンドさんから脅されてしまった。

 なんだか面倒なことになりそうなので、ぼくは爆音石の作り方を公開することにした。石に刻印する魔法術式さえあれば誰にでも作れるからね。

 考えてみれば、そんなに難しい魔法術式でもないし、現物が出回り始めたら誰かが真似して作るんじゃないだろうか?

 うん、ここで公開しちゃったぼくの判断は間違っていない。

 ぼくが爆音石のレシピを書いて渡すと、レイモンドさんは大喜びで知り合いの魔道具(マジックアイテム)工房に作らせると言って張り切っていた。当然テイラー商会の独占販売で、売り上げの一割がぼくに入って来ることになった。

 ロイヤリティーだよ~。不労所得だよ~。レイモンドさんの目論見が成功すれば、これだけで毎月金貨数枚以上の収入になるらしい。それだけあれば働かなくても生活して行けるよ。

 ついでにリントの冒険者ギルドはぼくと直接取引できることになったから、爆音石職人やって稼ぐこともできる。

 そんな話が、ぼくの頭越しに、レイモンドさんとおっさんの間で決まって行った。まあ、ぼくに話を振られても困るんだけど。


 そんなこんなで、ぼくは今かなり懐が温かかった。

 レイモンドさんからのロイヤリティー収入が入るのはまだ先のことになるけど、この前の強制依頼と解体祭りでだいぶ稼いだからね。

 ギルドの口座の残高見たら、金貨五十枚分くらいになっていた。それ以前に稼いでいた分は銀貨百枚ちょっと、どうにか金貨一枚相当だったから、あの一回の強制依頼だけでほとんどを稼いだことになる。みんな張り切って参加するわけだよ。

 あの時は荷物持ち要員だったはずなのに無茶苦茶働いたからねぇ。ちゃんと魔物討伐の報酬も上乗せしてもらったよ。あれだけたくさん魔物を倒したのに荷物持ちの報酬だけとか言われたら怒っていいよね。

 しっかし、四泊五日の強制依頼とその後の解体祭りも合わせて半月もないんだよ。その短期間で五百万円近く稼いじゃったんだからすごいよね。マグロ漁船にでも乗せられた気分だよ。

 冒険者の先輩方は破損したり摩耗したりした武具を修理したり新調したり、使った消耗品を補充したりと報酬から必要経費を差っ引く必要があるみたいだけど、魔力でゴリ押ししているぼくにはそう言う出費もないし。

 そう言えばいいかげんぼくも冒険者っぽい装備買わなきゃいけないなって思っていたんだっけ。

 そんな感じでぼくは装備を買いに出かけた。行先はテイラー商会だ。冒険者相手に手広く商売しているテイラー商会は冒険者の装備についても詳しいそうだ。

 ちゃんと買って来たよ。魔法使いっぽいローブと杖。それっぽい格好ができればいいだけだから、安物だけどね。

 それで、その時にレイモンドさんに言われたんだ、この際だから自宅を手に入れないかって。

 確かに安定して爆音石のロイヤリティーが入るなら家賃を滞納する心配はない。ギルドの二階の部屋は狭いしプライバシーはないし、永く住み続けるところじゃないからね。

 ただし、ぼくはまだ冒険者ギルドの保護下にあるので勝手に転居することはできない。事前にギルドマスターの許可を得る必要があるし、転居先あるいは宿泊先を明示することや定期的にギルドに顔を出すことなど色々と決まり事がある。

 なので一度ギルドに引き返しておっさんに話したところ、あっさりと許可が下りた。レイモンドさんの紹介した物件に住むことを条件にして。

 どうも根回しが済んでいたらしい。後から考えると、この時点で疑うべきだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ