表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/62

第十六話 初めての冒険 その3

2021/12/21 誤字修正

 ぼくたちは四人でまとまって森の中を彷徨っていた。

 魔物の襲撃に備えつつ何処に生えているのか分からない薬草を探すため、先頭を歩くジョン君と殿のぼくが魔物の警戒、間のハリー君とマーク君が薬草を探すという役割分担になった。

 森に入る冒険者がそれなりにいるのか、地面には獣道っぽいものができている。……これ、魔物の通り道じゃないよね?

 冒険者の通り道だったら、通りかかった冒険者が薬草を見つけたら採取するだろうから残っていないんじゃないだろうか。

 魔物の通り道だったら薬草は残っているかもしれないけど、いつ魔物に出くわすか分かったものじゃない。

 だったら獣道を使わなければよいかというと、その場合非常に歩き難くなる。それに目印のない森の中では迷いやすい。

 でも、獣道を通っていれば迷わないということではないんだけどね!

 ぼくはもう今どのあたりにいるのかよく分からないよ!

 ジョン君は分かっているのかな?


 「あ、あれじゃないかな?」

 最初に気が付いたのはマーク君だった。

 三角形の葉っぱに赤みがかった縁取り。うん、間違いなさそうだ。たまに冒険者ギルドで納品している人がいるから、ぼくは薬草を見たことがあった。

 採取の方法は確か……

 「薬草は葉っぱの部分だけ採ればよかったはず。ただ、葉が破けていると駄目だから、葉柄の部分を持って摘むこと。」

 これで良かったはず。ギルドの窓口で破けた薬草の葉っぱを提出してダメ出しを食らっていた人もいたなぁ。

 時刻はそろそろ昼時。森の中では枝葉に遮られてあんまり空は見えないのだけど、全く日の光が届かないわけじゃない。広く伸びた枝葉の間から差し込む木漏れ日が、太陽が天頂あたりにあることを教えてくれる。

 ……あれ? 薬草の生えている場所って、日の光が地面まで届いているあたりだ。このことを知っていたら、もう少し早く見つけられた……かな?

 それはそうと、さっさと採取して帰らないと。この辺りにある分で必要な数は揃うはずだ。

 もうお昼だからと言って、こんなところでお弁当を広げるわけにはいかない。そんなことをしていたら何時魔物に襲われるか分かったものではない。

 あ、しまった! つい全員で薬草に見入っちゃったけど、この場を魔物に襲われたら危ない。

 「ぼくが見張りをやっているから、急いで採取しちゃってよ。」

 「「「わかった!」」」

 ぼくはセルフブーストで聴力を強化して周囲を警戒する。これ、近くで騒がれると凄く五月蠅いんだけど、見通しの悪い森の中では視力を強化してもあまり役に立たない。

 三人ともさすがに森の中で大声で騒ぐことはしないし、薬草の採取に集中してるから大丈夫だろう。


 「これだけあれば十分だろう。そろそろ引き上げよう!」

 依頼書の指示は、チュートリアル依頼らしく薬草の葉を十枚採取となっていた。けれど、見かけた薬草の葉を片端から採取したので、優にその五倍を超える数を確保していた。

 まあ、薬草は採れば採っただけ買い取ってもらえるから問題はない。

 ジョン君達も、ニコライさんのおかげですっかり良い子になって、依頼を終わらせることを優先したみたいだ。

 「それで、誰か帰り道を憶えていないか?」

 ああっ、先頭を歩いていたジョン君も道を憶えていなかった!?

 ま、まてまて、落ち着け。まだ想定の範囲内だ。こういう場合は……

 「南へ進めばどこかで街道にぶつかるはずだ!」

 「「「おお、なるほど!」」」

 街道は東の森を貫通して隣の辺境都市まで続いているという話だ。ぼくたちは街道から北に向かって森の中に入ったわけだから、今度は南に向かえば必ずどこかで街道に出る。

 東の森で迷ったら、とにかく街道を目指せ。おっさんの受け売りだけど、三人の尊敬の眼差しを集めてしまった。今日何度目だ?

 まあ、ともかく街道を目指そう。えーと、南は……

 「「「「あっち!」」」」

 おいぃ~! 見事に全員バラバラな方向を指さしたよ。どーしよう?

 「ちょっ、ちょっと待ってて。」

 みんなで困っていると、ハリー君が近くの木に駆け寄って、何やら調べ出した。

 そう言えば、切り株を使って方角を知る方法があったはずだなぁ。

 あれ、でもこの辺りに切り株なんてないぞ。ハリー君が調べているのも普通に生えている木だし。

 まあ、いざとなったらジョン君にでも切り倒してもらうか。攻撃魔術でもできるけど、太い木をバッサリ切れる威力のやつはちょっと怖い。

 「えーと、苔の生えている方が北だから……うん、あっちが南だ!」

 ハリー君が自信をもって断言した。

 根拠も自身もありそうだし、とりあえず森の中の行動に慣れているはずの狩人(の息子)の言葉を信じることにした。


 帰りも先頭をジョン君、最後尾をぼく、その間をハリー君とマーク君という隊列で歩いている。

 往きと違うのは、全員で魔物の警戒をしていることと、たまにハリー君が方角を確かめていることくらいだ。

 森の中は真直ぐに歩けないし、獣道もグネグネ曲がっていたり途中で途切れていたりとあんまり当てにできないからね。

 みんなの足取りは軽い。依頼書に指定された数を大きく超えた薬草を採取したのだ。ちょっぴり浮かれているのか、魔物を倒して活躍しようと言っていたことも忘れているみたいだ。

 もしかして、これを狙って依頼書の数の指定が少なめだったのかな?

 でも帰って報告が終わる迄が依頼というもの。依頼が上手くいって、さあ帰ろうというところで油断して大失敗、などという話をぼくは山ほど聞かされた。主におっさんから!

 本当にあった怖い話・冒険者編!

 いや、別に怪談じゃないんだけど、実話だけにやたらと生々しくて怖いんだよ!

 ぼくが怖がっているのが面白いのか、おっさん、嬉々として色々話してくれたからなぁ。そこに便乗して他の冒険者なんかも怖い話をしてくるんだよ~。

 よくある失敗談が、油断して警戒を疎かにした結果、魔物に奇襲されるというもの。で、そういう時に限って、「その辺りにはいないはずの強い魔物」が襲ってくるというのが定番。

 おっさんも、「その時食いちぎられたのがこの耳だ!」とか言ってわざわざ見せなくてもいいから!

 他には、道を間違えて危険地帯に突入! なんてパターンも多かったなぁ。

 まあ、道の方はハリー君がちょくちょく方角を確かめているから大丈夫だろう。そもそも、街道を横切らなければ危険な南の森には行けないし。

 そんなわけで、ぼくは魔物の警戒に神経を割いている。セルフブーストによる聴覚強化もやっているよ。前を行く三人がちょっと騒がしいけど、一応魔物を呼び寄せないように声を潜めているので許容範囲内。

 後は……倒した魔物の処理がいいかげんで、ゾンビになってぞろぞろと後を付いてきたなんて話もあったっけ。まあ、魔物に遭遇してから考えよう。

 他には……美味しそうな木の実が生っていたから食べたら毒だったとか、美味しそうな茸が生えていたから食べたら翌日全身から茸が生えてきたとか……

 うん、拾い食い厳禁な。というか、素人が知らない茸を食べようとするな!

 それから……夜営をしていると、用を足しに出たり不審な物音を聞いたりして一人また一人と消えて行くとか……

 それって普通にホラーじゃん。今日は絶対に日のあるうちに帰るぞ!


「切り株を見て年輪の広い方が南」という話をよく聞きますが、これはあまり当てにならないそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ