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第十四話 初めての冒険 その1

 翌日、ルークさんとの朝の訓練を早めに切り上げて、三人と合流した。

 そして、四人でパーティーを組んだことを報告して、いよいよこのパーティーとしての初仕事だ。

 なのだけど、……

 「なあなあ、もっと冒険者らしいと言うか、魔物と戦ったりする依頼はないのか?」

 「ないわよ~。新人四人のパーティーじゃ、いきなり討伐系の依頼は受けられないのよ~。」

 受付でライザさんに絡んでいるのは、ジョン君だった。

 ……、って見ている場合じゃないよ、止めなくちゃ!

 「そ、その依頼受けます! 受けさせてください!」

 ぼくは慌てて割り込んだ。

 「はいは~い。薬草採取の依頼、受理しました~。それじゃあ、リーダーのジョン君? プレートを出してね~。」

 おっとりしているように見えて、笑顔のまま無言の圧力をかけて来るライザさんに押されて、ジョン君は自分のプレートを取り出す。

 冒険者の身分証は、プレートと呼ばれている。激しい戦闘があっても簡単には破損しないように金属製のプレートでできているからだ。冒険者カードじゃないんだよね。

 まあ、ともかく依頼は無事受けられた。仕事に行くぞー!

 「なに邪魔するんだよー。もっと冒険者らしい冒険がしたいじゃないかー。」

 ジョン君は不服そうだ。

 「「「早く活躍して、女の子にもてたいんだ!!」」」

 ハリー君やマーク君も同じ意見のようだ。うーん、勇敢というか無謀というか。

 冒険者としてぼくの方がほんのちょっと先輩なわけだし、ここはちゃんと教えておかないといけないね。

 「この依頼、たぶんギルドマスターのおっさんの指名だから、窓口でごねても変わらないよ。」

 薬草採取の依頼で採取してくる薬草は、一般にヒール草とか癒し草と呼ばれるものになる。冒険者の間でただ「薬草」と言ったらほぼこの草の事になるらしい。

 この薬草は、そのまま食べても回復効果がある(ただし滅茶苦茶不味いらしい)のだけど、薬草を原料に加工すると俗に「万能傷薬」と呼ばれる優秀な薬になる。

 傷口に振りかければ簡単な止血と消毒の効果があり、飲めば怪我の治りを早くし、スタミナも回復するという優れものだ。

 薬草以外の原料はありふれていて加工も簡単だから価格も手ごろで、中堅以上の冒険者には必須のアイテムらしい。新人には縁が無いけど。

 別名を「エイチピーポーション」と言う。略して単に「ポーション」と呼ぶこともある。

 ……『渡り人』の先輩方、ファンタジーな世界で活躍して嬉しいのは分かりますが、少々やり過ぎではないでしょうか?

 この世界、スキルや素質の確認とか保有魔力量の計測とかはできるけど、どのくらいのダメージを受けるたら死ぬかを数値化したヒット(H)ポイント(P)と言う概念は存在しないんだよね。

 後、ポーションを飲んでも即座に怪我が治って戦線復帰というほどの劇的な効果はない。

 それでも非常に有用な薬なので、薬草はいくらあっても困らないのだそうだ。

 だから薬草採取というのは常設扱いの依頼で、別に窓口で手続きをしなくても採ってくれば買い取ってもらえるのことになっている。そのため、別の依頼で外に出た冒険者が、薬草を見かけたら小遣い稼ぎに採取してくることが多いらしい。

 常設とは別に薬草採取の依頼が出されるとしたら、大量の怪我人が出るなどして緊急に薬草が必要になった場合などに限れらる。

 そんな非常事態でもないのに出された薬草採取の依頼は、つまり依頼の形をした訓練だ。チュートリアル依頼だった。

 「つまり、本格的な冒険者の仕事を始める前の練習用の依頼だよ。」

 だって、依頼内容に薬草の採取場所まで指定しているんだよ~。おっさん、ちょっと過保護じゃない?

 あのおっさん、恐い顔をしているけど、新人冒険者の育成に熱心なんだって。

 まあ、依頼のことはいいとして、ここではもっと重要な問題がある。

 「それはともかく、三人ともよく聞いて欲しい。ギルドの窓口で変な言い掛かりをつけたり、我儘を押し通そうとしてはいけない。絶対にだ!」

 ベテランの冒険者はよく知っているらしい、受付嬢を敵に回すということは最悪ギルドを敵に回すということになる。

 そして、ギルドの職員と一緒に生活しているぼくは、他にも色々と話を聞いていた。

 「以前、ルークさんが女湯を覗いたことがあったそうだ。」

 街中の依頼を受けて多少の収入もあったので、この前公衆浴場に行ってみた。風呂はいいよ~、人類の生み出した文化の極みだよ~。

 それで、この世界には混浴の文化は無かったようで、公衆浴場は男湯と女湯に別れていた。その男湯と女湯を隔てる壁を、ルークさんはよじ登ったらしい。

 「ルークさんは居合わせた女冒険者に袋叩きにされたけど、それとは別にその場にライザさん――さっきの受付の人――がいたんだ。」

 三人がゴクリと息をのむ。

 ライザさんが居合わせたのは偶然だそうだ。ルークさんがライザさんを狙ったわけでも、ライザさんがルークさんの凶行を予想したわけでもなかったという話だ。

 不幸な偶然の結果何が起こったかと言えば――

 「ルークさんの悪行は翌日にはリントのほぼ全ての女性に知れ渡り、その後ルークさんがいくらナンパしても即断れらるようになったそうだ。」


 ――ひえー!


 三人は声にならない悲鳴を上げた。この話の意味するところを理解したのだろう。

 懲りずにナンパを繰り返すルークさんも凄いけど、一日で知れ渡る情報の速さもとんでもない。リントって小さな町や村じゃなくて都市だよ。人口もたぶん何十万人もいるよ。

 「つまり、この街で女の子にモテたかったら、受付のおねーさんを怒らせてはいけない、絶対にだ!」


 ――コクコクコク!


 三人は真剣な表情で頷いた。今までで一番真剣な顔をしているんじゃないだろうか。


 ――クスクスクス。


 おや、背後から何やら笑い声が……。

 しまった! 本人に聞こえるところで話していた!

 ぼくたちは逃げるようにして冒険者ギルドを出た。


 辺境都市リントには、都市をぐるっと囲む都市防壁の東西南北にそれぞれ大きな門がある。

 北門は、王都方面へと向かう街道が続いている。大きな商隊がしばしば通過する門だった。

 西門からは、多くの開拓村へ行くことができる。開拓村を支援する行商や兵士、依頼を受けた冒険者なども出入りする門だった。

 南門の先には未開の大森林が広がっている。そこから他の町や村に通じる道はなく、出没する魔物も手強いため、ランクの高い冒険者以外は使用されることはほぼ無かった。

 東門からは隣の辺境都市へと続く道が伸びている。ただし、魔物の出没する森を通過するため商人は護衛の冒険者を雇うか、途中で街道を大きく北に逸れて森を迂回して行く。

 そしてまた、東の森は南の森に比べて現れる魔物も弱めで、遭遇する頻度も少ないと言われている。だからランクの低い冒険者は東の森で達成できる依頼を受ける。

 冒険者ギルドで寝泊まりしていればそのくらいの話は聞くし、おっさんからもそんな説明を受けていた。

 まあともかく、ど新人のぼくたちは当然東の森、それもごく浅いところで仕事をすることになる。

 そんなわけで、ぼくたち四人は東門へやって来ていた。冒険者ギルドは東門に続く大通りに面しているから近くてよい。

 リントは都市防壁の内側だけでもかなり広いから街中を乗合馬車が走っている。でも、冒険者なり立てで貧乏な若者は、ちょっとでも節約するために歩いて行くのが基本だ。

 ぼくたちはプレートを見せて東門を出た。

 「よーし、初仕事頑張るぞー!」

 「「オー!」」

 三人ともこれが初仕事だということで張り切っている。それはいいんだけど、ここだと門番の人からばっちり見えるんだよねー。あー、何だか「微笑ましいものを見た」みたいな顔で笑っているよ~。

 でもまあ、やるなら安全なこの場所でやっておくべきなんだよね。森の中で奇声をあげたりしたら、魔物を呼び寄せかねないからね。

 実は森の外でも、森から出て来た魔物に出会うことはあるらしい。でも、さすがにここまで門に近い所ならば、いざとなったら兵隊の人に助けてもらうこともできる。

 ……もっとも、強すぎる魔物とか大量の魔物を引き連れて来ると都市を守るために締め出されることもあるみたいだけど。

 とにかく、気合を入れた三人と共に、ぼくたちは東の森へ続く街道を歩いて行った。


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