第8話 付き合ってください
それがきっかけで、俺と彼女の会話が始まった。
なんと彼女も俺と同じ大学らしい。
見たことないけど、違う学部なのかな。
大学が終わってから時間があれば、こうしてカフェや喫茶店巡りをしているらしく、居心地のいいお店に何度も通い詰めてしまうという。
そんな所が俺と似ていたためか、予想以上に盛り上がった。
楽しい。女の子との会話ってこんなに楽しかったんだな。
いや、この人と話しているから余計かな。
気がつけば、四十分くらいノンストップで話し込んでいた。
その間にいくつかおすすめのメニューも一緒に食べた。
一人より百倍美味しい。
「……あ、名前言ってませんでした。私、ゆいって言います。新田ゆい」
言い忘れてたけど、ゆい☆の時は本名が〝新田ゆい〟だという設定で通してる。
黒髪さんも名乗り忘れていた、と気づいたようだ。
「私、ぁ……ひな……です」
ひな、か。
なんて可愛い名前なんだろう。
苗字が聞きそびれちゃったけど、自然と下の名前で呼べれば大丈夫だね。
「よろしくお願いしますね、ひなさん」
「よ、よろしくお願いします……」
「そうだ、ここで知り合ったのも何かの縁ですし、連絡先交換しませんか?」
「え、いいんですか?」
いいに決まってる、というよりこちらからお願いしたんだ。
是が非でも、このチャンスを逃したくない。
「はい、私もっとひなさんとお話したいです!」
そう聞いてひなさんは少し顔を赤らめつつ、首を縦に振る。
「わ、私もです。よろしく、お願いします」
よっしゃー。ついに連絡先聞ける!
ゆい☆の人懐っこい喋り方でなんとか活路を開いたぞ!
ピロリン♪
ついに俺はひなさんと連絡先を交換した。
もちろん、ゆい☆の方の連絡先を、だ。
ピクチャングラマーゆい☆としての活動のためにスマホ二台持ちしていて良かった。
いきなり結太の名前を出すわけにはいかないしね。
とりあえずファーストコンタクトは成功。
連絡先は渡せたし、これから徐々に好みとかを聞いていこう。
そしてある程度経ったら荒崎結太との接点を作っていけばいい。
自分が自分の恋のキューピッドにならなきゃならない。
頭がこんがらがりそうだけど、他に方法もないしな。
「あ、ごめんなさい。そろそろ行かなきゃいけなくて」
「え、そうなんですか? そ、そうですか……」
ひなさんが明らかに寂しそうに肩を落とす。
本当に表情がコロコロ変わる人だな。
いやむしろもっと見たい。
でもここで欲張りすぎも良くない気がする。
男は引き際が大事だって誰かが言ってた。
今は俺、女の子だけど。
俺は自分の頼んだカフェラテ代として五千円札をテーブルに置き、席を立つ。
「じゃあ、連絡待ってますね。ひなさんとまたお茶したりするの楽しみにしてますから!」
「あ、は、はい……」
茫然とするひなさんに後ろ髪引かれながら、間仕切りから出ようと手をかける。
「……ゆ、ゆいさん、待ってください!」
「は、はい?」
不意に右腕が後ろに引っ張られる。。
驚いて振り向くと、ひなさんが俺の腕を掴んで立っていた。
なんだか、彼女の頬がさっきより赤い。
若干だが、汗までかいている。
「ひ、ひひひなさん?? ど、どうかしましたか?」
焦って変な声が出たけど、ギリギリ女声のままだ。
「……えっと、その、お別れする前に、言っておきたいことがあるんです」
「へ、な、なんでしょうか?」
ひなさんの目がキョロキョロして定まっていない。
明らかにキョドってる。
まさか告白……、いやそれはさすがに妄想が過ぎますって。
後はなんだ? 俺、何か失礼に当たることでも言ってしまったか?
置いていったお金の話? たしかに多めに置いたけど、全然気にしなくていいのに。
それとも、女装してることがバレたのか?
今までの会話の中で違和感でも感じたのかもしれない。
そうなったら……ややこしいことになりそう。
ひなさんはしばらく経って、やっと小さく口を開いた。
「……しと……って……さい」
「え?」
今までのハキハキした話し方からは想像できないほどの小声だった。
俺に伝わっていないことがわかったのか、彼女は意を決したようにズイッと詰め寄る。
「私と付き合っていただけませんか!?」
「……へ?」
こ、告白きたーーーー!!
…………、
いや、いや、待て待て!!
まだ喜ぶには早いだろ!!
頭の中のファンファーレを早く消せ!!
今の台詞にはいろんな可能性が考えられる。
付き合うっていっても、お買い物に一緒に行きませんかみたいなテンプレギャグ展開だってあるだろうが。
まさか女の子同士の恋愛がしたいとかいうレアケースなわけないしな。
そうだよね? ね?
「あ、えっと、とりあえず……座りましょうか。ゆっくりお話を聞きますから」
「え、でも用事があるって……」
「全っっ然、大丈夫ですよー!! 急ぎとかじゃないし、いくらでも伸ばせますし!? それにひなさんのお話の方が大事ですから!!」
あれ、俺までテンパってどうするんだ。
落ち着け、リラックスだ。
「あ……、そうなんですよねっ! なんだかごめんなさい。でも……ありがとうございます」
ひなさんは慌てて俺の腕から手を離し、申し訳なさそうに席に戻る。
少し嬉しそうにしたのは気のせいだろうか。
とにかく、ナイス判断だ、俺。
そう、とりあえず落ち着こう。冷静に話を聞けば真意がわかるはずだ。
あくまで最終目的は荒崎結太として、ひなさんとお付き合いすることなんだから。
大丈夫。なんたって今の俺はゆるふわ陽キャラ女子のゆいちゃんだぞ?
なんとかなるでしょ!?
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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