第十一話 魔術の修行をしてみた テイク2
今日は原始魔術の練習をすることにした。
いや、毎日やっているよ。原始魔術の練習も、指パッチンの練習も、魔法の勉強も、ルークさんとの戦闘訓練も。
今日の午前中の訓練では、ついにルークさんから一本取ったんだよ。フ、フ、フ。
セルフプロテクションで作った鎧の一部を長く伸ばして、ぼくの攻撃をギリギリで躱すと当たるようにしてみたんだ。
見えない武器による奇襲だよ。さすがのルークさんも引っかかった。
まあ、本来攻撃用の魔術じゃないから威力はたいしてなかったけど。
ルークさんも二回目からは引っかからなくなっちゃったけど。
毎回角度とか長さとか変えているんだけど、それでも的確に躱してしまう。
見えていないはずなのにどうやって避けているんだろう?
まあ、ともかくぼくの原始魔術は日々進化しているのだ!
ただ、それでも足りない物があった。
それはずばり、攻・撃・力!
今のところぼくの攻撃方法は、セルフブーストで力を上げて物理で殴るしかない。
それでも雑魚の魔物相手ならば十分に通用すると言ってくれたけど、ルークさん相手だと掠りもしない。
つまり、ルークさん並の技術を持った相手や、すばしっこい相手には通用しないということだ。
ぼくの才能は魔法に特化しているらしくて、剣や他の武器の扱いもなかなか上達しないんだよね~。
その代わり魔法の才能はすごいよ~。エリーザさんから借りた本に載っていた初級の魔法については全部魔法術式を憶えたよ~。使えないけど。中級の魔法も半分くらいは憶えたよ~。使えないけど。
あとは指パッチンだけなんだよー!
たぶん、魔法さえ使えればルークさんを圧倒できると思うんだ。いくらルークさんの動きが凄くても、面で制圧する魔法を避けることはできないだろうし。
そんなわけで、ぼくはこれから禁断の攻撃魔術に挑戦しま~す。
原始魔術で攻撃用の魔法を再現する方法は分かっている。
攻撃用初級魔法の魔法術式の二文字目以降をイメージと魔力操作で補えばいいだけだ。
実際にぼくはこの方法で幾つかの魔法を原始魔術で再現することに成功している。
ただし、発動した魔術は全て対象が自分になってしまう。
実は、セルフヒーリング、セルフプロテクション、セルフブーストにも該当する初級魔法が存在しているのだけど、魔法の方はセルフじゃなくて他人に対してもかけることができる。
この法則は、今のところ例外がない。つまり攻撃魔法を魔術で再現しても自分に向かって攻撃が飛んでくる可能性が非常に高い。
一応対策は考えてある。
セルフプロテクションで身を守りながら自分に向かって攻撃魔術を放てばよい。
ぼくの強力な魔法防壁に阻まれて攻めあぐねている相手を背後から攻撃することもできるだろう。
でも、いくつか問題がある。
第一に、射程距離が短い。
自分に向かう攻撃しかできないため、魔術の発動地点から自分自身までの間にいる相手にしか攻撃できない。
セルフライティングで試してみたんだけど、自分からだいたい二メートルくらいしか離せなかった。
第二に、威力の調節を間違えると自滅する。
セルフプロテクションを最大強度で展開すればそう簡単には破れないと思うけど、魔力の鎧状態では強度は数段落ちる。
相手を攻撃することに夢中になっていると、勢い余って自分まで被弾する危険があった。
そして最後に、……
無茶苦茶恐いんだよ、これ! 自分に向かってガンガン攻撃するんだよ、まともな神経じゃできないよ!
はぁ~。
でもやるしかないんだよなぁ。
プチプチを気楽に使えない以上、それとは別の奥の手は欲しいし。
まずは、セルフプロテクションで守りをがっちり固める。魔力の鎧よりも強力な防壁を作る。ここは手を抜かない。
セルフヒーリングで回復できるからと言って気を抜いて、即死しちゃったら目も当てられない。即死まで行かなくても気絶したらセルフヒーリングを使えないし。
それに、痛いのは嫌だ! セルフヒーリングでどのくらいまでの怪我を直せるかも分かっていないし、確かめる気もない。
さて、守りはがっちり固めたので、次はいよいよ攻撃魔術の実験だ。
火……は怖いので、最初は水から行ってみよう。
水の魔法文字を書いて、……発動地点は作った防壁の外側、ピンポン玉くらいの丸い水の塊を作って、一応向こうの的を狙って射出するっと。……それから、威力は最低で。
よーし、行くぞー。水弾発射!
――ペシ!
やっぱりこっちに向かって来たよ~。
一メートルくらい先に出現した小さな水の塊は、的を無視して真直ぐこちらに向かって飛んできた。そしてセルフプロテクションの防壁にぶつかって四散した。
うん、予想通り。外れて欲しかったけど。
まだ水の魔法文字は光っているから、もう少し試してみる。
――ペシ!
――ペシ!
――ペシ!
――ペシ!
うーん、やっぱり攻撃が自分にしか向かってこない。
魔術の発動地点は頑張って二メートル先くらいまで。でも離れると制御が難しくなるから、一メートル先くらいが実用的かな。
自分の身体のどの辺を攻撃対象にするかならばコントロールできるみたいだ。左手の先の方を狙うようにしておけば、万が一の時でも致命傷は避けられるかな。
さて、そろそろ次に行ってみよう。セルフプロテクションの防壁をいったん解除してっと。
そして、ここで取り出すのは、……ジャーン、角材!
試し斬り用に使っていい廃材が置いてあったので貰って来たものだ。ちょっと汚れているけど、太くて強度もありそうだ。
これを、セルフブーストで強化した力で、地面に突き立てる! よいしょ!
よーし、しっかりと突き立った。
それじゃ、セルフプロテクションの防壁を張り直して、この角材の柱を的に水弾を撃つ!
――パシ!
よし、命中!
まあ、一メートル無いからね。ちゃんと狙えば当たるよね。
次は連射してみよう。
――パシ! パシ! パシ! パシ! パシ! ペシ! パシ! ペシ! パシ! パシ!
あー、さすがに発動地点を変えながら連射すると狙いが甘くなるなぁ。
まあ、そこは練習あるのみ。
少し練習してみよう。
………………。
………………。
………………。
うん、だいぶ良くなってきた。この練習はまた後でみっちりやるとして、魔術の方に少し手を加えてみよう。
打ち出す水の弾を大きくしてみよう。
――パシン!
うわ、威力が増した気がする。
――パシン! パシン! パシン!
凄い、角材の先端が結構大きく揺れているよ。
じゃあ、撃ち出す速度を上げてみよう!
――バシン! バシン! バシン! バシン! ボキ!
か、角材が折れた!? この状態でも十分に攻撃力あるよ。
まだまだ威力を上げられそうなんだけど、ちょっと怖いなぁ。
じゃあ次は、水弾の大きさを小さくして、速度をもっと上げてみようか。折れた角材の、残った下の方を狙って……。
――ビシィ!
のわぁー、貫通したぁー!?
しかも、セルフプロテクションの防壁までぇー!?
慌てて左手をひっこめたけど、ちょっと掠ったよ~。セルフヒーリングー!
あ、防壁を貫通したんじゃなくて、セルフプロテクションの時間切れだった。
セルフプロテクションって強い攻撃を受けると、破れなかったとしても効果時間が減少するんだよね。
実戦で使うことを考えると、効果時間の管理じゃなくて、セルフプロテクションの状態を意識する必要があるのかな。
なんだか、また確かめることが増えてしまった。
セルフプロテクションの鎧モードでどこまで攻撃魔術を受けられるかの検証でしょ。
水以外の元素を使った攻撃魔術の確認でしょ。
射出以外の攻撃方法――出来たら範囲攻撃――の実験でしょ。
どこから手を付けよう?
一休みして考えよう。
それにしても、原始魔術が廃れた理由が分かった気がする。
やっぱり、自分に向けて攻撃魔術をぶっ放すなんて正気じゃないよね。ぼくは超強力な防壁で守れるからいいけど、そうでなかったら本当に自滅技だ。
それに、攻撃魔術は魔力の消費が激しい。今回の実験で、体感的に一割くらいの魔力を消費したみたいだ。
たかが一割と侮ってはいけない。ぼくの魔力量はエリーザさんの百倍あるんだ。つまり、エリーザさん十人分の魔力をこの短い時間で使い果たしたことになる。
今回ぼくは結構調子に乗ってバンバン水弾を撃っていたけど、エリーザさんだと数発撃ったところで魔力切れになってしまう。
トップクラスの魔法使いであるアリーザさんでそのくらいなんだから、普通の魔法使いなら二、三発で打ち止めじゃない?
それに、今使った水弾って初級の魔法をまねたものなんだよね。中級とか上級の魔法を再現できたとして、どうなるんだろう?
……全魔力を消費して、使えば敵を道連れに必ず死ぬ一発芸の大・自・爆!? ロマンだね~、すっごく嫌なロマンだね~。
セルフブーストくらいならそこまで魔力は消費しないんだけど、それだとルークさんに勝てない。
ぼくのセルフブーストはかなり規格外らしいんだけど、それでも一流の剣士に勝てないんだから、魔術師として活躍するのは相当に難しいんだろうなぁ。
ぼくが剣術とか格闘技とかをマスターするよりも、ルークさんに強化魔法かけた方が手っ取り早いし。
やっぱり、魔法使いたいよ~。
指パッチンできるようになる魔術ってない?
この時点で亮平の実力は戦闘に関しては駆け出しの冒険者を超えています。ルークと比較しているので本人気が付いていませんが。
それと、訓練の目的がいつの間にか打倒ルーク! にすり替わっているのですが、これも本人気付いていません。




