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第十八話 初めての冒険 その5

2021/12/21 誤字修正

 いやー、今のは本当に危なかった。やっぱり魔物は油断できないね~。

 猿は弱い魔物だったから、セルフブーストした腕力で殴れば一撃で沈んだし、セルフプロテクションの鎧を貫く攻撃もなかった。

 ぼくが乱入して猿たちの連携が乱れた後は、ジョンも一匹ずつ確実に倒して行ったから、割とすぐに戦闘は終了した。

 けれども、追加で現れた猿の数がもっと多くて、後衛のハリーやマークまで攻撃対象になっていたらどうなったか分からない。

 ぼくだけならセルフプロテクションで守りを固めて自爆技の魔術でどうにかなったと思う。でも離れていたジョンとハリーとマークの三人全員を同時に守ることはできない。

 状況によっては、誰かが大怪我――最悪死んだかもしれない。この三人仲がいいから、一人でも死んだら冒険者続けられなくなるんじゃないかな。


 さて、戦闘は終わったけれども、まだやらなければならないことが残っている。

 ぼくたちは冒険者。

 魔物と戦って倒した。

 では次にやることは何か?

 そう、倒した魔物の死体から有用な素材を回収する、俗に言う「剥ぎ取り」である。

 急ぎの依頼を行っている途中なんかだと放置することもあるそうだけど、今のぼくたちにそのような選択肢は無い。

 なぜならば、ぼくたちは新人(ニュービー)でお金のない冒険者だからだ!

 魔物を倒すという労働の対価を得るためには、魔物の素材を回収するところまでやる必要があるのだ!

 猿はそれほど大きくないから、一匹くらいならそのまま担いで持ち帰ることもできる。でもさすがに四人で十匹は無理だ。

 だからこの場で解体して、お金になる部分だけを持ち帰ることになる。

 え? ぼくに魔物の解体なんかできるのかって?

 できるよ。

 やったよ!

 やらされたよ!!

 おっさんに、街中でできる冒険者らしい仕事があるって騙されて、気楽に受けた依頼が冒険者の持ち込んだ魔物の解体作業だった。

 イエローモンキーは東の森ではありふれた魔物で、ある程度実力を付けた冒険者にとってはただの雑魚だ。だから、たまにまとまった量の魔物の死体が冒険者ギルドに持ち込まれることがある。

 希少で高価な素材の取れる魔物や、解体に特別な知識や技術を必要とする魔物ならば専門の解体業者に任せる。でも、ありふれた魔物ならばちょっとやり方を教えれば素人でも解体できる単なる作業だった。

 そんなわけで、大量の魔物の死体が持ち込まれると、下っ端冒険者を動員して解体作業を行うことになる。ぼくはそれに巻き込まれたのだ。

 猿ならばいやになるほど解体したよ~。誰だよ、あんなにたくさん猿を狩ってきたやつは!

 その時の報酬で、ついつい解体用のナイフまで買っちゃったよ。見事に今日役に立ったよ。

 ぼくだけじゃなくて、ハリーも解体の経験があった。さすがは狩人の息子だね。

 だから、ジョンとマークが見張りをして、ぼくとハリーで解体をしている。

 でもいずれは解体を経験することになるんだからね、二人とも!

 さて、それではさっさと解体を終わらせよう。のんびりしていると血の匂いに誘われて別の魔物がやって来ることもあるらしいし。


 イエローモンキーから採れる素材にたいしたものは無い。

 まずは魔石。魔物の持つ魔力が固まったものとも、魔力を蓄積する器官とも呼ばれるもので、ファンタジーな異世界では定番だよね。

 魔力を利用した便利グッズの動力源になったりするそうで、間違いなく買い取ってもらえる。

 イエローモンキーの場合胸の真ん中、心臓の上あたりにある。雑魚魔物らしく小さくてしょぼい。

 でも、いくらしょぼくても魔石は大きさの割に価値が高い。解体する暇がなかったり、荷物が一杯の場合はとりあえず魔石だけ回収することも多いらしい。

 別名、魔物の宝石。

 次に、肝臓と睾丸が薬の材料になるらしい。何の薬になるのかは知らないけど、お金になるのでこれも回収。

 あ、十匹とも雄だった。

 それから毛皮。

 イエローモンキーの黄色い毛皮は、ちゃんと加工すると光の加減で金色に見える、ということで貴族向けの高級商品とかにも使われるらしい。雑魚魔物なのに!

 イエローモンキーの毛皮のコートとか、イエローモンキーの毛皮の絨毯とかあるんだろうか?

 後は尻尾。何に使うのかは知らないけど、これも買い取ってもらえる。毛皮と一緒に加工するのかな。

 肉は一応食べられるらしいのだけど、不味いそうで大した値が付かない。かさばるだけだから破棄!

 骨とかその他の内臓なんかも何かに使えないこともないらしいんだけど、ほとんど二束三文でしか買い取ってもらえないので捨てて行く。

 ということで、ジャンジャン解体して行って、持ち帰る部分だけを種類別に袋に詰めて行く。念のために袋をたくさん持ってきておいてよかったよ。

 十匹全部解体が終わったので、セルフピュリフィケーションで汚れを落とす。

 すまぬハリー、この魔術は自分しか奇麗にできないんだよ。水出してあげるから、それで汚れを落としてね。

 さて、持ち帰る素材を回収した後の魔物の死体なのだけど、燃やすか埋めるかすることが推奨されている。

 森の中なので放置しても動物か魔物が片付けてくれるだろうし、解体してバラバラになっているのでゾンビになって甦ることもないだろう。

 ただ、倒した魔物の死体をまとめて放置しておくと、稀に餌を求めて集まった魔物がその場に巣を作ったり、大繁殖を始めたりすることがあるのだそうだ。

 どーやって調べたんだろう、そんなこと?

 これ全部焼き尽くすのは大変そうなので、埋めることにしよう。

 (テラム)の魔法文字を書いて魔力を込めると、魔物の死骸をまとめておいた地面ごと下に沈んで行った。

 「「「おおー!」」」

 名付けてセルフディグ。発動位置をしっかり意識しておかないと、自分が地中に沈むことになるんだよね、これ。

 模擬戦の時に落とし穴を掘ってルークさんを落とせないかと考えたんだけど、地面の沈む速度が遅くて無理だった。

 ルークさんだと地面が沈み始めた時点で気が付いて躱しちゃうんだよね。予め深めの穴を掘っておいてその上に誘導しようとしても、下手するとぼくの方が落とされそうだし。

 そろそろいいかな。穴の深さが一メートルくらいになったので沈むのを止めて、まだ残っている(テラム)の魔法文字を使って埋める。

 穴を開けた時の土はどこに消えたのだろう? 埋めた時の土はどこから出てきたのだろう?

 まあ、気にしても仕方がないか。

 後片付けも終わったのでぼくたちはその場を後にした。

 今度こそ無事に帰るぞー!


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