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第十七話 初めての冒険 その4

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2021/12/21 誤字修正

 「ちょっと待って、何か物音がする。魔物かもしれない。」

 しばらく進んだところで、強化した聴覚が怪しい音を捉えた。動物の鳴き声っぽいけど、森の中なら魔物かもしれない。それが進行方向から聞こえて来るのだ。用心した方がいい。

 「ちょっと見て来るから、みんなはここで待っていて。」

 そう言って、ぼくはセルフブーストで強化した脚力で近くの木の枝に跳び乗った。

 地面を歩くよりもこの方が速いし、足音も立てずに済みそうなんだよね。

 驚いている三人をその場に残し、ぼくは木から木へと飛び移って行った。

 「この辺りだと思うんだけど……」

 ぼくはそーっと木の上から下を覗き見る。

 いたよ。魔物だ。

 黄色っぽい毛の猿に見えるけれど、あれも立派な魔物だ。

 東の森ではありふれた魔物で、たまに冒険者が狩って来るので、ぼくも冒険者ギルドで見たことがある。死体だけど。

 名前はイエローモンキー。

 誰だ、こんな名前つけた奴は! まあ、見たまんまだけど。

 大きさは人間で言えば五、六歳児程度で、力もそれほど強くない。魔物としては弱い部類で、一対一ならばFランクの冒険者、つまりちょっと喧嘩慣れした一般人でも倒せる程度らしい。

 ただし、そこには猿が六匹いた。腕試しに挑むにはちょっと数が多い。

 魔物も休憩中なのか、地面に腰を下ろしてくつろいでいるように見える。おかげでこちらに気付く様子が無い。

 ぼくはそっとその場を後にした。


 「「「魔物を倒して行こう!」」」

 見つけた魔物のことを話すと、三人とも俄然やる気を出した。

 魔物を見つけたことで、大活躍の夢が再燃したのだろうか? ここはニコライさんに再登場願うべきか?

 でもまあ、この場合進行方向の魔物を倒して行くというのは悪くない考えかもしれない。

 たとえ進む方向を変えて回避しようとしても、相手の魔物だって好き勝手に動く。確実に回避できる保証はない。

 それに、近くにいる魔物が先ほど見つけたものだけとは限らない。回避した先で魔物との戦闘になり、そこにさっきの六匹が乱入してきたら目も当てられない。

 先に魔物を見つけた今ならばこちらから不意打ちを仕掛けることができる。出会い頭の遭遇戦や魔物から不意打ちされる場合に比べたらかなり有利になる。

 「とにかく、直接魔物を見て作戦を立てよう!」

 そんなわけで、魔物の近くまで行ってみることにした。


 そろーり、そろーり。

 ぼくたちは息をひそめて、足を忍ばせて、慎重に進んで行った。

 前方の魔物に気付かれないようにするだけでなく、それ以外の魔物に襲われないように警戒もしなければならない。結構神経使うよ、これ~。

 そろーり、そろーり。

 そろそろだな。

 木で遮られて直接見えなかったし、真直ぐに近付けなかったけど、それほど離れていなかったんだよね。

 木に隠れるようにしてそーっと覗き込むと、いたいた、さっきの猿の魔物が六匹。

 幸い反対側を向いているし、警戒している様子もないのでこちらには気付いていない。魔物も気を抜くことがあるんだねぇ。

 どーでもいいけど、魔物が何でヤンキー座りしているんだろう?

 実物を確認したので、一旦下がって作戦を立てる。

 「奇襲を仕掛けよう。ハリーとマークが不意打ちで一匹ずつ仕留めれば四対四で同数になる。そうしたら俺が突っ込むから、ハリーとマークは後方から支援、リョウヘイは二人の護衛を頼む。」

 ジョン君がてきぱきと作戦を決めて行く。

 この三人、同郷で冒険者になる前から一緒に行動していたらしくて、連携が取れている。作戦の中心は三人に任せて、ぼくは守りに専念すれば良さそうだ。


 「それじゃ、始めるぞ!」

 再び魔物の見える場所までやって来た。今だに魔物に気付かれていないことを確認して、ジョン君は作戦の開始を決めた。

 「ハリーは右側、マークは左側の奴を狙ってくれ。」

 ハリー君とマーク君が左右に分かれて攻撃の準備に入る。

 「マークの好きなタイミングで仕掛けてくれ。オレが合わせる。」

 そう言って、ハリー君は弓に矢を番える。うーん、このやり取りだけ聞いているとベテランの冒険者みたいだ。

 マーク君は一つ頷くと、

 「偉大なる火の神プロメテウスよ、我に(イグニス)を与え賜え……」

 ()()()()()を開始した。

 ええ~!?

 もしかして、これが例の中二病派?

 ――どうやら、意外と身近に同胞がいたようだな。

 あ、帰ってきた黒歴史さん。仲間を見つけて復活しちゃったか。

 ――我は滅びておらぬ! それより見よ、あの者、呪文を唱えることによって魔力を増大させておる。

 そう、呪文を唱えるマーク君の体から湯気のように魔力が立ち上っていた。たぶん、魔力操作で体内の魔力を掻き集めているのだろう。

 でも、外に漏れる分魔力の無駄遣いだから、ちょっと無理をして魔法の威力を高めようとする場合以外はそんな真似はしないってエリーザさんが言ってたっけ。

 それよりも、問題なのは――

 ――うむ、あの呪文はセンスがないな。神から力を借りていたら、神と戦う時に手が出ないだろう!

 ちっが~う! 問題は時間がかかりすぎること。エリーザさんだったら既に三回は攻撃魔法を出しているよ。

 両手で指パッチンすれば一度に二発攻撃が出るから、もう魔物を全滅させている頃だよ。さすが、一流の冒険者は違うなぁ~。

 今回は相手に気付かれていない状態からの奇襲だから時間があるけど、戦闘が始まったら魔法で攻撃する暇がないんじゃないかな。

 これだけ時間をかけていたら相手だって妨害してくるだろうし……あ、だから後衛の護衛としてぼくが必要だったわけか。

 そうこうするうちに、呪文も終盤に差し掛かったようだ。隣でハリー君が矢を番えた弓を引き絞り、狙いを定めている。

 そして、マーク君がちょろっと魔法術式を書く。書いた魔法文字は三文字。使用する元素である(イグニス)と形状を示す(ビルガ)、それと飛ばす方向を示す(アンテ)

 後は詠唱で高めた魔力とイメージで補うのだろう。

 森の中で火の魔法というのも危なそうだけど、生木はそう簡単に燃えないし、いざとなったらぼくが水を出して消せばいい。

 ……その気になれば、自分で出した水で溺れそうになるくらいの水、出せるよ。

 「――炎の矢(フレイムアロー)!」


 ――パチン!


 現れた棒状の火が、矢のように魔物に向かって飛んで行く。


 ――ヒュン!


 ほぼ同時にハリー君の放った矢も、魔物に向かって飛んで行く。

 そして吸い込まれるように魔物に……おお、両方ともヘッドショットだよ。先制の奇襲で見事に二匹倒した。

 「キキキキー!」

 「キーキーキキ!」

 いきなり仲間が倒されてパニックになる猿たち。

 「どりゃあー!」

 そこへ、矢の後を追うように走り込んだジョン君が、勢いのまま剣を振り下ろした。為す術もなく一撃で倒れる猿。これで三匹目!

 そして返す刃で隣の猿を……あれ、斬り上げない。もう一度大きく振り上げて、慌ててジョン君の方に振り返った猿に向けて一気に振り下ろす。これも決まって四匹目。

 残った猿たちがようやくジョン君に向けて戦闘態勢を取るけれど、もう残りはたったの二匹。

 こちらにはハリー君の弓による支援もあるし、時間をかければマーク君の魔法も飛んで行く。よほどのことがない限り負ける恐れはない!


 ――ガサガサ


 そんなことを考えていたら、森の奥から追加で猿が出てきた。それも四匹も。

 よほどのこと、起っちゃったよ!

 これはまずい。一匹一匹はたいしたことがなくても、六匹まとめてかかってきたら、ジョン君一人で捌ききるのは難しいだろう。

 「ハリー君、急いで射て! 少しでも数を減らさないとジョン君が危ない!」

 慌ててハリー君が弓に矢を番えるけど、その手が急に止まった。

 「だ、駄目だ! 視界に人がいるうちは弓を引けない!」

 え? 何で?

 あ、もしかして、狩人の掟みたいなやつ?

 確かに狩人だったら誤射して人に当てないために必要なことだね。

 でもあれだけ精密射撃やっておいて、この非常時にそんなことにこだわるか……いや、ハリー君頭で分かっていても体が硬直したように動かないみたいだ。どれだけ厳重に叩き込まれているんだよ、狩人の基本動作。

 まずいな。マーク君の魔法はまだ時間がかかる。それまでジョン君が持つか?

 ジョン君は剣を振り回して猿たちを牽制しているけど……あれ? なんかジョン君の動きも今一つ冴えないような……

 ああっ、もしかしてジョン君って、剣を振り下ろす動作以外は全然ダメだったりするのか?

 少なくとも、剣を振り下ろせば一撃で猿を倒せるくらい鋭いのに、横や斜めに振った時にはぼくと大差ないくらい素人っぽい。

 まずい。これは本当にまずい。このままじゃジョン君死んじゃうよ。

 どうしよう。ほんとどうしよう。どうすればいい?


 ……やるしかない。


 今この状況をどうにかできるのはぼくだけだ。

 問題はどうやってこの事態を解決するか。

 ここからではぼくの魔術は届かない。一応持ってきたプチプチを使えば届くけど、それは本当に最後の手段だ。

 セルフブーストで強化してぶん殴れば猿くらい蹴散らせそうだけど、その場合こちらの守りが無くなる。

 でもまあ、後衛の二人は現時点で狙われているわけでもないし、近くに魔物がいるわけでもない。襲われそうになったら戻ってくればいいか。

 「ハリーは周囲を警戒して魔物に襲われたら大声で知らせて! マークはなるべく急いで魔法攻撃! ぼくはジョンを助けて来る!」

 ぼくは二人にそう言うと、セルフブーストで身体強化して、猿たちの群れに突っ込んで行った。


「イエローモンキー」……東洋人(黄色人種)に対する蔑称だったが、今は使われることのほぼ無い死語。検索すると、ロックバンドの「THE YELLOW MONKEY」の方がたくさん引っかかったりする。


新人冒険者三人組は、中二病派の実例を示すために出しました。ある意味、ジョンとハリーはマークのついでに作ったキャラです。三人一組扱いでジョンが代表なのでマークの影薄いですけど。

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