第二話 色々聞いてみた
「まあ、それはともかく、他に聞きたいことはないか?」
「それじゃあ、どうして女の人は色っぽい格好しているんですか? ビキニアーマーが実在するとは思いませんでしたよ!」
「あ、それ俺も気になっていた。」
「……ルーク、お前もか。」
ぼくの質問にルークさんが食い付いてきておっさんが再び肩を落とす。……のはいいのだけど、エリーザさんの視線が冷たい。
「まあいい。これはオレも知り合いのドワーフから聞いた話だ。今から百年ちょっと前に一人の女冒険者がいた。」
テンション下がり気味のまま、おっさんが語りだす。
「当時は今以上に女が冒険者、特に前衛職になることはあり得ないことだった。だがそいつは、女ながらも剣の才能に恵まれ、本人も冒険者になることを希望していた。」
予想外に真面目な話になった。ルークさんもエリーザさんも心持ち真剣な表情で聞き入っていた。
「その時、冒険者になりたいという娘を引き止めようとして父親が、一つの条件を出した。どうしても冒険者になりたければこの鎧を使用すること。そう言って持ち出したのがビキニアーマーだった。」
あれ?
「父親としては諦めさせるために特注で作らせた恥ずかしい鎧だったのだろう。しかし、娘の意思は固かった。堂々とビキニアーマーを着て冒険者として活動を始めたのだ。そしてついには女帝とまで呼ばれるようになった。」
どーしよう。リアクションに困る。感動すべき話なのか、笑い飛ばす馬鹿話なのか。
「何だって! 女帝ハーマリアがビキニアーマーの元祖だったのか!」
「確かに、過去の英雄に憧れて、装備を真似する娘もいるわねぇ。」
ルークさんも、エリーザさんも真面目な反応だった。
「有名な人なんですが、その女帝って人?」
「ああ、女性冒険者の草分けとも言われている。冒険者なら知らぬ者はいないという偉人だ。」
よほど尊敬しているのか、ルークさんが身を乗り出し気味に言う。
「彼女がいなければ冒険者は野郎ばかりのむさくるしい世界になっていた! その上、ビキニアーマーを広めたのも女帝だったなんて、彼女は俺たちの救世主だ!」
ルークさん、ルークさん、鼻の下伸びてます。いや、そのノリは嫌いじゃないけど、エリーザさんの視線がどんどん冷たくなっているんですよ~。
「言っておくが、超高級装備なんだぞ、あれは。一見がら空きの場所も魔力で保護する魔道具になっているし。」
へー、ただのエロい装備じゃなかったんだ。
「えっと、『渡り人』について教えてください。」
「ようやくその質問かよ。」
おっさんがやや疲れた顔で言う。すみません、自分のこと以上にいろいろ気になったもので。
「『渡り人』というのは、数十年に一度くらいの頻度で現れる、何処から来たのか良く分からない奴らのことだ。当人たちは異世界から世界を渡って来たと言っているらしい。」
うんうん、レイモンドさんからも聞いたけど、やっぱりぼくは異世界転移したらしい。
「『渡り人』は世界を渡る際に特別なな力を得るらしい。その力で英雄になったり、大金持ちになったり、面白い死に方をしたりと色々やってくれる。」
ああ、やっぱりチートあるんだ! ……って、面白い死に方って何! いやいや、それよりもチートだよチート。
「特別な力って何なんですか?」
「まず、『渡り人』が共通で持っているのが言葉が通じる能力らしい。元居た場所とは全く異なる言葉なのになぜか通じるそうだ。」
あ、そう言えば日本語でないのに言葉が通じている。
「それ以外は人それぞれ違うらしい。元々人の持つ能力が強化される者、最初は他の者と変わらないが凄い勢いで強くなる者、やたらと頭が回り博識な者、その他他人にはまねのできない不思議な能力を持つ者など様々だ。」
ステータスアップ系、成長チート、知識チート、ユニークスキルってとこかな?
「後は能力の相性と本人の性格で進路が決まる。剣技や攻撃魔法と言った戦闘に強い力ならば軍人や傭兵、冒険者になって活躍するし、生産系の能力ならば優秀や職人になる。他にも商人として大成した者や、国や領主に召し抱えられて内政で活躍した者など様々だ。」
凄いな、戦闘系、生産系、商売繁盛に内政チート。何でもありだな。
「まあそんな感じで、役に立つやつが多いから国や冒険者ギルドで保護することになっている。」
なるほど、有能な人材は確保するよね。あれ、でも……
「……その力を悪用する人はいないんですか?」
「そういう連中は、だいたい面白い死に方をする奴だな。」
アハハ、そりゃそうだよね。いくらチートだって不死身でも無敵でもない。悪事に精を出していれば、碌な死に方はしないよね。
「後は変わり種で、『ハーレム王』と呼ばれ、数十人の嫁とその子供を養うために馬車馬のように働いて過労死したって奴もいたな。」
うーん、やっぱりいるんだ、ハーレム作る人。でもなんて夢のないハーレム生活だ。
「『ハーレム王』、わが心の師匠よ!」
ルークさん、ここまで来るとちょっぴり尊敬してしまう。でも、エリーザさんの視線が絶対零度なのでそろそろ自重して欲しい。
「リョウヘイの力も、少なくとも冒険者向きの奴はさっきの検査で分かるから期待してくれ。なに、何かしらの力はあるんだ、これからのことはじっくり考えればいいさ。」
「そうそう、重要な注意事項がある。忘れないうちに言っておこう。」
今度はおっさんの方からそう切り出してきた。
「この国を出て行くことも、他国に移り住むことも自由だ。元々冒険者は国境を越えて仕事をすることも多いからな。だが、『渡り人』に対する差別が大きい国も多い。というか、この国が例外だから気を付けろよ。」
「この国だけ例外なんですか?」
もしかすると、ぼくがこの国の近くに現れたのは運が良かったのかもしれない。
「元々この辺りには『渡り人』を捕まえてえ強制労働、役に立たなければ殺してしまうというかなり酷い国があったんだが、その政策に反発した『渡り人』がその国を潰して今のイーハトーヴ王国を作ったのだ。」
……国盗りやっちゃったんですね、先輩方。おかげで楽させてもらいます。
「『渡り人』が作った国だけに『渡り人』保護政策が充実している。他の国では『渡り人』だと知られると追い払われるか逆に取り込んで働かせようとしてくることも多いから気を付けろ。」
この世界に慣れるまでは別の国とか行かない方が無難そうだ。
「それから、この国は種族差別も少ない。国によっては種族間での対立していることもよくあるから、この国と同じつもりでいるとトラブルになることもある。」
そういえば、街中でなんだか人間離れした雰囲気の人を見かけたなぁ。ファンタジーな世界の異種族というと、獣耳や尻尾がついていたりするのかな?
「実際、儂も色々な国を渡り歩いてきたが、ここまで儂がエルフであることを気にしない国は他になかったぞ。」
へー、そうなんだ。おっさんも色々と苦労してきた……え、ええ!?
「え、エルフ~!?」
この厳ついおっさんが?
「ああ、そうだぞ。ほら。」
そう言って、おっさんは左の耳を見せた。うん、先っぽが尖がっている。
ちなみに右側の耳は何か噛み切られたような傷跡と共に先端が失われていた。怖えーよ。
しかし、このごつい体でエルフ……よく見ると筋肉質だけど体は細いな。細マッチョ?
それより、このおっかない顔でエルフ……いや、鋭い目つきと顔面に走る向こう傷を除けば結構整っている、のか?
エルフがどうすればこんなにごつくなるんだよ!!!
「見えないよな、全然! 俺もいまだに信じられないんだ。」
ルークさんが、うんうんと頷きながら言う。
そっか、この世界の人から見てもエルフのイメージから離れているんだ。ちょっと安心した。