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第三十五話 強制依頼 その4

 一夜明けた。

 今日も朝早くからみんな忙しく動く。今日が本番だからね。

 朝食も早々にすまして、いち早く出発したのはルークさん達森の中に入って魔物を追い立てるチームだった。

 二手に分かれて街道から東の森に入り、魔物を北に追い立てる作戦だ。

 馬車は昨日のうちに帰してしまったけど、一流の冒険者が本気を出せば馬車よりも速いのだそうだ。

 まあ、昨日の馬車は大量の荷物を運ぶための荷馬車で、速度はそれほどでないものだったみたいだけど。

 森に入る一行を見送った後、残ったメンバーはおっさんを中心に軽くミーティングを行った。

 残りのメンバーの仕事は、追い立てられて東の森から出てきた魔物をガンガン倒して行くことだ。

 そのために東の森の北側を包囲するような形で冒険者を配置する。人数が要るわけだよ。

 こちらはそれほど強くないEランクや、上のランクのパーティーに混ざってきたFランクの冒険者もいるけれど、東の森の魔物はそれほど強くないから問題ないらしい。

 そもそも南の森の奥の方が豊かで魔物にとって住みやすい環境なのだそうだ。その住みやすい環境から縄張り争いに巻けて追い出されたり、生存競争に参加できないほど弱い魔物が流れ着いたのが東の森なのだ。

 さらに森の中に適応した魔物だけに、森の外に出ると一段脅威が下がるのだそうだ。だから森の外で戦えばEランクの冒険者でも安定して狩ることができる。

 それでも一度に多くの魔物が出てきたり、強い魔物が混ざっていたりと不測の事態はあり得る。そのような場合に備えて、ベテランの冒険者がフォローに回れるように配置する、というのがおっさんの采配らしい。

 各冒険者や冒険者パーティーはそれぞれ割り当てられた場所へ赴き、森から出てくる魔物を待つことになる。

 他にも伝令役とかベースキャンプを守る役とか、自分の担当を確認すると、それぞれ移動を開始した。

 みんな、頑張ってね~!


 あっれぇ~、おっかしいなぁ。

 今回ぼくは非戦闘員だよねぇ。

 ベースキャンプでお留守番じゃないのぉ~?

 いや、まあ、ベースキャンプを出て戦場近くに来ること自体は分かる。

 ぼくは予備も含めて結構な量の物資を抱えている。何かあった時に即座に取り出せるのは心強いだろう。

 でも何で森のすぐそばで魔物が出て来るのを待ち構えているの~!

 こんなの絶対おかしいよ!

 「いやー、リョウヘイの守りの固さはルークも認める異様さだからな、東の森の魔物くらいじゃあ破れないさ。実戦経験を積むには良い機会だろう。」

 そりゃまあ、本気で守ればそうそう攻撃食らわないと思うけど。

 それと、ぼくの実戦デビューは薬草採取の依頼をやった時に済ませているよ!

 「それに、やっぱり人手が足りなくてなぁ。ここに一人いてもらうと、儂が全体を見る余裕ができるんだよ。」

 おいぃぃ~!

 これがおっさんの采配! 大穴開いてるじゃないか!

 「ギルマス~、全員配置、完了したよ~!」

 そのとき一人の冒険者が飛んできた。あの特徴的な姿はドミニクさんだ。

 ドミニクさんの種族はハーピー。文字通りの意味で空を飛んできたのだ。

 ゴブリンのニコライさんと同様、国によっては亜人種どころか魔物扱いされることもあるらしい。もちろんこの国ではちゃんと市民権を持った国民の一員だよ。

 空を飛べるから偵察や伝令などで活躍しているんだって。今回も広い範囲に散らばった冒険者たちの様子を確認してまわったらしい。

 「よし、これより作戦を開始する!」


 ――パーン!


 おっさんの言葉と共に、エリーザさんが空高くに魔法を放つ。

 上空で弾けた火球は大きな音を立てるとともに、分裂した炎がしばらくその場で燃え続ける。

 これは森の中に入った精鋭チームに対する合図だ。

 魔物を殲滅する作戦が、今始まった。


 まあ、作戦が始まったからと言ってすぐに魔物が飛び出してくるわけではない。

 たぶん今頃ルークさん達は大暴れしているんだろうけど、追い立てられた魔物が出て来るまでにはまだちょっと時間がかかる。

 南の森に比べれば小さいと言っても、東の森もそれなりに広い。

 しばらくは待ちだ。

 ………………。

 …………。

 ……。


 暇だ~。

 ………………。

 …………。

 ……。


 でも緊張を解くわけにはいかないんだよね~。突然魔物が出て来るかも知れないし。

 ………………。

 …………。

 ……。


 「そろそろだな。」

 おっさんがぼそりと呟く。前回もおなじようなことをやっているから、大体の見当がつくみたいだ。

 「もうすぐ魔物の第一波が来るよ~!」

 偵察に出ていたドミニクさんが魔物を見つけたらしく、飛び回って警告している。

 ぼくは木の棒を取り出し、セルフプロテクションを張り直す。

 それから目を凝らして森の方を見据える。

 ここからはまだ魔物の姿は見えないけれど……なんだか森がざわめいて見える。

 そして――

 「キキー!」

 「キキキー!!」

 森から魔物が飛び出してきた! って、またイエローモンキー(おまえら)かー!

 森から出てきた猿たちは、近くにいたぼくに向かって殺到してきた!


 魔物と普通の動物の見分け方の一つに、「人を見たら襲ってくるのが魔物だ!」というものがある。

 乱暴な話だよね~。野生の動物だって様々な理由で人を襲うこともあるし、魔物の中にもこちらから手を出さない限り襲ってこない奴もいる。

 でも、多くの魔物が人を見たら取り敢えず襲ってくることも事実。その習性を利用して今回の作戦は立てられていた。

 リントの冒険者を全員集めても東の森を完全に封鎖することは不可能。

 森の中で魔物を追い立てている精鋭の冒険者にしても、ある程度の誘導はできても狙った一点に追い込むことは難しい。

 そこで東の森の北側に一定間隔で冒険者を配置し、襲い掛かってくる魔物を返り討ちにすることにしたのだ。

 つまり、東の森近くで待機していた冒険者は、魔物を引き寄せる囮なのだ!

 でもさ~、ぼくは一応魔法使いなんだよ~。魔法は使えないけど。後衛なんだよ~。

 ついでにまだFランクなんだよ~。他の場所じゃあCランクやDランクの人が魔物を引き付けて、Eランクの人は後ろらかちまちまと攻撃するんだって言ってたよ~。

 なんでぼくは魔物の真正面に一人いるんだよ~。

 うん、まあ、分かってはいるよ。おっさん曰く、「リョウヘイが一番守りが固いからなぁ。」だそうだ。

 そりゃあ、猿の攻撃くらい魔力の鎧でも完全に防ぎきるよ。本気で守りに徹すればもっと強力な魔物相手でも防ぎきれると思うよ。

 でもなんか納得いかない~!


 えい! やー! とりゃあー!

 木の棒を一振りすれば一匹、場合によっては三匹くらいまとめて猿が吹っ飛び、そのまま動かなくなる。

 ただの木の棒と侮るなかれ。魔力の鎧に覆われて強化された木の棒は、折れない! 曲がらない! 挫けない! とにかく頑丈だ。

 重量が無いから一撃の威力は低いんだけど、それでもセルフブーストで強化した筋力でぶん殴れば猿ごとき一撃で沈む。

 猿、弱い! そして頭悪い!

 仲間が次々倒されても一切気にせずただ突っ込んで来るだけだよ。

 だからぼくは突っ立ったまま木の棒をテキトー振り回すだけで勝手に猿が死んで行く。

 もう、戦いじゃなくて作業だよ~。

 おっさんもエリーザさんもぼくの方は心配ないと言って、他の場所で応援が必要ないかと、そっちばかり気にしているよ。

 少しは手伝ってくれてもいいんだよ?

 まあ、今の倍のペースで猿が押しかけてきても一人で十分に殲滅できそうだけど。

 ちなみにおっさんの武器は弓だ。そう言えばおっさんはエルフだったんだね、忘れてたよ。矢はアイテムボックスに入れて山ほど持って来たから、尽きる心配はほぼ無い。危なそうな冒険者がいたら遠距離射撃で援護するんだって。

 それにしても……。

 相手の強さも気にせずに人を見れば突っ込んで来る猿が、追い立てられて逃げ出してこっちに来たんだよねぇ?

 ルークさんたち、どれだけ強いの!?


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