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第9話 俺だよね

 俺がひなさんに告白されてから、二日が経過していた。


 結果はというと。


 ゆるふわピクチャングラマーゆい☆の活躍で会話を上手く誘導し、無事に荒崎結太との接点を作るミラクルファインプレーを……、


 なんてことには……ならなかったよ。


 まさかのレアケースの方を引くとは思わなかった。


 ひなさんは女の子が好きらしい。


 最初から荒崎結太の入り込む隙間はなかったってこと。


 いや、別にそれはいいんだ。

 好みなんて人それぞれだしな、うん。

 とやかく言っても仕方がない。


 ……ちょっと、ショックだけど。



 一番の問題はそこじゃない。


 彼女が惚れてしまったのが、俺が女装しているゆるふわ陽キャラ女子のゆい☆の方だったってことだ。


 しかも一目惚れって。

 そこでシンパシーは感じても素直に嬉しい気持ちになれなかった。


 だって俺自身には恋の矢印向いてないんだもの。

 矢印向いてるの、ゆいの方なんだもの。ちくしょー。


 あの後、考える時間をください、とひなさんに提案した。

 それに対して彼女は申し訳なそうに承諾した。

 急かすような真似をしてごめんなさい、と。


 謝りたいのはこっちなんだよな。


 どうにもあの場で返事をするのは判断材料が少なすぎた。

 というより、逃げ出したい気持ちの方が強かったのかもしれない。


 自分の本当の気持ちが届く見込みが限りなく薄いことへのショックと、女の子だと偽っている罪悪感。


 そういういろんな感情がごちゃ混ぜになって、冷静に考えるなんてとてもできそうになかった。


 あれからひなさんとは、ゆい☆としてほんの少し連絡を取り合った。


 ひなさんは、やはりあの告白は急すぎたと思っているらしい。

 ゆっくりとお互いのことを知る所から、友達から仲良くなっていくことはできないかと言っていた。


 もちろん、ひなさんと仲良くしていくのは俺も嬉しい。

 恋愛感情抜きにしても、趣味も合うし、考え方も近い。

 あの短い時間でとても楽しい時間を過ごせた。


 他のお店を回ったりできる友達なんていなかったから、それが叶うなら嬉しい限りだ。


 でも、それは俺目線での話。


 友達から始めましょうと言っても、あくまでひなさんは俺、新田ゆいのことを恋愛対象として見ている。


 その間、俺は彼女に嘘をつき続けることになる。


 一目惚れした女性が実は地味な男でしたなんて真実を知ったら、どんな顔をするだろう。

 想像もしたくない。


 こじれる前に正体をバラすか? そうする方がスマートだろうが。


 そんな勇気があるなら、最初から女装して近づくなんてややこしい真似はしてないんだよな。


 スマートなんて言葉、俺には天地がひっくり返っても似合わないよ。


 とりあえず、今日の大学終わった後にでもそれとなく伝えることにしよう。めっちゃ心痛いけど。


「くそ、どうすればいいんだよ……」

「どんな状況かは知らないけど、間に入った人を通して連絡先は聞けたんだろ?」

「まあ、一応な……」


 その間に入ったのも俺なんだけどな。


「ならこれからじゃないか。生理的に無理とかじゃ無ければ挽回できるだろ」

「まあ、アドバイスしてくれたことにはめちゃめちゃ感謝してるよ。というか、春季の方はえらくご機嫌だな。良いことでもあった?」


 いつもの食堂で、いつもの二人で昼食を取っていた。

 ただいつもと違ったのは、普段は落ち着いて話を聞いている春季がそわそわしていることだ。


 しきりに外の景色を見ては溜め息をつき、食べようとしたカレーをしばらく見つめては溜め息をつき……って溜め息ばっかりじゃないか!


 けれど悩み事でもあるのかと思えば、時折何かを思い出すように小さく笑ってる。


 なんか嬉しそうだな。


 こっちはとんでもない状況に巻き込まれてるのに。

 いや、ここは親友の幸せでも分けてもらって、気を紛らわせた方がいいかもしれない。


「ん、ああ。ちょっとな……」

「なんだよー、はぐらかすじゃないかよ。え、なになに、もしかしてお前も好きな人できたとか?」

「せ、正解。よくわかったな」

「ああ、そうだよな。俺の恋愛相談直後のタイミングでそんなことあるわけないよなー、あははは………………は?」


 マジで? 本当に好きな人できたの?

 春季が? いつもはいろんな女の子に言い寄られてる側の、あの春季が?


「柄じゃないって思うだろ? けど、こういうのはじめてでさ……」

「いや、いやいや、そんなことないって。やったな! お前にも本当の春が来たってことだよ!!」

「そ、そうか。ありがとうな」


 珍しく春季が照れてる。

 お前もそんな顔をするんだな。なんか新鮮。


「一目惚れ? ってやつでさ。その子に出会ってすぐに告白しちゃったんだ」

「わーお。お前も大胆なことするんだな」


 というか、最近は好きになったら即告白するのが流行ってるのか?

 お兄さん、恋愛弱者だからわかんないや。


「我ながらどうかしてたんだ。そしたら、考える時間をくださいって言われてその場は解散したんだ」

「まあ、普通の反応だよな。いきなり告られたら誰でも焦るわ」

「だ、だよな。その後謝ったんだけど、彼女がどう思ってるか気になって何も手がつかなくて……」


 春季でも恋になると冷静じゃいられなくなるらしい。

 なんか同じ人間って気がして安心したよ。


 でも春季くらいのイケメンに告白されて即オーケーって言わなかっただけ、冷静な判断力あると思うよ、その娘。


「嫌がってたわけじゃないんだろ? その娘は」

「う、うん。趣味も合いそうだし、話も盛り上がったから、嫌われてるってことはないと思うんだけど」

「なら大丈夫だろ。少しずつ距離を縮めて、お互いのこと知っていけばいいじゃん」


 まあ、俺はその段階で詰んでるんだけどね……。


「そ、そうだな。ありがとな、やっぱり結太に相談してよかった」

「気にすんなよ、友達なんだから」


 春季に頼られるなんてなかなかないし、ちょっとは落ち込んでた気持ちも晴れたしな。


 恋愛経験皆無だから詳しいことは全然わからないけど、できるだけ協力してあげよう。


「とりあえずその娘をデートに誘ってみるか。その子の特徴とか言える?」

「ああ、そうだな。うーんと、髪はグレーっぽかった」


 ほうほう、髪はグレー。


「背は結太くらいで、体も細かった。声も少しハスキー気味だったよ」


 女の子の中ではちょっと高いくらいだな。まあ、春季からしたら頭半分くらい差があるけど。

 声にしても、逆に魅力的に聞こえるだろうな。


「服は水色のワンピースで、上に白いブラウスは羽織ってた」

「ほー、まとめるとゆるふわ系女子かぁ。なかなか可愛い娘で…………」


 ん?


 何か、うん、何か変だ。


 今言った特徴が当てはまる女の子が一人、パッと記憶から顔を出してくる。


 でも、その娘なはずがない。あっていいはずがない。


 だって、その娘は女装した俺なんだから。


「ち、ちなみにだよ? その娘とはどこで会ったの?」

「この大学の近くにあるカフェだよ。混んできて相席になった時、偶然」


 あれ?


「ど、どどどんな話したんだ?」

「最初は話しかけるきっかけがなかったんだけど、彼女が頼んだカフェラテに描かれたラテアートが可愛いって話しかけたら、そこから彼女もそれに興味を持ったんだ」


 あれあれ?


「それから会話が盛り上がったんだ。名前は可愛くないけど、きっかけをくれたことに感謝しなきゃ、クマ伯爵には」

「く、クマ伯爵……」


 これ、俺だよね。


「そこからそのお店のスイーツ頼んだり、いろんな喫茶店の話とかして楽しかったな。彼女も楽しんでくれてたといいな」

「う、うん。楽しかったんじゃないかな……たぶん」


 俺、ですね。


「一応連絡先も交換したんだ。二台目のスマホの方で登録したから、俺の名前で表示されてないんだけど」


 春季はリュックから、普段使っているのとは違う、可愛らしいピンクゴールドのスマホを取り出した。


 あ、見たことあるわ。それ。


 そして、画面を操作し、恥ずかしそうに意中の娘のプロフィール画面を見せてきた。


「ゆいさん、っていう名前なんだ。可愛い名前だろ」


 ここまで読んでいただきありがとうございました。


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