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第二十六話 魔術の修行をしてみた テイク4 その3

 『我輩はこの異空間に封印されし悪魔、ルドルフ・ヴェルナー・ブエルである。』

 それは厳かな声で名乗ると、両手を持ち上げた。その鉤爪の付いた手にはそれぞれ一個の金色に光り輝くコインが握られていた。

 『汝か失ったものは、この古代スペシウム王国製のマルス金貨であるか? それともこちらの神聖エメリウム帝国製の皇帝ヨハネス七世就任記念金貨で……』

 ぼくは何も見なかったことにして、そっとアイテムボックスの出入口を閉じ……

 『ちょっと待つっス! せめて最後までやらせて欲しいっス!』

 のわぁ!

 いきなり自称悪魔が空間の穴に無理やり頭を突っ込んできた! しかも、なんか口調まで変わっている!

 これは……あれだ、押し売りなんかがドアを閉められないように足を突っ込んでくるやつ!

 まあ、相手は自称悪魔だし、このまま首をねじ切るつもりで強引に空間を閉じるのもありかな……

 『いやいや兄さん、俺っち本当に悪魔だから首ちょんぱされたくらいじゃ死なないっス。首だけになって兄さんのそばにいるっスよ。あと口調はこっちが素すっス。さっきまでのは演出っス。』


 ……これヤバい。


 喋るヤギの生首に纏わり付かれるのもアレだけど、こいつ今ナチュラルに人の思考を読んだ!

 ゾッとした。嫌な感じの汗が流れる。

 口調は軽いけど、超常的な力を持っていることは間違いない。ぼくはとんでもなくヤバいやつを引き当ててしまったのだ。

 いや、待て、慌てるな! ここで対応を誤ったら本当にとんでもないことになりかねない!

 落ち着け~、落ち着け~!

 そうだ、こういう時は、リーマン予想を証明するんだ!

 『ま、待つっス! それはミレニアム懸賞問題の一つっス。数学の未解決問題なんかに挑んだら人生滅茶苦茶になるっス!』

 ……あ、なんか落ち着いた。やっぱり自分より慌てている人がいると落ち着くなぁ。人じゃないけど。

 さて、目の前の現実にどう対処するか?

 『あ、そんなに構える必要はないっスよ。俺っち封印されてるんでなんにもできないっス。』

 ――ほう、封印された悪魔であるか。興味深い。

 あ、黒歴史Zさん。中二病キーワードにひかれて出てきちゃったか。

 ――だから、我は黒歴史では(以下略) 略すな! それとZはゼットか? それともゼータか?

 気になるとこそこ? じゃあ、乙で。

 『お兄さん、何スかそれ。別人格じゃないっスよね? 脳内腹話術っスか? 頭ん中で漫才始める人なんて初めて見たっス。』

 悪魔が仲間になりたそうにこちらを見ている!

 『もう三万年も封印されてるんで、暇なんスよ~。』

 悪魔は会話に飢えていた。

 ――封印された悪魔をその身に宿す。なかなか良いではないか!

 良くないよ。意味なく包帯や眼帯をしたり、突然腕が疼いたり、封印が~! とか叫んだりするんでしょ。リアルでやったらただの痛い人だよ。

 ――だが、実際に悪魔が封印されているなら、それは正しい行動だ!

 『いや、その、俺っちは異空間に封印されているのであって、人様の身体に再封印とかは無理っス。』

 そう言えば、悪魔や怪物を封印する場所って腕とか目とかが定番だよね。他にはないのかな? (けつ)とか、(へそ)とか。

 ――それでは絵柄が悪いであろうが!

 『さらっと流されたっス。あと、尻に封印は嫌っス!』

 ぼくも変なところに封印するのはやだ。

 ――封印したものの力を借りるのに都合がよいからであろう。手や腕ならそのまま攻撃できるし、目ならば邪眼となる。

 『あのー、俺っち封印されているから力を貸せと言われてもほとんど何もできないっス。人の手で解除できるほどやわな封印じゃないっス。』

 ――チッ、役に立たぬ悪魔め!

 『酷いっス! あ、異空間の出口を耳元近くに開けてもらえれば、こっそりアドバイスくらいできるっス。耳に封印された悪魔の囁きっス。』

 悪魔の囁き(物理)。それはそれでなんか嫌だ! 天使の囁きでもうっとおしそう。

 まあ、封印が解けないならそれに越したことはないけどね。

 『あ、一時的に封印が破れても、俺っち悪さをするつもりはないから大丈夫っス。』

 ――きさまそれでも悪魔か!

 『俺っちの封印は、悪事を働くとドンドン封印の刑期が延びるっス。悪事は働けないっス。』

 封印は刑務所かい!

 『俺っちは悪い悪魔じゃないっス。』

 そのセリフもどうなんだ、悪魔として?

 ――うむ、悪魔のアイデンティティーを放棄しておるな。

 『そういう封印だから仕方ないっス。でもそれだけじゃないっス。逆に良いことを行うと刑期が減るっス。俺っち悪魔なのに善行を積まなければならないっス。』

 おいおい。それ大丈夫なのか、悪魔として?

 『大丈夫じゃないっス。間違いなく査定に響くっス。刑期を終えても降格して悪魔の最底辺っス。地獄っス。』

 地獄を恐れる悪魔って……

 『ここで天国っス、と言っても理解してもらえないっス。』

 まあ、それもそうか。だったらもう何もしないで刑期が終わるまで封印の中で引きこもっていた方がいいんじゃない?

 『それが……、元の世界から切り離されたせいで、いくら待っても残りの刑期が減らないっす。善行を積まないことには、俺っちは永遠に解放されないっス。』

 ……封印された時点で詰んでるな、こいつ。

 『俺っち決めたっス。悪魔辞めるっス! ガンガン善行を積んで封印から解放されるっス!』

 悪魔辞めるって、それはそれで大丈夫なのか?

 『俺っち解放されても元の世界には戻らないっス。上司もさすがに別の世界にまでは追ってこないっス。俺っち、もう二度と悪いことはしないっス!』

 ……悪魔から悪を取ったら何が残るだろう?

 ――単なる「魔」であるな。意識が残っているかも疑わしい。

 むしろ良いことを行うと言ってるから、「良魔」?

 ――ならばこやつの名前は「坂本」か?

 いやさすがにそれはまずいんじゃない。武田〇矢に怒られない?

 ――それでは字を変えて「阪元」とでもすればよい。

 なるほど、「阪元 良魔」か。なんかパチモンっぽい!

 『あの~、俺っちの名前はルドルフ……、まあいいっスか、悪魔辞めるんだし。それじゃあ、俺っちの異空間をお兄さんに繋げるんで、今後もよろしくっス。』

 あ、ちょっと、こら! どさくさに紛れて何勝手にやってるんだ!

 『まあまあ、お兄さん、損はさせないっスよ。まず俺っちの異空間は広いっスよ。そこいらのアイテムボックスや魔法倉庫(マジックストレージ)とは桁違いっスよ。』

 え、そうなの? 空間認識で調べてみる。

 ……確かに広い。空間認識の有効範囲外まで広がってるよ! どんだけ広いんだこれ!?

 『だいたい直径十万光年っス。広すぎて俺っち一人だと寂しいっス。』

 Oh! ギャラクシー!

 実質容量無限大じゃないですか。

 『中に入れたものの管理は俺っちに任せるっス。必要なら目録も作るっス。』

 管理人付きアイテムボックスか。それは確かに便利そう。そう言えば、あの本の注釈にも書いてあった。


※大量に入るからと言って何でもかんでも詰め込むのは止めましょう。後で収拾がつかなくなります。アイテムボックスの中身はこまめに整理整頓しておきましょう。


 『さらに、必要な道具を入れておいてもらえば、武具や道具類の手入れもやるっス。何なら魔物の解体も俺っちがやるっス、只で。』

 さらに高機能なアイテムボックスになった! 売り込みに必死だな、阪元さん。

 『こうでもしないと、善行を積む機会自体が無いっス。是非ともやらせて欲しいっス。能力が封じられていても人にできることなら大概できるっス。何でもやるっス。』

 確かに封印されていたら善行も何もできないよなぁ。

 『それからもうお兄さんに接続終わったっスから、今後お兄さんのアイテムボックスの魔法は俺っちの異空間に繋がるっス。』

 なんですとー!

 ――アイテムボックスに封じられた悪魔か……今一つであるな。うーむ。


 こうしてぼくはちょっと便利なアイテムボックスの魔術を習得し、新たな仲間ができた。

 大丈夫か、これ?



 「あ、ぼくの銀貨、結局取り戻せなかったよ……。」


「ミレニアム懸賞問題」

2000年にアメリカのクレイ数学研究所から発表された、懸賞金がかけられた数学の未解決問題。

7つの問題のうち、2021年現在解決済みなのは「ポアンカレ予想」のみ。

素数に関係する「リーマン予想」もその一つで、160年以上未解決の難問です。

当然、亮平の頭では証明なんて無理、それ以前に問題を理解できません。

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