第三十二話 強制依頼 その1
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冒険者ギルドに所属する冒険者には、ギルドから受ける幾つかの特典と引き換えに義務も負うことになる。
例えば冒険者ギルドの規則に従わなければならないというのも義務の一つだ。
まあ、面倒な規則をごちゃごちゃと作っても冒険者が守れるはずもない、ということで簡単な規則しかないのだけど。
それから、強制依頼と呼ばれるものがある。これは冒険者ギルドがその場にいる冒険者に対して出す依頼で、冒険者は原則断れない。
もちろんそんな依頼が出ることは珍しいし、正当な理由なく断った時のペナルティーは事態の重要性・緊急性に応じるから、断れないほどの強制依頼が出されることは滅多にない。
それに、強制依頼の対象は主に高ランクの冒険者で、最低ランクのFランク冒険者は対象外。
そう聞いていたんだけど……
「皆よく集まってくれた! これより今回の強制依頼について説明する!」
ぼくは今、おっさんに連れられてその強制依頼の説明会に参加していた。
ぼくはまだ対象外のFランクなんですけど~!
「知っての通り、今南の森の奥で何やら異変が起こっている。詳細は調査中だが、南の森全体で魔物が活性化している。」
ぼく知らないんですけど。パーティー組んでも森の中の仕事はするなとしか言われていないんですけど!
「そしてその影響は東の森にまで出ている。魔物が増加、狂暴化し、このままでは近いうちにリント及び周辺の開拓村にも影響が出るだろう!」
そう言えばレイモンドさんも、このところ東の森を迂回するか強い護衛を付けて通る必要があるから、開拓村への商品の輸送が滞って困るって愚痴ってたっけ。
「そこで第二回東の森掃討作戦を行うこととする!」
ん? 第二回? 前にもやったのかな?
「前回の掃討作戦からそれほど日が経っていないが、南の森から流入したらしくもう魔物の数が増えている。前より強い奴がいる可能性もある、注意しろよ。」
……?
ああっ! 以前大量の猿の魔物を解体した時の!
凄い数の魔物の死体が持ち込まれたのって、強制依頼で大勢の冒険者を動員したからだったんだ!
「今回も事態を重く見た辺境伯がしっかり予算を付けてくれた! 報酬は期待していいぞ! みんな、親ばか領主様に感謝しろよ!」
冒険者ギルドは国や領主の支配下にあるわけじゃないから、領主の命令を聞く必要はない。ただ、冒険者ギルドの協力が必要な場合は依頼を出すのだそうだ。
領民を魔物の被害から守り、安全を確保するのも領主の務め。特に溺愛する娘の安全もかかっているとなれば気合も入ろうというもの!
普段の報酬よりも割増しになるから、みんな張り切っているんだって。
「そして今回は、魔法倉庫持ちのリョウヘイがいる! 行き帰りがだいぶ楽になるぞ!」
え、ぼく?
そうか、おっさんも荷物持ちとしてぼくを連れてきたのか!
み、みんなの視線が集まって、ちょっと怖いんですけど~!
『お兄さん、大人気っスね。』
本当は阪元さんの管理するアイテムボックスが大人気なんだけどね!
「ただし、リョウヘイはまだFランクだ! 強制はできない! 参加するかどうかは本人の意思次第だ!」
ちょ、ちょっと~。そんなこと言ったら……なんか圧迫感が怖いんですけど~!
「「「「「リョウヘイさん、お願いします!」」」」」
結局断れなかった。
いや無理でしょ、あれ。
お世話になっているベテラン冒険者から、いつも先輩風吹かせているいかにも荒くれ者な冒険者まで、揃って頭下げるんだよ~。
断れないよ~。
今日は一つ勉強したよ~。冒険者にプライドは不要! 使えるものは何でも使え!
「作戦は前回とほぼ同様だ。まず東の森の北側、この位置にベースキャンプを設置する。」
おっさんは地図を指しながら説明を続けた。
「ベースキャンプで一泊し、翌日早朝から作戦を開始する。日が落ちるまでには終わらせるぞ!」
夜の森は危険らしいからね。
夜間の戦闘になったりしたら、セルフライティングの出番か? やりたくね~。
「最初はAランク、Bランクを中心にした精鋭が森に入り、適当に倒しながら魔物を追い立てる。残りは森の外で待機し、森から出てきた魔物を殲滅する。以上だ!」
なんか大雑把な作戦だった。
冒険者の場合、気心の知れた少人数のパーティーならともかく、大人数で綿密な計画を遂行するのは無理だから、大雑把で上手くいく計画を立てるのがポイントなんだそうだ。
そんな話を後から聞いた。
「想定外の強さの魔物が出たら作戦を中止して一時撤退もある。戦闘に夢中になって取り残されるなよ!」
想定外の何かがあった時に一番危ないのが森の中で魔物を追い立てる役の人で、だからこそいざという時に切り抜けられる実力の持ち主が担当するんだそうだ。これも後で聞いた。
Aランクのルークさんはもちろん森の中に入ることになる。一方同じAランクでもエリーザさんの魔法は広いところで使った方が有効ということで、森の外で待機になった。
広域殲滅魔法を森の中でぶっ放すわけにはいかないからね。
他にもニコライさんなんかは戦闘力よりも森の中の隠密行動に長けているとかで、精鋭チームの連絡係的なことをするらしい。
こんな感じで、実力者を中心に役割が割り振られて行った。
ぼく?
もちろん森の外だよ。
ぼくの役割は最初から荷物持ちだから、仕事は作戦の始まる前と後だけだよ。
戦闘要員じゃないからね。
「出発は明日の朝だ! 馬車を用意するが、遅れた奴は歩いて来い!」