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08 世界を変えてしまうほどの恋

 ロゼは嫉妬がわからない。

 僕が誰を好きになろうとも、彼女は自分の好きを変えたりはしない。逆に言えば、彼女は自分が好きであればそれでいいのだ。

 ワガママではある、勝手な話ではある。だからこそ、僕にそれを押し付けていない。ということだろう。


「ねぇロゼ……もしロゼは、自分よりも魔法力の高い人に、好きだって言われたらどうする?」


「それは、恋愛力を高めた貴方のこと?」


「僕以外の誰かだよ」


 この世界において、もしそう迫られたら、迫られた側は断れない。断るという選択肢すら生まれないだろう。それが当然で、だからこそ、僕はそう問いかけた。

 答えは、



「死ぬわ」



 あまりにも端的だ。

 とはいえ、衝撃的な答えでも、意味はわかる。

 僕にしたことと、同じことをしようというのだ。


「自分を死んだことにして、そいつの前から消えるわ。私が貴方以外を好きになることはありえないもの」


「……だろうね」


 ――ロゼなら、そう答えるだろうと思っていた。実際にそうしたのだから、今度もそうするだろうと、彼女はためらわないはずだ。

 であれば、


「だったら、ロゼより魔法力の高い人が僕に対して自分のモノになるように言ってきたら?」


「だとしても、私がアンタを好きな気持は変わらない」


「僕を自分のものにした人が、自分だけを見るようにしたら? 僕がそれを肯定するしかなかったら?」


「……それでも、私の思いは変わらない」


 そんな、ロゼの瞳は頑なだった。僕自身がどうにかなってしまったとしても、僕が生きていて、そしてロゼが僕を好きでいられるなら、今のロゼはそれで幸せなのかもしれない。

 だとしたら、僕にはもう、かけられる言葉はないのではないか。


 いや、だとしても。


「だったら、きっとロゼの思いはそれでいいんだと思う。たとえ僕にとっておかしくたって、ロゼがそうしたいのを、僕は止められないんだから」


「……」


 僕には一つだけ、確かな事があった。


「でも、一つだけ言えることがある」


 それは、



「この場合、悪いのは僕を奪おうとする誰かと、そうすることを肯定する世界じゃないかな」



 この世界は間違っている。

 ああ、だから。


「僕には、前世の知識がある。アスモはこれを異能だって言った。だったらそこに、きっと何かの意味がある」


「その知識があれば、世界を変えられるの?」


「わからない。世界を変えたのは僕じゃないから。僕の知識に僕はいないから」


 ――この世界を変えたのは、ゲームの主人公だ。

 とはいえ、それはいわゆるトゥルーエンドと呼ばれるエンドにおけるルートでのことであり、主人公がそれ以外の未来を選べば、その限りではない。

 だから、僕がいることにもきっと意味がある。


「世界を変えるってことは、世界を知るってことだ。だから、ロゼ」


「……うん」


「その中で探せばいい。今は見つからなくても、わからないのなら、知ればいいんだ」


 もしも、本当にロゼが嫉妬せず、僕に好意を向ける誰かを許容できるなら、それはそれでも構わない。でも、だからって、わからないことを構わないですませるのはだめだ。



「そのために、世界を変えよう、ロゼ」



 ああ、結論はそこだった。

 僕はロゼを説得する言葉はない、僕だってわからないのだ。この世界のことを、僕はほとんど知らない。知識と、虐げられた過去しかない。

 だったら一緒に知っていけばいい。


 僕にも、ロゼにも、自由は間違いなく存在するのだから。


 そう、願いをこめて僕は呼びかけた。


 そして、ロゼは――



「……あは、あはは。ほんと、すごいこと言い出すわね、アリン」



 楽しげに、笑ってくれた。

 心の底から、あの目をせずに、喜んでくれた。


 理由は――


「――それには力が必要よ? だとすると、アンタは結局恋愛力をあげないといけないことになるじゃない」


「……あっ」


 僕が失念していたことを、指摘するためだったけれど。


 でも、ロゼは笑ってくれた。

 ……ああいや、それにしたって恋愛力云々の話はどうしたものか。というか、先程からアスモはまったくもって口を挟まない。こういう時、野次を飛ばしてきそうな性格なのに。


 とはいえまぁ、


「……でも、そういうことなら喜んで。一緒に頑張りましょう、アリン」


「……うん」


 ロゼはうなずいた。

 僕たちは、この世界において自由を手にし、そしてそれを次に繋げるための大きな目的を手に入れた。全ては、ここからだ。


「じゃ、そのために街へ向かうわけだけど……」


「けど……?」


「――数年分の馬小屋の匂いを、キッチリ落としてからね。ほら、脱ぎなさい」


「……………………はい」


 そして、横暴極まりない、けれどもまったくもって正論で、ロゼは魔法で氷を溶かしてお湯を作って、僕をひん剥き始めるのだった。



 ◆◆◆



 ――大成功だ。

 悪魔アスモダイオスは歓喜していた。


 天魔アリン、アスモダイオスがこの世界がゲームの世界であると知った時から、絶対に作り上げてみせると決めた最高傑作。

 リマには随分と手こずらされたが、こうして彼女の管理を離れた今、アリンはアスモダイオスの手のひらの上だ。


 今、この時。


 アリンはアスモダイオスが思う神になる。この世界をぶち壊す、あのふざけた連中に一泡吹かせる、神をも穿つ槍の完成だ。


 ――などと、いきなり何を言っているかわからない黒幕っぽいことをアスモダイオスは考えていた。

 つまるところ、この一連の流れはアスモダイオスが手引したものである。アリンの覚醒も、ロゼの行動も、少しずつこうなるように、アスモダイオスは暗躍していたのだ。


 目的は二つ。一つはたとえアスモダイオスが死んでも語らないだろうが、もう一つはとても単純。この世界の魔法力という常識をもたらした神への復讐。

 魔法力を共に生み出しながら、自分の存在だけを抹消したもの達への叛逆であった。


 そんなアスモダイオスは知っていた。

 アリンが知らない、恋愛力200の正体を。


 アレは、一体何か。なぜああもきれいな数字になるのか。答えはとても単純だ。



 あの恋愛力の恋愛倍率は百倍である。



 恋愛力において、意識度の割合は100が最大。そして同時に恋愛倍率の最大も100である。そう、最大値なのだ。これ以上上がらないから、数値が固定しているのである。


 加えて、恋愛倍率が百倍であるということは、意識度は2しかないということ。それはそうだ、この場にこの恋愛倍率の持ち主はおらず、アリンをほとんど意識せずに暮らしているのだから。

 だが、意識していないにも関わらず、意識の2%は常にアリンに割いている。


 それを異常と呼ばずなんという?


(ああ、楽しみで仕方ないよ、アリン――お前がその持ち主と出会うことを)


 アスモダイオスはトリックスターである。こういう状況が、彼女は大好きだった。

 そして――



(その恋愛力の持ち主が、この世界では女性として生まれてきたゲーム主人公であることを、お前が知るその時が)



 ――それは、この世界においての、最大の爆弾であった。





























 なお、アスモダイオスすら知らないことだが、この意識度、いかにアリンの事を思っているかで決まる。だから、例えばロゼがアリンのためではなく、自分の都合でアリンに対してちょっかいを掛けている時、ロゼの意識度は下がる。

 であれば、徹頭徹尾アリンのためではなく、自分のためだけにアリンを意識していれば、当然ながら意識度は極端に落ちる。


 そして、アリンへ恋愛力を持つ存在は、ロゼ、ゲーム主人公、そしてもうひとりいる。


 そして、アリンは昔からオータウス家で引きこもり、ロゼ以外の少女とろくに関係を築いてこなかった。


 そして、そんなアリンを知る少女は、そもそもこの二人を除けば、一人しかいないのであった。


 かくしてアスモダイオスはあざ笑う。

 自分が、アリンに対して抱いている感情の意味を、知る由もなく――

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