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第十九話 初めての冒険 その6

 「依頼の報酬、薬草と魔物の素材の買取、合わせて銀貨百二十五枚よ。」

 「「「おお!」」」

 あの後特に魔物と遭遇することもなく、無事明るいうちに冒険者ギルドまで帰ってくることができた。

 なんだかずいぶんと森の奥深くまで分け入ったような気がしていたけど、実際には街道に近い辺りをうろうろしていただけだったみたいだ。

 それにしても、いきなり銀貨百枚を超えるとは、さすがは外の仕事だ。

 あ、四人で分けたら三十枚ちょっとか。深夜の監視の仕事より少し多い程度……まあ、あれは深夜手当にスキル手当がついて街中の仕事としては破格だったからね。

 外の初仕事としてはかなり上出来じゃないだろうか。

 「言っておくけど、今回は初仕事の御祝儀込みよ。いつもこうだと思わないことね。あと、いくら弱い猿だからと言って十匹はやり過ぎよ。引き時をわきまえないと死ぬわよ。」

 この目つきも言葉もきついお姉さんは、チェルシーさん。

 ライザさんとはまた別方向の美人で、言葉はきついけどそこがまたいいと人気が高い。

 変な趣味の人じゃないよ!

 チェルシーさんはすごく面倒見がいいんだ。きつい言葉も、冒険者を心配してのこと。

 冒険者ギルドのツンデレ担当。それがチェルシーさんだ。

 ちなみに、チェルシーさんには彼氏がいるらしい。偶然デート中のチェルシーさんを見かけたルークさんが、「別人かと思うほどデレデレだった。」などと、砂糖でも吐きそうな顔して言っていた。

 まあ、チェルシーさんのことは置くとして、確かに今回の冒険では危ない局面があった。反省すべき点は多い。

 前衛と後衛が離れすぎてジョンが孤立してしまった。ぼくと三人の間で持っている能力や戦い方の情報共有ができていなかった。そもそも森の中を歩く技術や知識がいまいちだった。

 今後もこのメンバーでパーティーを組んで仕事をするのならば、もう少し連携について話し合っておかないと駄目だろう。

 ……まあ、プチプチ魔法については教えられないし、自爆技の攻撃魔術についても言わない方がいいかな?

 「それから、あなたたち、ギルドに口座を作っておきなさい。ないと不自由するわよ。」

 冒険者ギルドでは、冒険者のお金を預かる銀行のようなこともやっていた。

 ギルドの口座に預けたお金は、冒険者ギルドがあればどこの国のどこの町でも下すことができる。

 特に高ランクの冒険者は受け取る報酬も多いし、依頼を受けて様々な国や都市を渡り歩くこともあるから、大量の金貨銀貨を持ち歩くのは不便で不用心だ。

 それとは別に、低ランクの冒険者や街中の依頼しか受けられない新人にとってもギルドの口座は必要なものだったりする。

 もちろんぼくも口座を作ったよ、最初のどぶさらいの依頼を終わった時に。


 この都市の一般的な庶民が使うお金は、だいたいが銀貨だ。金貨は高価すぎて、庶民の買い物ではまず出番がない。

 銅貨は一部で使わてれいるけれども主流ではない。ちょっとした買い物では便利でも、報酬や賃金として受け取るにはちょっと細かすぎる。

 例えば、今回の報酬を全て銅貨でもらうと、一万枚を超えることになる。そんなに貰っても、持ち帰るだけで一苦労だ。

 加えて、日本とは違って両替は有料だったりする。銀貨から銅貨へ、銅貨から銀貨へと両替をするとその度にちょっとずつお金が減って行くのだ。

 銀貨一枚を銅貨にといった少額の両替は割に合わない。

 だから、庶民はほとんど銀貨しか使わない。庶民向けの店だと、金貨や銅貨での支払いを拒否するところも多いそうだ。

 けれども、庶民が購入する品物には、食料品を中心に銀貨一枚よりも安いものも多い。

 例えば庶民が日常的に食べるパンの価格は銅貨十枚程度、銀貨一枚で十個は買える計算になる。そんなに買っても食べきれないよ。

 普段、庶民がどうやってパンを買っているかというと……それはずばり、つけ払いなのだ。

 辺境都市リントは大きな都市だけど、一般庶民の行動範囲は意外と狭かったりする。食料品や日用品を購入する店はほぼ決まっていて、逆に言えば店の側もだいたいいつも同じ相手に物を売ることになる。

 だから馴染みの客からはその場で金を取らず、月末にまとめて清算するのだ。

 店の方も馴染みの客だけで商売成り立つから、一見さんにはあまり便宜を図らない。銀貨でパン一個買ってもお釣りはないとか、銅貨は受け取っても両替手数料の分割高になるとか。

 でも、そのようなつけ払いのシステムに馴染まない者達がいる。そう、冒険者だ。

 冒険者は基本的に根無し草だ。拠点とする街に長居することはあっても、何時他所の街へ行ってしまうか分からない。それどころかいつ死んでしまうかも分からない。

 ある意味これほど信用ならない職業もないだろう。

 そうなると、冒険者は買い物にとっても不自由することになる。

 そこで活躍するのが、冒険者ギルドの口座なのだ。あ~、前置き長かった~。

 全ての店ではないけれど、冒険者に対応している店は冒険者のプレートを見せればそれで買い物ができる。

 支払いは月末にまとめて冒険者ギルドに請求が行って、各自の口座から引き落とされる。

 要するに、個々の冒険者でなく、冒険者ギルドの信用でつけ払いするようなものだ。

 ギルドに口座を作っていなかったり、口座に残高が足りないと、次の依頼の報酬から問答無用で差っ引かれたりするから要注意だ!


 ぼくの場合、この世界の常識に疎い『渡り人』だったこともあって、レイチェルさんから結構詳しく説明を受けた。

 実際にはそんなに急いで口座を作る必要はなかったりする。食事付きの宿に泊まれは食料品を買う必要は無いし、冒険者の装備は銅貨で買えるほど安くはない。

 ただ、いずれは必要になるし、報酬が入って浮かれた新人冒険者が無駄遣いしたり盗られたり失くしたりして困ったことになることも多いのだそうだ。

 だから、初めて報酬をもらった新人冒険者に対してレイチェルさんはかなり強引に口座を作らせるのだそうだ。

 おかげでぼくも公衆浴場に行った時に、わざわざ銅貨に両替して割高な料金を支払うといった無駄をせずにすんだよ。

 この国では、初代国王の趣味というだけではなくて、公衆衛生や健康促進の意味もあって入浴を推進している。だから公衆浴場もすごく安いんだよ。両替の手数料が大きく見えるくらいには。

 そんなこんなで、三人ともレイチェルさん強く勧められてギルドに口座を作ったのでした。

 もちろん今回の報酬も四等分して口座に入れたよ。

 パーティー共通の口座というものも作れるらしいのだけど、今回は見送った。

 まだ正式にこのメンバーでずっとやって行くと決めたわけではないからね。

 ぼくはともかく、あの三人はずっと一緒にやって行きそうだけど。誰かに彼女でもできない限りは!


 この後、反省会をやると称して、結局ただの宴会になった。


 翌日、ぼくはおっさんに呼び出されていた。

 おっさんだけでなく、ルークさんとエリーザさんもいる。

 「昨日あの三人と組んでみて、どうだった?」

 いや、漠然とどうと言われても……

 でも、まあ、おっさんがぼくをあの三人のパーティーに加えて何がしたかったのか、なんとなく分かった気がする。

 この三人は、おっさんも含めて新人冒険者の育成担当だ。あの三人をどう指導するか考えているのだろう。

 「三人ともチームワークは良かった。ただ、三人ともそれぞれ問題を抱えている気がする。」

 三人とも息ぴったりだったからね、戦闘以外でも。

 「剣士のジョンは、剣を振り下ろす動きだけはいいんだけど、それ以外は素人っぽかった。」

 「あー、たまにいるな。一点集中で鍛えている奴。全部が中途半端な奴よりは使えることが多いんだが……、筋は良さそうだったから鍛えれば化けるかもな。」

 ルークさんがそう評する。まあ、しっかりと振り下ろす余裕があれば、一撃で猿を倒していたからね。

 「弓使いのハリーは、弓の腕は良かった。でも人がいると射れなくなるから、戦闘中の前衛を援護できない。」

 「ああ、狩人の息子と言っていた奴か。狩人ならばその方がいいんだろうが、克服しないと冒険者の弓士としては厳しいな。」

 おっさんの言う通り、冒険者として活動するにはちょっと問題だろう。昨日も最初の一撃の後は役立たずになったし、対人戦は無理そうだし。

 「魔法使いのマークは、中二病派だったみたいで、魔法の発動にすごく時間がかかる。」

 「え、そうだったの? 全然そんなそぶりはなかったけど……」

 エリーザさんが驚いている。そう言えば、呪文の詠唱以外は中二っぽい言動はなかった気がする。

 「あと、三人ともゴブリンが苦手。途中でニコライさんに会ったんだけど、三人とも無茶苦茶ビビってた。」

 「ああ、あいつら開拓村の出身だからな。いっそ、ニコライに指導させてみるか?」

 おっさん、鬼か!?

 どちらかというと、ニコライさんの方が鬼っぽいけど。


 その後、ぼくは昨日の冒険の様子をかいつまんで話した。

 「なるほど、だいたい分かった。三人の指導についてはこちらで考えるから、リョウヘイはいつも通りでいいぞ。」

 やっぱりあの三人の新人を指導するためにぼくを付けたみたいだね。

 「三人と組んで外の仕事を受けてもいいが、やはりまだ森の中の仕事は止めておいた方が良さそうだな。」

 だったら何でいきなり薬草採りの仕事をやらせたの!?


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