第一話 異世界に来た
新作連載始めました。
よろしくお願いします。
突然だけどぼくは今、異世界に来ていた。魔法とかのあるファンタジーな世界だ。
「最初は光を出す魔法を試してみましょう。これなら失敗しても危なくないわよ。」
そこで魔法の才能があることが判明したぼくは、魔法の使い方を教えてもらっている。
「うん、ちゃんとできているわね。あとは発動子――指先に魔力を込めたまま指を鳴らせば魔法が発動するわよ。」
よし、これでぼくも魔法使いだ。指先に魔力の光が灯っていることを確認して、ぼくは指を鳴らした。
――スカッ!
あ、あれ? 鳴らない。当然魔法も発動しない。
――スカッ!
――スカッ!
――スカッ!
しまった、ぼくは指パッチンができなかったんだ!!!
どうしよう?
事の始まりは数時間前に遡る。
「いやー、助かりました。突然良く分からない場所に出て困っていたんですよ。」
ぼくの名前は渡良瀬 亮平、15歳の中学生だった。何故かは分からないけど、異世界に来てしまったらしい。
「いえいえ、困ったときはお互い様ですよ。それに、『渡り人』とは珍しい。将来の英雄と知り合えただけで儲けものですよ。」
この人はレイモンドさん。たまたま近くを通りかかった商人だそうだ。気が付いたら見知らぬ森の中で困っていたぼくを助けてくれた親切な人だ。
『渡り人』と言うのは異世界からやって来た人のことをさすらしい。珍しいけれどぼくが初めてではないのだそうだ。
それはいいとして……
「将来の英雄ですか?」
「ええ、『渡り人』には何かしら特別な力が宿っていると云われています。歴史的にも大きな武功を上げた人や、大金持ちになった人もいますよ。」
「へー、そうなんですか。」
馬車にゆられながらそんなことを話していた。
馬車は荷馬車で、レイモンドさんが自分で手綱を取って御者をしている。ぼくはその横に乗せてもらっている形だ。
馬車の横を護衛の人が三人、歩いてついてきている。馬車はそれほど早くはないけど、平然とついてくるのは凄い体力だ。
やがて町が見えてきた。いや、結構大きい。町ではなく都市だった。頑丈そうな壁に囲まれていて中までは見えなかったけど。
「あれが辺境都市リント。この近辺で一番大きな都市です。」
最初に出たところが見渡す限り何にもない森の中だったから、てっきり小さな村くらいしかない未開の地だと思っていた。
馬車が近付くと、更にその大きさを実感した。都市を囲む壁は、高さ十メートルくらいあるのではないだろうか。それが左右にずっと続いているのだ。
中に入る門の所には、兵士らしき人が警備していた。出入りする人をチェックしていたみたいだけど、レイモンドさんが一緒のせいか、ぼくは特に何も言われずに中に入ることができた。
「『渡り人』は国でも保護していますが、まず冒険者ギルドに行くとよいでしょう。最終的に国の保護を受けるにしても、色々と相談に乗ってくれますよ。私も近くに行く用事がありますし、送って行きましょう」
そんなわけで、ぼくはレイモンドさんに連れられて冒険者ギルドに行くことになった。
「ここが、冒険者ギルド……」
依頼を張り出すための掲示板らしきもの。なんか放置されたままの依頼書らしきものが張られている。
受付窓口らしきカウンター。その向こう側で働く職員らしき人たち。
少し離れて酒場だか食堂だかになりそうな、テーブルと椅子が並んだ場所。窓口とは別のカウンターの向こうには酒瓶らしきものも並んでいる。
時間のせいか人が少ないけど、これで荒くれ者がたむろしていたら、どこかの漫画かイラストに出て来る、いかにもな冒険者ギルドだ。
人が少ないこと以外は、イメージ通り過ぎて逆に怖い。
「それでは私はこれで失礼します。後のことは冒険者ギルドに相談するといいでしょう。」
「あ、何から何まで、お世話になりました。ありがとうございます。」
レイモンドさんは、受付の人にぼくのことを軽く説明して、護衛の人と共に冒険者ギルドを出て行った。
ほんと、ぼく一人じゃ何していいか分からなかったから助かったよ。このご恩はきっと……返せたらいいな。
それはともかく、ぼくは受付のおねーさんに連れられて奥の部屋へとやって来た。
「おう、お前が『渡り人』か? 歓迎するぞ!」
えーと、部屋の中にいたのは、厳ついおっさん、軽そうなお兄さん、色っぽいお姉さんの三人だ。声をかけてきたのはおっさんだった。
「儂はヘルムート。リントの冒険者ギルドのギルドマスターをやっている。」
ああ、つまりこのおっさんがここで一番偉い人なのか。どうでもいいけど、厳つい顔で大声出されると怖いです。
「こいつらは、うちの冒険者で剣士のルークと魔法使いのエリーザだ。初心者の指導なんかもやってもらっている。」
軽そうなお兄さんが剣士のルークさんで、色っぽいお姉さんが魔法使いのエリーザさんね。
「は、初めまして、渡良瀬 亮平です。」
「ワタラセ・リョウヘイか。確か『渡り人』は後ろの方が名前だったな。それじゃあリョウヘイ、細かい話の前にちょいとこいつに手を置いてくれ。」
おっさんは何か黒い板のような物を取り出した。しかし、『渡り人』ってひょっとして日本人ばかりなのだろうか? まあ、中国の人とかも名前が後ろだけど。
「こいつは人の能力や素質を測定するもんだ。一部の職業の適性とかもわかるから、今後の身の振り方の参考になるぞ。」
黒い板に手を置いてみる。すると手を置いたあたりがぼんやりと光って、すぐに消えた。これはあれか、ゲームみたいにステータスとかスキルとかが表示されるやつ!
「よし、もう放していいぞ。」
ぼくが手を放すと、おっさんは人を呼んで黒い板を持っていかせた。あれ?
「結果が出るまでには時間がかかるからな、今のうちに聞きたいことがあったら答えるぞ。」
なんだ、すぐに分かるわけじゃないのか。
「えーと、それじゃあ、冒険者って何ですか?」
「そこからかよ。」
おっさんががくりと肩を落とす。
「元いた世界には無かった職業なので。」
冒険家ならいたけど、冒険者はいなかった……よね? 実は知らないだけで世界のどこかにいたりして。
「……そうか。簡単に言うとだな、依頼を受けて危険な魔物を倒したり、魔物が跋扈する危険地帯に行って薬草やら鉱物やらを採取したりと、色々する仕事だ。」
魔物、いるんだ。危険な世界みたいだ。
「あ、イメージ通りの冒険者だ。」
「ん? 冒険者はいないんじゃなかったのか?」
「だから、物語の中の冒険者。ただの乱暴者を英雄に仕立て上げるための職業。」
「人聞きの悪いことを……まあ、その通りなんだが。」
認めちゃったよ、おっさん。ギルドマスターとしてそれはどうなんだ?
「そこは否定して欲しかった……」
ルークさんがうなだれている。やっぱりただの乱暴者な冒険者もいるみたいだ。
「しかし、冒険者も冒険者ギルドも『渡り人』が、『異世界と言ったら冒険者でしょ!』というノリで作ったと聞いたが、元の世界にあったものを持ち込んだのではないのか……」
ああ、それって間違いなく創作物の冒険者や冒険者ギルドを再現したんだよ。ぼくの先輩方が大変迷惑をおかけしました。
だらだらと書いていたら長くなったので、タイトルの指パッチンできない部分を頭に持ってきました。
とりあえず、最初の一日目の四話分を毎日投稿します。