第二十九話 マジックアイテムを作ろう! その2
さて、魔道具作成に戻るんだけど……。
ぼくのアイテムボックスの魔術は、ほぼ全部イメージと魔力操作だけでやっているんだよね。
使っている魔法術式は空間の一文字だけ。
これに魔力供給と発動条件の指定を追加して対象に付与する。イメージや魔力操作の部分の付与は不安定らしいから、凄く難易度高そう。
元のアイテムボックスの魔法術式に手を加えてもいいんだけど、ぼくはアイテムボックスの魔法は使えないからイメージと魔力制御の部分が魔法術式と上手くかみ合うか分からないんだよね。
『一番いいのは、全部を魔法術式で表すことっス。これなら付与魔法だけで簡単にできるっス。』
だよね~。それができたら、光る小石並みに簡単に作れることになる。
あ、もしかしてその何とか工房では魔法鞄用にイメージや魔力制御が必要ない魔法術式を持っているとか?
『それはないっス。それができたアイテムボックスの魔法が使えなくても魔法鞄を作れるっス。ついでに量産できるっス。』
そーだよね~。あの上級魔法に近い魔法術式をいじるのは物凄く難しそうだよ。
『でもお兄さんの場合は、何とかなるかもしれないっス。』
え、何とかなるの?
『まずお兄さんの場合、俺っちのいる異空間に接続さればいいっス。異空間を探して引き寄せるための記載が丸ごと不要っス。』
ああ、あの部分か。量も多くてすごく複雑だった。魔法術式の解析をしていて一番面倒だった場所だよ。
実は解析していてよく解らなかった部分もある。魔術で再現するのに必要なかったから放置したけど。
『それから、異空間内部の管理は俺っちがするから、接続位置を調整したり空間認識を組み込む必要もないっス。』
アイテムボックスの出入口を作る部分になんか位置移動の記載があったけどそのためか。ぼくは感覚的に操作してたから気が付かなかった。
それと確かに空間認識と同じ魔法文字列が組み込まれていたけど、アイテムボックスの中身を調べるためだったのか。ぼくはアイテムボッスの魔術と並行して空間認識の魔術を発動してたよ。
『魔力供給と発動条件指定の術式はその本に載っているっス。不要な部分を削って、魔力供給と発動条件を追加して、後は曖昧なところを補えばいいっス。』
そっか、そっか。亜空間を引っ張って来るところを省くとだいぶ魔法術式の量が減る。それにイメージと魔力制御で補っている部分もあの辺りに多い。
それから、魔力供給と発動条件のサンプルはこの辺りに載っているのか……。
『お兄さんが使うだけっスから、使用者の魔力を使えば大丈夫っス。後、俺っちが相手を確認するっスから、発動条件もポーチの蓋を開けた時で大丈夫っス。』
それなら、これとこれを組み込めばいいか。
うーん、何かできそうな気がしてきたぞ。
『さすがはお兄さんっス。挑戦するっスか?』
フ、フ、フ、アイテムボックスの魔法術式は一通り解析したからね。一番わけの分からんところを省けるならどうにかなる気がする!
それに、レイモンドさんからは同じポーチを十個も貰っちゃったんだよね。ぼくが使えば宣伝効果があるからって言って只で。どんだけ不良在庫抱えていたんだろう?
ともかく、失敗しても予備はある。挑戦して損はない!
やるだけやってみるよ!
やったよ~。
ついにやったよ~。
三日かかったけど、ぼく専用の魔法倉庫の魔法術式完成したよ~。
『お兄さん、眠そうっスね。』
ついつい毎晩夜更かししちゃったから眠いよ~。でも不思議とテンションは高いよ~。
『お兄さん、寝不足でハイになってるっス。今日は早目に寝るっス。』
分かってるよ~。
でも、まあ、まずは魔法倉庫を作ってみよう。
魔法術式を作るのにも苦労したからねぇ。予想外の所でイメージで補って省略された部分があったし、ポーチの口に合わせてアイテムボックスの出入口を調整する部分も魔法術式として作り直したし。
阪元さんが魔法や魔道具に詳しくて助かったよ~。阪元さん、これだけ詳しかったら魔道具作り放題じゃない?
『俺っちは魔力も封じられてるから無理っス。』
そっか~、残念。でも封印から解放されたら魔道具くらい作れるってことでしょ。悪魔辞めても魔道具職人としてやっていけるよ~。
『だったら嬉しいっス。』
まあそれはともかく、どうにか完成した魔法倉庫の魔法術式はイメージと魔力制御でどうにかしている部分を全部魔法文字で記載したよ。これで付与するだけで魔道具になるはず。
でも、阪元さんがいるぼくの亜空間に接続することが前提になっているから、他の人が使っても意味がないんだけどね~。
色々削ったからアイテムボックスの魔法術式よりは短くなったけど、それでも五十文字くらいはある。
文字数が多くなってくると、専用のペンとインクで直接書くか、いくつかに分けて刻印魔法で刻印すると本には書いてあったけど、ぼくならまとめて一気に刻印できるよ~。
このくらいなら丁寧に書いても一分程度だからね。
すらすらすら~っと。そして、刻印!
よっし、成功。
魔法文字が目立たないように、ポーチの内側に刻印したよ~。
一応、ノートに書いた魔法術式と見比べて間違っていないかを確認。よし、大丈夫だ。
後は刻印された魔法術式に付与の魔術を施すだけだ。
『俺っちもこちら側から異空間の接続をサポートするっス。何時でもいいっスよ。』
阪元さんも準備できたみたいだし、行くよ~。付与!
どうだ?
『異空間の接続は上手くいったっス。後はポーチが魔法倉庫として動作するか確認するっス。』
ポーチの蓋を一度閉じ、それから開けてみる。
お~、ちゃんと亜空間への出入口ができている。さっき刻印した魔法術式が見えない。
亜空間の中までは見えないのだけど、その出入口からにょっきりと阪元さんの手が出てきてピースサインを作る。
あれ、鉤爪は?
『あれは演出っス。それよりも、成功したっス。』
あの悪魔っぽい格好はコスプレだったのか!
まあ、ともかくちゃんと魔法倉庫になったみたいだ。空間認識で調べてみても、ポーチから阪元さんのいる亜空間に繋がっていることが分かる。
あれ?
もしかして、さっき阪元さんとの会話用に作ったアイテムボックスの出入口とも亜空間経由で繋がっている?
『そうっスね。今この異空間には出入口が二つあるっス。』
と、言うことは……。
ぼくはアイテムボックスの出入口を位置を調整して、ポーチの口に手を突っ込んだ。
――ズボッ!
おお! ポーチに突っ込んだ手がアイテムボックスの出入口から出てきた! なんか面白い!
それじゃ、次は、アイテムボッスマルチ発動!
――ズボッ!
――ズボッ!
――ズボッ!
おおぉ! あちこちのアイテムボックスの出入口からぼくの手が出たり引っ込んだり! 一人もぐら叩きができる!
『お兄さん、ほんと器用っスね。』
ハハハハハ、意味はないけどな!
まてよ、このポーチを誰かに預けておけば、離れた場所でも一瞬で荷物のやり取りができるんじゃないか?
魔道具になったのなら、ぼくから離れても使えるんだし。
『間違いなくできるっスね。そこそこの魔力を持った人なら動作するっス。』
うわー、レイモンドさんが欲しがりそうだよ。
『上手くいけば流通革命がおこるっスね。』
魔法倉庫を作ろうとしてたら、とんでもないものを作ってしまったかもしれない!
ハハハハハ……。
これは大儲けできるよ~!
一晩ぐっすり寝てすっきりした!
いや~、寝不足のテンションのまま色々やるとヤバいねぇ。
面倒な連中に目を付けられないように偽装していたのに、それ以上目立つまねをしてどーする。
昨日は調子に乗ってポーチを五個も魔法倉庫にしちゃったよ。
普段使う一個を除いて残りはしまっておこう。
……魔法倉庫を魔法倉庫に入れることができるだ。考えてみると不思議だ。
『魔法効果が発揮されていなければ、異空間と接続されていないから問題ないっス。』
ふーん、そんなもんなんだ。蓋を閉めていればただのポーチってことかな。
『逆に異空間との出入口を開いたまま異空間に入れることはできないっス。それと、異空間の中で蓋を開いても魔法効果は発動しないっス。』
まあ、亜空間の中に亜空間を引きずり込むようなものだからね。クラインの壺状態?
まあ、ちゃんとしまえてよかったよ。さすがに魔法倉庫を複数持っていると知られたら大騒ぎになるだろうからね。
『でもよかったんスか? 俺っちが管理すれば普通の魔法倉庫や魔法鞄に見せかけることもできるっスよ。高く売れるっスよ。』
まあそれはよほどお金に困ったときの最後の手段だね。
ぼくにしか作れない魔道具なんて、厄介ごとになる気しかしないよ。
魔法倉庫を解析して作られた魔法がアイテムボックス。
アイテムボックスを付与する形で作られた魔道具が魔法鞄。
魔法倉庫とアイテムボックスの魔法はほぼ同等の性能です。魔法鞄だけが劣化版になります。
実は、魔法鞄も接続される亜空間の大きさは大差ありません。ただ、亜空間内で出入口との接続部分を任意に動かす部分が上手く働いていないのです。
このため、魔法鞄に入れた物が、手が届かずに取り出せないという事態が発生しました。仕方がないので出入口を動かせる範囲の外には物を置けないように制限をかけることで対応しています。これが魔法鞄の容量が少ない理由です。