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第十三話 パーティーを組んでみた

 「リョウヘイもそろそろ外に出る依頼を受けても良い頃だろう。」

 ルークさんの報告を受けて、おっさんがそんなことを言う。

 『外』というのはこの場合、辺境都市リントを囲む都市防壁の外という意味だ。それは多少なりとも魔物と遭遇する危険がある仕事だ。

 冒険者ギルドに保護されているぼくは、冒険者ギルドが大丈夫だと判断するまでは都市防壁の外へは出られないことになっていた。

 けれど、ルークさんから弱い魔物相手ならば十分に戦えるとお墨付きをもらったので、解禁になったわけだ。

 ……いまだにルークさんにはまともに一撃いれられないけど。

 「だが、お前の戦い方は少々特殊だ。一人で魔物の相手をさせるのは少々不安がある。」

 そりゃあ、原始魔術で戦うやつなんて他にいないだろうし。

 魔法使いは後衛だから、前衛の人に守ってもらいながら戦うものだろうし。

 あ、ぼく後衛はできないや。前衛ができるかというと、ちょっと自信ないけど。

 「そこでだ。リョウヘイ、お前パーティーを組んでみる気はないか?」

 へ?


 「俺はロドス村最強の剣士! の弟子のジョン。」

 「同じく、ロドス村一番の狩人! の息子のハリー。」

 「僕はロドス村唯一の魔法使い! に教えを請うたマークです。」

 「俺「オレ「僕たちは、冒険者になって活躍して、女の子にもてるためにこの街に来た!」」」

 同じ村から来たらしい三人組は、ぴったりと息の合った様子で自己紹介をした。

 しかし……、何だろうこの三人のルークさんJr感は。

 ちらりとルークさんを見ると、なんかいい笑顔でうんうんと頷いている。

 「この三人はロドス村という開拓村から来た冒険者志望の者たちだ。」

 おっさんもチラリとルークさんを見ながら、三人を紹介した。

 本当にルークさんの隠し子とかじゃないよね? この三人。

 まあ、見たところぼくと同じくらいか、せいぜい一年下くらいだろうから、二十歳前後に見えるルークさんの子供のわけはないけど。

 「こいつは事情があって冒険者ギルドで面倒を見ている、リョウヘイだ。」

 続いてそんな風にぼくのことを紹介する。

 ぼくが『渡り人』であることは秘密というわけではないのだけど、無用な混乱を避けるためになるべく公言しないことになっていた。

 「亮平です。よろしく~。」

 だからぼくも無難な感じで自己紹介する。

 うーん、でもちょっとこういう時困るなぁ。ぼくは自分のことを何と言えばいいのか?

 魔法の使えない大魔法使い? 何その役立たず。

 原始魔術の使い手? やっぱり世間一般としては役立たずだよね。

 殴り魔術士? ぼくの現状をよく表しているけど、通じないよねぇ~。

 どぶさらいのプロ? 小遣い稼ぎに何度かどぶさらいをやって絶賛されたけど、プロになる気はないよ。

 「この三人は、各々の実力は駆け出しの冒険者としてはまあまあだ。だが、パーティーとしては少々バランスが悪い。」

 おっさんは気にせずに話を進めた。

 確かにそうだよね。剣士、弓使い、魔法使いの三人では前衛が剣士のジョン君だけだ。

 狩人のハリー君が接近戦もできるのならまた話も違ってくるんだけど、おっさんが「バランスが悪い」と言うからには遠距離攻撃専門なんだろう。

 「こちらのリョウヘイは戦い方が特殊で、攻撃手段に不安がある。」

 はいはーい、物理で殴るか自爆技の二択でーす。しかも接近戦闘のセンスが無いから、ルークさんにいつも翻弄されています~。

 「そこでだ、お前ら一度、四人でパーティーを組んでみないか?」

 これが今日、おっさんがぼくたちを引き合わせた理由だった。

 「リョウヘイは守りが固いから、敵の攻撃を受け止めたり、後衛を守ったりすることができるだろう。その間に他の三人が攻撃すればいい。」

 うん、守るだけなら得意だよ。防御に専念したらルークさん相手でも守り切る自信はある。その代り動けないけど。

 「なに、ずっと同じパーティーでいろというわけではない。ただこの四人ならばすぐにでも外の依頼を受けられるぞ。まあ考えてみてくれ。」


 冒険者の本分は冒険をすること。つまり、危険を伴う依頼をこなすことにある。

 それはつまり、分厚い都市防壁の外、魔物の徘徊する危険な場所で行われる依頼こそが冒険者の行うべき仕事と呼ばれるのだ。

 一方で街中で行われる依頼というものは、駆け出しの冒険者が『外』での仕事に耐えられる装備を買うための資金を稼ぐため、あるいは金に困った冒険者がしかたなく受けるというイメージが強い。

 いや、本当はどっちも大切な仕事なんだよ!

 街中の安全な仕事と言っても、困っている人がいるから依頼が出されるわけだし。実際、依頼を受けてちゃんと仕事すれば依頼主からは感謝されるし、そうすると冒険者の評判も良くなってギルドの職員からも喜ばれる。

 ただ、安全な街中の依頼というものは、冒険者でなければできない仕事ではない。

 むしろ、誰にでもできる仕事だから専門家を雇うよりも安くつく冒険者に依頼を出しているという場合が多いそうだ。

 だから、やっぱり冒険者らしい仕事というのは、安全な都市の『外』に出て行う依頼ということになる。

 それは、例えば森の中に生えている薬草を取って来るというだけの依頼であっても、魔物に遭遇して襲われる危険が付きまとっているのだ。

 そして危険な仕事である分、報酬も高く設定されている。更に遭遇した魔物を倒せば、高く買い取ってもらえる素材が得られる場合もあり、これも冒険者の収入源となっている。

 また、冒険者のランクを上げるために必要な依頼達成の実績というものも、危険な依頼を成功させた方が評価が高い。

 そんなこともあって、冒険者になった者はなるべく『外』の依頼を受けようとする。

 でも、それは命のかかった危険な仕事だ。

 冒険者は自己責任とはいえ、経験が浅く自分に可能な依頼を見極められない新人からどんどん死んでいったら、冒険者が育たない。

 だから冒険者ギルドでは、依頼内容と冒険者自身にランク付けを行った。困難な依頼は実力のある冒険者に行わせるための措置だ。

 特に冒険者になりたての新人に対しては、原則魔物と遭遇する危険のある『外』での依頼は認められていない。新人冒険者に与えられるFランクはそう言う意味だ。おっさんがそう言っていたのだから間違いない。

 新人冒険者が『外』の仕事を受ける方法は三通りある。

 一つは実力を示すこと。

 武芸でも魔法でもよいから、魔物と戦えるだけの実力を認めさせればランクが上がり、普通に『外』での依頼を受けることができるようになる。

 もちろんそれだけの実力が必要で、十分な実力を付けるまではひたすら修行するしかない。

 一つは優秀な装備を整えること。

 魔物の攻撃をことごとく防ぐ防具や魔物を一撃で倒す武器。そんなものがあれば、冒険者ギルドも文句は言わない。

 ただし、優秀な装備はすごく高いし、装備に頼っているとその装備を失ったら終わりだったりする。

 最後の一つはパーティーを組むこと。

 実力の不足は仲間と補い合えばよい。実力者(ベテラン)のパーティーに交ぜてもらえば安心だし、新人(ニュービー)だけでも協力すればワンランク上の力を発揮する。

 おっさんがギルドマスターとしてぼくたちに提案したのがこの方法だ。

 ぼくを含めて一人一人は冒険者としてはFランクで都市の外の依頼は受けられない。けれども四人でパーティーを組めば冒険者らしい依頼も受けることができる。

 けど、この方法を実践するにはクリアしなければならない課題がある。

 集めたメンバーでちゃんとパーティーとして機能するか?

 人によって攻撃方法も変わるし、得手不得手とか相性とかもある。

 下手をすれば、互いに足を引っ張ってしまう可能性もある。

 だから、パーティーを組む前に互いのことを知っておくのは大切なことだ。

 大切なことなんだけど。

 これはどうなんだろう?


 「お前が俺たちのパーティーに相応しいか、確かめてやる!」

 ここはギルドの練習場。目の前にはジョン君が立っております。剣を構えて!

 「お前がハリーやマークを守れるというのなら、俺の剣を防いでみろ!」

 いや、それを言ったのはおっさんで、それに、その剣って真剣じゃないですか!?

 ……あ、でも、防御を見せればいいだけか。

 セルフプロテクション~!

 「ええ!?」

 驚きの声を上げたのは、マーク君だった。魔法使いだから魔力の防壁が見えているんだろう。……見えていなかったら破門されていただろうし。

 一方、魔力の見えないジョン君は剣を振り上げたまま凄い勢いでこちらに突っ込んで来て……


 ――ベシン!


 防壁にぶち当たった。

 剣を振り下ろす前に防壁にぶち当たるとは……、剣の間合いって意外と短いんだね。

 「な、何だこれは?」

 「そこに魔力の壁があるんだよ!」

 状況が分かっていないジョン君に対してマーク君が説明する。

 「壁? だったら回り込めば……」

 「無理だ! 全方向に壁が作られている!」

 マーク君の声が悲鳴のようだ。

 セルフプロテクションを鎧のような形にできるのならば、防壁の形だって色々と変えられる。

 今やっているのは、ぼくを中心に半径一メートルくらいでぐるっと囲む形になっている。後衛の二人を中に入れて守れるくらいの大きさはある。

 さらに、この防壁は上下も閉じていて、全体としては卵型になっている。実は今ぼくは地面ではなく防壁の上に立っているのだ。

 ふ、ふ、ふ、ぼくの鉄壁の防御に死角はないのだよ!

 「ならば、壁ごと破るのみ!」

 そう言って、ジョン君は剣を振り上げた。

 なかなか前向きだ。それに、剣を構える姿が様になっている。剣の才能あるんだろうなぁ~。羨ましいなぁ~。


 ――ガシン!


 勢いよく振り下ろされた剣は、しかし防壁に受け止められた。

 「クソー、硬い!」

 剣の一撃はなかなかに鋭かったけど、さすがにルークさんには及ばない。この防壁は、ルークさんの本気の一撃でも破られないからね。

 「ならば、何度でも攻撃するまでだ!」


 ――ガシン!

 ――ガシン!

 ――ガシン!


 実はぼくの鉄壁の防御壁にも欠点、というか問題点がある。

 これで守っている間は反撃どころか場所を移動することもできないのだ。

 防壁に遮られて内側から外側への攻撃もできないし、ぐるっと囲んでしまっているので自分も防壁の外に出ることができない。

 まあ、自爆技の攻撃魔術ならできるんだけどね。今回は防御力を見せればいいだろうから、このままのんびりとジョン君の攻撃を受けることにする。


 「ハア、ハア、なんて固いんだ!」

 十分ほどでジョン君は音を上げた。

 いや、根性あるほうだと思うよ。ルークさんなんか一撃いれたところで、「あ、これは無理だ。」と諦めちゃったくらいだからね。見切ったとも言う。

 それに、攻撃を続けることには実は意味があるんだ。セルフプロテクションの防壁は攻撃を加えるほど効果時間が短くなる。

 最近は、防壁でも鎧でも何も無ければ三十分くらい持つようになったけど、今のペースでガンガン攻められたら、あと十分くらいで消えたんじゃないかな。

 物理攻撃よりも魔法攻撃の方が効果があるみたいで、剣でぼくのセルフプロテクションを突破するのはかなり難しいと思うけどね。

 それに、剣を振り上げて振り下ろすまでの間に次の防壁を作れるけどね。

 おや、へたばったジョン君の所にハリー君とマーク君が駆け寄って、何か話し合いを始めたみたいだ。

 じゃあ、もう腕試しは終わりでいいんだね。防壁は解除しておこう。

 最初に全周囲型の防壁を作った時は、解除の方法が分からなくて閉じ込められちゃったんだよなぁ~、自分の作った防壁に。

 後でエリーザさんに聞いて、魔力操作で解除できることが分かったんだけど、あの時はセルフプロテクションの効果切れまで出られなかったんだよなぁ~。

 はい、防壁解除。

 あっちも結論が出たみたいだ。

 「「「どうかパーティーに入ってください、お願いします。」」」

 いきなり下手に出たぁ~。

 君たち手のひら返すの早すぎない?


パーティーを組ませるために新人冒険者を登場させてみました。

はっきり言って三バカです。

ここに亮平が加わっても四バカになるだけだということを、当人たち以外はだいたい分かっています。

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