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第二十一話 訓練の風景

 今日も朝からルークさんと訓練。例によって最初はまずうさぎ跳びから。

 ……もう慣れた。というか、諦めた。

 ちらりと斜め後ろを見ると、ジョンが同じくうさぎ跳びで付いてきている。

 たまに一緒に訓練するジョンだけど、最初から疑うことなくうさぎ跳びしてたからねぇ~。

 ジョンだけじゃなくて、リントでもトップの剣士であるルークさんに稽古をつけてもらいに来たり、自主練するために練習場に来る冒険者もいるんだけど、剣士の人はだいたいうさぎ跳びから始めるんだよねぇ~。

 ほんとに、誰だよ! こんなにもうさぎ跳びを広めまくったやつは!

 まあそれはともかく、うさぎ跳びが終わったら、へたばっているジョンを置いてぼくは軽く走り込みをする。

 剣士のジョンが魔法使い(予定)のぼくよりも体力が無いのは問題じゃないか? みたいな場面だけど、単にぼくがセルフヒーリングで回復しているだけだ。

 うさぎ跳びの目的の一つが根性を付けるため、ということもあって、特に初心者に対してはぶっ倒れるまでやらせるんだよね、これ。体に悪そう~。

 他の人の訓練を見ていて判ったのだけど、やっぱりぶっ倒れるまでうさぎ跳びやった後はちゃんと休憩を入れている。セルフヒーリングで回復して即座に次の訓練を始めるなんて無茶はできないしやらない。

 やっぱりぼくの訓練は地獄の特訓コースだったよ、ハハハ。まあ、慣れたけど。


 準備運動(?)が終わると、いよいよ剣士の修行に入る。

 剣の素振り、型の練習、魔物の種類に応じた戦い方などの座学に近いものなど、やることは多い。

 そんな中、せっかくぼくとジョンが一緒にいるからと、模擬戦をすることになった。

 ルークさん相手に二対一で。

 ちなみに、ぼくとジョンが模擬戦を行うと、セルフブーストとセルフプロテクションを使えばだいたいぼくが勝つ。ジョンの強力な振り下ろしさえがっちりと受け止めてしまえば、あとは隙だらけで攻撃し放題だ。

 逆に、原始魔術無しだとジョンの方が強い。ぼくの素の身体能力だと、ジョンの一撃を避けたり受けたりすることは難しかった。

 あんまり訓練にならないということで、このところぼくとジョンの模擬戦はやっていない。ジョンが振り下ろし以外の技術を身に付けるか、ぼくがセルフブースト無しでジョンの一撃をどうにかできるようになるまでお預けだ。

 代わりにルークさん相手に二人がかりで模擬戦を挑むのだけど、これが全然勝てない。

 元々ぼくもジョンも一対一ではルークさんにはまるで歯が立たない。それが二人になっても、一人ずつ個別に倒されて終わってしまう。それがこれまでのパターンだった。

 そこでぼくたちは考えた。二人がバラバラに攻撃しても各個撃破されるだけだ。ならば、二人で連携してコンビネーションで攻撃すればいい。

 この日のために、ジョンとは打ち合わせ済みなのだ。

 「行くぞ、ジョン!」

 「おう! 今日こそ一太刀入れる!」

 今日こそルークさんに一矢報いるぞ~!


 結果、二人してルークさんにボコボコにされました。

 チクショ~! ルークさん強すぎるよ~。


 「二人とも、即席の連携にしてはなかなか良かったぞ。リョウヘイが守ってジョンが攻める。単純だが理にかなっている。」

 それでもルークさんには通用しなかったんですけどねぇ~。

 「ただ、やはりジョンの攻撃が振り下ろしだけで単調だ。構えてからの溜も長いから初撃を凌がれたら通用しないぞ。」

 ルークさんにはその初撃から通用していなかったけどねぇ~。

 「リョウヘイは防御に徹したのは良かったが、たまには隙を見て攻撃も入れた方がいいぞ。その方が相手も警戒して手を出し難くなる。」

 できたらやってるよ~。ルークさん、全然隙ないじゃん~。


 ◇◇◇


 今日はハリーが弓の練習をしていた。かなり巧い。

 練習場は広いから、的まで五十メートルくらいあるんだけど、百発百中だった。

 それに連射も速い。一射目から二射目まで十秒とかかっていない。

 これならば猿の時もジョンに突っ込ませるんじゃなくて、ハリーに連射させればよかったのかな……いや、あの時は敵まで十メートル切っていたし、動く標的にまで当たるとは限らないか。

 ハリーの問題は、人がいると弓が射れないことだった。

 プロの猟師である父親に徹底的に叩き込まれたらしい。射線上どころか、視界に人がいるだけで弓を引くことができなくなってしまう。

 ちょっとやり過ぎじゃね?

 そんなわけで、人のいない山奥とかで猟師をするのならばともかく、冒険者をやるには致命的な問題だった。

 つまり、ただ無人の的に当てるだけの練習は単なる準備運動で、ここから先が特訓の本番だ。

 「……それはいいとして、何でぼくが的になっているの~!?」

 ぼくは今、練習場に並べられた弓用の的に混ざって立っていた。頭に林檎を乗せて。

 ウィリアム・テルか!?

 「そりゃあ、リョウヘイなら万が一矢が逸れても防げるからな。」

 確かに、ぼくのセルフプロテクションなら鎧モードでも矢くらい防げるけど。

 実際に既に魔力の鎧を纏ってその上に林檎を乗せているけど。

 やっぱり矢がこっちに向かって飛んで来るのは怖いんだよ~!

 「ルークの奴に全身鎧を着せて立たせるつもりだったが、リョウヘイがいて助かった。ハハハハハ!」

 しまった! 今日は対ルークさん攻撃魔術の開発をしようと思って練習場に来たけど、仕事に出るべきだったか!

 「なに、心配するな。人が見えていても弓を射る練習だから、最初は向こうの的を狙うさ。」

 そう言っておっさんはハリーの方へ引き上げて行った。

 ぼくは的の並びの横に一人取り残された。

 ちらりと右側に並んでいる弓用の的を見る。一番近い的でもぼくから五メートルくらい離れている。まあ、確かにハリーの腕なら誤射してもここまで外れることはないだろう、と思う。大丈夫だよね?

 あれ、()()()

 やっぱり最終的にはぼくの頭の上の林檎を狙うの?

 でも、まあ、先は長そうだ。相変わらずハリーはぼくがいるだけで弓を引くことができないでいる。

 なんか、ハリーは冷や汗を流しながら固まっている。ほんと、なにやったんだろう、ハリーの父親は? これもうトラウマレベルじゃないか?

 「やはり無理か。ならば、ニコライ!」

 おいおい、鬼か、おっさん!

 「おう、オラの出番ダか?」

 「ヒィイイイ!」

 のっそりと現れたニコライさんに、ハリーが悲鳴を上げる。無理もない、鬼となまはげの最強タッグの誕生だ。

 ひょっとして、毒を以て毒を制す感じでトラウマにトラウマをぶつけてみた? 悪化したらどうするんだよ。

 「それでは始めるとするか。」

 「んダな。ほれ、さっさと射るダ!」

 「はいぃぃぃぃ!」

 おお、ニコライさんの一言で今まで硬直していたハリーが、一気に弓を引いた。


 ――ヒュン……トス!


 え?

 ええ?

 何でこっちに飛んで来るの!? 的はあっちでしょう!?

 しかも、しっかり林檎に命中しているし。

 本当にウィリアム・テルかよ!

 「よし! ダバどんどん行くダ!」

 「はいぃぃぃぃ!」

 いや~~、止めて~~~!


 ――ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン。

 ――トス! トス! トス! トス!


 必死になって右側の的を指さすも虚しく、放たれた矢はぼくに向かって真っすぐに飛んで来る。

 全て林檎に突き刺さるのがまた憎らしい。

 おっさんもニコライさんも見てないで止めてよ~~!

 防げるけど、防げるけど、恐いんだよ~~!


 この日、ハリーは人がいると矢を射れないという弱点を克服した、……のか?


 ◇◇◇


 今日はマークが魔法の修行をしていた。講師はもちろんエリーザさん。

 クソ~! 魔法さえ使えれば、指パッチンさえできれば、ぼくもあっちだったのに~!


 ――ポカリ!


 「あ痛!」

 「訓練中によそ見をしない!」

 ぼくは今ルークさんとの訓練中だ。

 今日は素振りと型稽古中心だから隣の様子を見る余裕はあるのだけど、あまり気を取られるとルークさんにひっぱたかれる。

 だから、あっちも気になるけど、自分の訓練に集中――と見せかけて、こっそりとマークの訓練風景を覗き見る。

 ふふふ、ぼくはマルチタスクは得意なのだよ。右手と左手で別々に魔法文字を書いたり、剣を振りながら足先で魔法文字を書いたりとかしているからね。

 昔は授業中に、真面目に授業を受けているふりをしながら、頭の中では……まあ、黒歴史さん関係はもういいか。

 ぼくはルークさんにばれない程度に自分の剣の修行に集中し、それと並行して隣の風景をこっそりとチラ見する。

 「魔法の発動はちゃんとできているのだから、魔法術式を書くところから始めれば大丈夫よ。やってみましょう。」

 「は、はいっ!」

 マークはガチガチに緊張しながら指先に魔力を込める。

 うんうん、分かるぞ! 至近距離のエリーザさんは青少年にとって刺激が強い。

 チクショー、ぼくもあっちが良かったよ~。


 ――ポカリ!


 「あ痛!」

 「ちゃんと集中する!」

 しまった~、エリーザさんに気を取られ過ぎた。

 集中、集中。素振り8、覗き見2!

 マークは既にエリーザさんやおっさんに自分の魔法を披露している。あの長ったらしい呪文を唱えるやつだ。

 ただ、マーク自身は中二病派と言う魔法使いの派閥については知らなかったそうだ。呪文についても師匠から教わったものをそのまま唱えていただけらしい。

 小さな開拓村には魔法使いは一人しかおらず、他と比べようもなかったから誰も気が付かなかったらしい。もしかするとその唯一の魔法使いも中二病派とか関係なく、他のやり方を知らなかっただけかもしれない。

 恐るべし、中二病派の浸透力! 本人も気付かないうちに中二病派に染まっちゃってるよ。

 でもまあ、中二病的なこだわりがあるわけじゃないから、呪文を止めるだけで普通の魔法使いになれるわけだ。

 羨ましいぞ~! ぼくなんか、どうやったら指パッチンできるようになるのかさっぱり分からないんだからな~!


 ――ポカリ!


 「あ痛!」

 「どうした、集中しろ、集中!」

 う~、失敗、失敗。つい感情的になって集中が乱れてしまった。

 改めて集中し直してっと、マークの方はどうなっているかな?

 うーん、なんか指先の魔力が不安定だ。それになんだか弱々しい。

 そのせいか、魔法文字が書き難いみたいで、妙に手間取っている。……あっ、魔法術式が完成する前に魔法文字が消えた。

 マークの魔法文字が光っているのは十秒程度。一文字描くのに手間取りまくっていたらすぐに消えてしまう。

 森の中で猿相手に魔法を使ったときは、もっと手早く魔法文字を書いていたのになぁ。

 ……もしかしてこれ、呪文を止めたせい?

 確かあの時マークは呪文を唱えながら魔力を高めていた。魔力が弱々しいのはその工程を省いたからだろう。

 そもそも自身の魔力を高めるという行為は、魔力制御によって体内の魔力を一時的に掻き集めることらしい。

 つまり、長々と呪文を唱えることで魔力制御ができるように、訓練で条件付けちゃったのかな?

 魔力が不安定なのは、魔力制御がなっていないからみたいなんだよね。

 恐るべし、中二病派の訓練! 呪文を唱えないと魔力を扱えない体にされちゃったのか。

 それでも何度か繰り返すうちに魔力制御の感覚を思い出したのか、だんだんとマークの魔力が安定してきた。

 そしてついに魔法術式を書き上げた。


 ――パチン!

 ――ヒュン!


 棒状の火が矢のように的に向かって飛んで行った。

 「や、やった! できた!」

 「そうね、ちゃんと魔法を発動できたわね。あとは練習を続けて行けば、中級魔法くらいまではできるようになるわよ。」

 中級魔法の魔法術式は、短いものでも二十文字くらいはある。たった三文字の魔法術式に苦労しているマークには先の長い話だった。

 ちなみに、上級魔法は百文字以上。上級の中でも特に難しいものは大魔法と呼ばれて、文字数の上限は無いそうだ。

 マークの場合、最低でも一秒間に十文字以上書かないと上級の魔法術式を書ききれない。それ以前に魔力が足らないかもしれないけど。

 まあ、それはともかくとして、マークは無事中二病を脱したのだ。

 まだ慣れないことをしているためか、威力は微妙だったし、狙いも甘かったけど、あとは練習次第だ。

 これでマークも奇襲以外の戦力になるだろう。良かった良かった。

 ――良くないわ!

 おや、また出てきたね、∀黒歴史さん。

 ――ちょっ、おまっ、それはさすがに拙いであろう!

 それじゃあ、ヒゲ黒歴史さん。

 ――なお悪いわ!

 えー、あの作品が黒歴史の語源でしょ? 元祖とか始祖とかみたいでかっこよくない?

 ――だから、黒歴史から離れぬか! それよりも、このままでは同士が一人減ってしまうではないか!

 そもそもマークは中二病じゃないよ。ただ中二病派の魔法の使い方を教わっただけで。

 ――ならばこそ、我等が正しく同士として導くべきだ。矯正すべきはあのセンスのない呪文の方であろう!

 いやいや、それじゃマークが戦力外になっちゃうよ。マークにはガンガン魔法を使ってもらわないと。

 ――だが、それでは希少な詠唱魔法の使い手を失ってしまうではないか!

 そこは無詠唱! とか、詠唱破棄! とか言っておけば問題なし。

 ――く……

 長々とした呪文の詠唱が許されるのは、戦局を一変させる大魔法くらいだと思うんだよね。


 ――ポカリ!


 「あ痛!」

 「剣筋が乱れているぞ、雑念が多すぎるんじゃないか?」

 しまった、黒歴史さんに意識を取られ過ぎた。

 ――我のせいではないぞ!


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