第二十五話 魔術の修行をしてみた テイク4 その2
空間魔法アイテムボックスの作り方。
1.アイテムボックスの出入口部分を魔力で作る。
2.近傍にある亜空間をグイっと引き寄せ、出入口部分に接続する。
3.出入口部分の空間に穴をあけ、亜空間に出し入れできるようにする。
以上!
魔法術式が勝手にやってくれるこれらの作業を、イメージと魔力操作でやればいいだけだ!
第一段階、アイテムボックスの出入口部分完成! これは魔力の鎧を作る時みたいな感じでできるから簡単。
第二段階、近傍にある亜空間を引き寄せる……こう、かな? よし、手ごたえあり! できた、たぶん!
第三段階、空間に穴を……よし、開いた!
おお~、本当にできたよ。
何もない空間にぽっかりと黒い穴が開いている。ちょっと身をかがめればそのまま入っていけるくらいの大きさの穴だ。
手を突っ込んでもなんの抵抗もなく入って行く。
お~、面白い!
あっ、そうだ。ついでだから、空間認識!
おおっ! 分かる、分かるぞ! 空間の穴の先に広がる亜空間を認識できる。
なんか、不思議な感じだなぁ。直径百メートルくらいの閉じた空間が存在することが分かる。
不思議なことにこの亜空間、端が無いんだよね。大きさは有限なのに行き止まりが無くて、どっちに進んでもぐるっと一周して元の場所に戻って来るみたいだ。
でもこれだけ広いと奥の方に入れたものを取り出すのは大変そうだな……あっ、亜空間内の接続場所を変えられるのか。
アイテムボックスの出入口を取り出したい物の近くに繋げれば簡単に出せるんだ。今はなんにも入っていないから分かり難いけど。
よし、次行こう!
ぼくは一枚の銀貨を取り出した。
これは最初の仕事で報酬に貰ったものだ。記念に一枚だけ現金でもらっておいた。
これをアイテムボックスの出入口にホイッと放り込む。
そして、アイテムボックス解除!
はい! 銀貨はどこにもありません!
そしてもう一度アイテムボックスの魔術を発動!
よし、成功! 二度目だからさっきよりも速く発動したぞ。
はい、このなんの変哲もないアイテムボックスから銀貨が、……銀貨が、……あれ、銀貨はどこだ?
く、空間認識!
……ない。どうして? ぼくの銀貨はいったいどこに!?
まてまて、お、落ち着け、落ち着け~。
そうだ、こういう時は素数を数えるんだ!
1、2、3、5、7、11、13、17……
あれ? 1は素数だっけ?
あ、なんか落ち着いた。
落ち着いたところで、さあどうしよう。
そうだ、もう一度本を読みなおそう。注釈が多くて読み飛ばしていたところがあるんだ。
魔法を発動するための注意事項は参考のために読んだけど、魔法の使い方に関する注意事項は読み飛ばしていた。
何かヒントが書いてあるかも。
………………。
ふむふむ、色々と書いてあるなぁ。
※亜空間の接続に失敗したら、空間に穴を開ける前に魔法の発動を中断しましょう。空間に穴を開けてしまった場合は即座に塞いでください。最悪、時空の狭間の虚数空間に吸い出されて二度と戻ってこれなくなります。
怖え~。
アイテムボックスってそんなに怖い魔法だったの!?
いやいや、今はこれじゃない。
まあ、これも気を付けるけど。
えーと、他には……
※亜空間の中は生物が生きていける環境とは限りません。人や生物はアイテムボックスに入れないようにしましょう。
……これもヤバい!
さっき迂闊に中に入ろうとしなくてよかったぁ~。
アイテムボックスの魔法、知らずに使うと危なすぎるよ。
もしかして、中級以上の空間魔法ってみんな危ないのかな?
これからは注意書きを全部読んでから試そう。
まあ、反省はまた後でするとして、次は……
※魔法が不安定なうちは毎回違う亜空間に接続されます。最初の内は小石とか、木の葉とか無くなっても良い物で練習しましょう。間違っても高価な物、替えの効かない物を使用してはいけません。
これだぁ~!
……え? もしかして失ったらそれで終わり?
ぼくの銀貨は?
高価なものじゃないけど、初仕事の記念なんだよ~。失くしたくないからアイテムボックスにしまっておきたかったんだよ~。
う~、諦めないぞ~! 何か手はないか?
※練習用の小石や木の葉には色を付ける、何か文字を書くなど目印を付けましょう。稀に他人の練習した亜空間に繋がることがあります。空間マーキングの魔法を使用するのも良い方法です。
これだ! ぼくの銀貨は消滅したわけじゃない。入っている亜空間を見失っただけだ。そして一度見失った亜空間でも、偶然再接続する可能性はある!
それに、原始魔術は魔法術式に任せない分、細かい点で融通が利く。あえて別の亜空間に繋げることもできるはずだ。
どうにかしてぼくの銀貨の入った亜空間を探し出してやる~!
行くぞ! アイテムボックス!
……空。
まだまだ! アイテムボックス!
……やっぱり、空。
ええい、アイテムボックス! アイテムボックス! アイテムボックス! アイテムボックス! アイテムボックス! アイテムボックス! アイテムボックス! アイテムボックス!
空、空、空、空、空、空、空、小石。
ゼイゼイゼイ。
やった、空っぽでない亜空間を見つけた。中に入っていたのはただの小石が一個。しかも何か奇妙なマークが書かれている。基本に忠実だね!
どっかの誰かの練習の邪魔をするといけないので、小石は亜空間に戻してアイテムボックスを解除する。
これで一度見失った亜空間にもアクセスできることが確かめられた。後は、ぼくの銀貨を取り戻すまで繰り返すのみ!
でもこれ、すっごく効率悪いんだよね。ほとんどが空っぽの亜空間だから。
だけど、この作業を効率化する方法をぼくは見つけたかもしれない。
ぼくはさっきからアイテムボックスの中身を確認するために、ずっと空間認識を使っていたんだよね。
アイテムボックス――亜空間の中は真っ暗だからセルフブーストして視覚を強化しても奥の方はほとんど見えないんだよね。その点空間認識だと何か入っていることは一発でわかる。
空間認識、意外と使えるじゃん。誰だよ地味な魔法だなんて言ったやつ!
ぼくだよ! ごめんなさい。
それで、空間認識を発動したままアイテムボックスを使おうとしたら、引っ張りよせる亜空間をなんとなく感じられたんだよね。
普段は分からないよ、亜空間の存在なんて。たぶんアイテムボックスの魔術で亜空間に魔力を伸ばしているから感じられたんだと思う。
つまり、空間認識を併用すれば、接続する亜空間をある程度選べる可能性がある。
さすがに接続するまでは亜空間の中身は分からないのだけど、空っぽの亜空間と小石の入っていた亜空間とではちょっと感触が違っていた。
もしかしたら、中身が入っている亜空間を見分けられるかもしれない。
試してみよう。
……木の葉!
……小石!
……小石!
……なんかいい感じの木の棒!
……小石!
うーん、やっぱり何が入っているかまでは分からないけど、何か入っていることだけは分かる!
よし、この方法でやってみよう。だいぶ可能性が出てきたぞ!
行くぞ~!
……小石!
……木の葉!
……小石!
……小石!
……砂!
……小石!
……木の葉!
……小石!
……木端!
……小石!
ふう。みんな、小石好きだね!
小石や木の葉はいいとして、たまに変なのが入っているなぁ。
………………。
……大岩!
どーやって入れた!
アイテムボックスの出入口は大きくできるとしても、こんな大きな岩、セルフブーストしても持ち上げられるかなぁ?
………………。
……錆びてボロボロの短剣!
うん、ゴミだ。
………………。
……小瓶に入った液体!
毒か薬か? ラベルも張っていない瓶の中身は分からない。
危ないかもしれないから、取り出さないよ。
………………。
……鎖で雁字搦めに縛られた本!
禁断の魔導書か? 闇に葬られた歴史書か? 実は恥ずかしい過去が書かれた日記帳とか、黒歴史満載の創作ノートと言う可能性も!
読まないよ!
………………。
……謎の動物の死骸!
元の世界でもこっちの世界でも見たことないよ!
………………。
……宝石箱いっぱいの宝石らしきもの!
え? 高価なもので練習するのはまずくないの?
ぼくよりも派手にやっちゃったの? それとも全部イミテーション?
………………。
……色々雑多な荷物多数!
これ違うよねぇ!
絶対にアイテムボックスの練習用に入れたものじゃないよねぇ。どう見ても普段使いの中身だよねぇ。
他人のアイテムボックスの中身を勝手に取り出せるとしたら、いろいろと拙いんじゃないだろうか。
※アイテムボックスの動作が安定すれば、亜空間は術者本人と繋がり、他者の魔法で接続されることはありません。ただし、術者が死亡した場合はその繋がりは切れ、他の者の魔法で接続される可能性があります。これは魔道具の魔法倉庫を破壊した場合と同じ現象です。
そっか、本人が生きている限り、アイテムボックスの中身を知らずに盗られることはないのか。
するとさっきのは、どこかの誰かの遺品?
うーん、亡くなった冒険者の遺品を見つけた時は可能な限り回収して再利用するのが冒険者の流儀だ。遺品を死蔵させるよりも、装備の一部でも冒険を続けさせた方が故人にとっても本望という考えだ。
冒険者の流儀に倣うなら、アイテムボックスの中の遺品は引き取るべきだろう。ここで取り出さなければ、二度と日の目を見ることはないかもしれない。
でもごめん。ぼくには無~理~!
どこの誰とも知れない人の遺品なんて、なんか怖くて使えないよ~。
というわけで、見なかったことにしよう!
さて、次は……?
その亜空間には、異形の存在がいた。
漆黒の身体。
蝙蝠のような翼。
先のとがった尾。
蹄の付いた足。
山羊のような角を持つ頭部。
それは、生物の生存が保障されていない亜空間で、確かに活動していた。
『我輩はこの異空間に封印されし悪魔、ルドルフ・ヴェルナー・ブエルである。』
なんか変なの出たぁ~!!!
1は素数には含まれません。