第三話 魔法を教えてもらう
・2022/2/15 誤記修正
そんな話をしていると、職員の人がやって来ておっさんに書類を渡した。結果が出たみたいだ。
「ほう、さすがは『渡り人』だな。」
おっさんが書類を見ながら感心した声を出す。
「魔力量二十一万五千。魔法適性SSS。こいつは、間違いなく大魔法使いになれるぞ。」
おお、大魔法使い! 異世界といったらやっぱり魔法だよね。
「凄い、魔力量が私の百倍以上! それに、魔法適性SSSなんて初めて見た……」
魔法使いであるエリーザさんが驚いている。
「そんなに凄いんですか?」
「ああ、凄いぞ。エリーザはこの国でも五本の指に入る一流の魔法使いだ。そのエリーザの魔力量は二千強、魔法適性はAだ。」
おっさんが補足する。
「魔法適性は一ランク上がるとだいたい消費魔力が半分になる。つまり、お前は一流の魔法使いの八百倍の魔法を使うことができることになる。」
八百倍! なんか、本当に凄そうだ。
「せっかくだから、このままエリーザに魔法を教わるといい。」
エリーザさんに連れられて、建物の裏側へとやって来た。ここは冒険者向けの練習場になっているのだそうだ。
あまり危険な魔法を試すわけにはいかないけど、基本的な魔法の練習くらいならば十分にできるということでここに来たのだ。
エリーザさんの他にルークさんとおっさんも付いてきているのだけど、暇なのだろうか?
まあ、それはともかく、魔法だよ! これでぼくも魔法使いの仲間入りだ。
「魔法というと、やっぱり呪文を唱えたりするんですか?」
「え? えーと、そういう人もいることはいるけれど……」
あれ? 何気なく聞いただけだったんだけど、なんかエリーザさんの歯切れが悪い。
あ、もしかして、実戦でいちいち呪文を唱えている暇はないから、無詠唱が基本とかいう話かな?
「魔法で呪文というとあれか。魔法を使う前に謎のポエムを披露したり、やたらと気障にポーズを取る連中。確か……チュウニビョウ派とか言ったか。」
おっさんも心当たりがあるらしく、そんなことを言う。
それにしても……チュウニビョウハ?
中二病派!?
なんか色々と分かってしまったかもしれない。
でも念のためもうちょっと確認しよう。
「呪文を唱えることで魔法の威力が増したりとか、制御しやすくなるといったことは……?」
「魔法の手順を文章にして憶えることはあるけれど、あの人たちの呪文も動作も魔法には何の関係もないものなのよねぇ。」
「確かあいつら、格好つけるためだけに台詞やポーズを研究しているって話だ。」
ルークさんも補足する。結構有名らしい。
でもなんか確定みたいだ。この世界にもいるんだ、中二病患者。命名には日本から来た『渡り人』が関係していそうだけど。
だが残念、異世界の同胞たちよ。ぼくはもう中二病は卒業したんだ。
――果たしてそうかな?
ハッ、その声は、我が心の声!
なんか久しぶり~、元気してたぁ?
――軽いな、おい! だが、我が声が届く以上はまだその精神は残っているはず。さあ、偽りの安寧を捨てて、魂を開放するのだ!
くっ、……確かにぼくにもまだ中二の心は残っているのかもしれない。
だが、断る!
まだ見ぬ異世界の同胞よりも、ぼくは目の前の色っぽいおねーさんを選ぶ!
――色香に迷ったか! だが甘いぞ、彼女は単なる教育係、汝に気があるわけではない!
ふっ、そのくらい百も承知さ。だがぼくには大魔法使いになれるだけの才能があるんだ!
エリーザさんに教わって真面目に修行すれば、一流の魔法使いになれる。そうすれば、リア充一直線だ。はっはっはっ。
――くっ……。だが忘れるな、我は常に汝と共にある。いずれまた世界の深淵へと誘わん……
はいはい、まったね~。
「エリーザさんのやり方でお願いします。」
「魔法を行使するためには、まず魔法文字を書くのよ。」
エリーザさんは右手の人差し指を立てた。あれ? 指先が光っているような。
そして、エリーザさんが指を走らせると……
「あっ、空中に文字が!」
エリーザさんの指先の光が、空中に軌跡となって残り、不思議な文字を描いた。
「さすがは魔法適性SSSね、最初から魔力が見えるなんて。」
エリーザさんがちょっと驚いてぼくを見た。
「今書いて見せたのが魔力で書いた魔法文字よ。普通は魔力を見る練習から始めるのだけど、それは必要なさそうねぇ。」
ああ、光っているのが魔力なんだ。魔力を見る練習とかも、やらなくて済んでラッキー。
「これは火を表すイグニスの魔法文字よ。魔法文字で使う魔法の内容を記述するの。そして――」
――パチン!
エリーザさんが指を鳴らすと、空中に火の玉が現れた。
「こうやって魔法を発動するのよ。」
なるほど、呪文の出番がなかった。声じゃなくて、文字で魔法を操るんだ。
「魔法文字で魔法の内容を記したものを魔法術式と呼ぶわ。使用する元素や魔法系統に、具現化する形状、動作なんかを記述していくのよ。発動時のイメージでもある程度代用できるけど、詳しく書いた方が必要魔力が少なくて済むわ。」
そう言いながら、エリーザさんは次々に魔法文字を書き連ねて行く。
――パチン!
再びエリーザさんが指を鳴らすと、今度は火が細長い棒状になって、少し離れた場所にあった的に向かって矢のように飛んで行った。
いかにも攻撃魔法って感じだね。
「注意する点は、書いた魔法文字が消える前に発動すること。魔法適性が高いと魔法文字が消えるまでの時間も長くなるわよ。」
エリーザさんの書いた文字は、一分くらいの間消えずに光っていた。それよりも長い時間があるならば、余裕をもって魔法文字を書けそうだ。
実際に使う時には手早く発動する必要があるだろうけど、練習は楽になるかもね。
「最初に書いた使用元素を示す文字が消えるともう魔法は発動しないけど、消えるまでならばこんなこともできるわよ。」
エリーザさんはもう一度同じ魔法文字を書いた。
――パチン! パチン!
そして両手で指を鳴らすと、今度は火の矢が二本飛び出して的に向かった。
「こんなふうに、同じ魔法文字で連続して魔法を発動することができるわよ。もちろんその分魔力を使うけれど、二回に分けて発動するよりも速くて消費魔力も節約できるわ。」
つまり、魔力が多くて魔法文字も長持ちするぼくは魔法の連射し放題ということか。夢が広がるね。
「魔法文字をたくさん書いて詳細に記述するほど少ない魔力で大きな魔法が発動できるのよ。だからみんな素早く魔法文字を書くように工夫するわ。こんな風にね。」
エリーザさんはまた空中に魔法文字を書き始めた――え?
凄い。
まるで踊るようにして、周囲の空中に大量の魔法文字をすごいスピードで書き連ねて行く。
両手の指先、だけではない。肘、肩、膝、足、腰、頭、全身を使って魔法文字を書き出している。
そして一分弱、最初に書いた文字が消える前に両手の指を鳴らす――直前で動きを止めた。
「ここで発動すると、大惨事になっちゃうからね。」
そう言って微笑むエリーザさんの周囲で、少しずつ消えて行く魔法文字をぼくは目に焼き付けた。
たぶん、今のは魔法の一つの頂点。発動しなくてもその凄さは分かる。ぼくもいつかはこんな魔法を使いこなせるようになるのかな。
「あ、エリーザさんの服が色々と露出が多いのはもしかして……」
「肌が出ていた方が魔法文字を書きやすいのよねぇ。」
ああ、やっぱり。ビキニアーマーに続いて魔法使いの衣装にもちゃんと理由があったんだ。ファンタジーバンザーイ。
……ぼくはやらないよ。男が露出の激しい格好して何が楽しい!
魔力適性のランク
F …… 魔力があっても魔法を使えない人
E …… 発動はできるけど実用性はほぼ無い
D …… 簡単な魔法ならば使える
C …… 何とか戦闘で使える
B …… 結構優秀
A …… 一流の魔法使い。一般人では最上位の魔法使い
S …… 超一流。これ以降はほぼ渡り人専用
SS …… 人外の領域
SSS …… 伝説の大魔法使い
あくまで適正なので、この通りになるかどうかは本人の努力次第です。