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第4話 結太とゆいちゃん

 そして、現在。大学二年になった俺、荒崎結太(あらざきゆうた)にとって女装は完全に生活の一部と化していた。


 百円コスメで済ましていたあの頃とは違い、ちゃんと自分の肌質や色に合わせてブランド物も使うようになった。


 小物作りもやってはいるけど、今は女装して街を練り歩くことの方が多い。


 目的と手段が逆転してるのは自覚しているよ?


 でも、そうなっちゃう理由もちゃんとあるんだ。



「すみませーん。〝果肉たっぷりイチゴシェイク〟ひとつくださーい」


 ワゴン売りのお姉さんからプラスチックの容器を受け取る。


 一番の理由は可愛い物を買ったり持ったりしていても、違和感がないことだ。


 俺がこの姿にたどり着くまでずっと悩まされてきた課題だったんだ。


 個人の趣味で好きな物を持ってるんだから好きにしろ、と言ってやりたいけど、そういう勇気があればもっとスマートな方法を取っていただろうさ。


 可愛い物や可愛い食べ物を持ってる自分が地味な男だったら、なんかテンション下がるじゃないか。

 俺だけかもしれないけど。



 淡いピンク色のシェイクの中には、鮮やかなカットイチゴが入っていて、上には白いふわふわのホイップが浮いている。


「あれ、フロートってオプションでしたよね?」

「お姉さんかわいいから、私からのサービスでーす!」

「うわー! ありがとうございます!」


 これだよ、これ。

 周りの人に〝可愛い〟と言ってもらえた。これが理由その二。


 自分の積み重ねた努力が報われる瞬間。

 涙が出そうになるよ。


 そして理由その三。

 なにより男の姿だと緊張して女の子とまともに話せないのに、この姿だと普通に女子トークが出来る!

 最高じゃないか!


 ほんと良いことありすぎて辞められないよなぁ。


 おもむろにストローを咥えようとして、はたと止まる。


「おっと、口をつける前にやることが……」


 スマホを取り出し、シェイクをパシャリ。


 写真を確認。

 うーん、ちょっと暗いから加工するか。


 画像加工も板についてきたな。彩度と明るさを調整して……。

 あとはコメントとタグをつけて、抜けがないか確認したら、投稿っと。




 yui_alamode


 カフェ金城さんのイチゴシェイク☆

 ワゴン販売で買っちゃいましたー!


 イチゴ果肉たっぷり!

 甘酸っぱくてシェイクと相性バッチリ!


 とっても美味しかったー☆


  #drink #strawberry #いちごシェイク #いちごジュース #苺 #ドリンク専門店 #美味しいドリンク #カフェ # スイーツ女子 #カフェ巡り好きな人と繋がりたい




 投稿してから数十秒後、ポコポコンと通知音が鳴る。


 見るとさっきあげた写真にもういいねとコメントがついている。


 逐一見てる人は早いな。


 これから増えてきそうだし、今来た分だけでも返信しておこう。




 asuka_greentea 中にイチゴがゴロゴロ!美味しそう!

 →yui_alamode アスカさん、ありがとうございます!とっても美味しかったです!☆


 erikashibasaki122576 ホイップがモリモリですごい!!

 →yui_alamode エリカさん、そうなんです!ふわふわで幸せな甘さでした。美味しかったですよー☆




 こんな感じかな。


 世界最大の写真共有SNS「ピクチャングラム」、略して、ピクチャン。

 そこで俺はぼちぼちフォロワーがいる、ちょっとした有名人。

 ピクチャングラマー? とかいうらしい。


 アカウント名は「ゆい☆」。


 結太の〝結〟で、ゆい。


 安直だけど、バレてないから大丈夫だろう。


 ☆の意味は……可愛いかったから?



 はじめは女装することで気兼ねなく買えるようになった可愛い小物とか食べ物を、嬉しさ満点でアルバム代わりにアップしてただけなんだけど、女装してることを話すタイミングがないまま続けてたら本当に〝ゆいちゃん〟という女子大学生が存在しているということになっていた。


 焦って釈明しようとしたけど、店をぷらぷら散歩しながら率直な感想を言うほのぼの女子大学生がウケたのか、予想以上にフォロワーが増えすぎて引っ込みがつかなくなってしまった。


 たまに、今日のファッションコーデ的な写真もあげてるけど、まさか女装してる男子大学生だなんて誰も気づいてないんだろうなぁ。


 そんなこんなで表の顔は地味な男子大学生、裏の顔はピクチャンで活動する女性ピクチャングラマー(ネカマ)というちぐはぐな生活を送っている。


 それが最近の俺の日常だ。


 正直、ずっと続くかどうかはわからないけど、比較的楽観的に捉えていたんだ。

 好きなことができる以上に幸せなことなんてないと。


 女装してることを伏せてる件に関しても、バレたらバレたなりに謝ればいいか、とも思っていた。


 大丈夫。春季という親友もいる。


 恋人だっていつかきっとできる。


 これからも俺は、楽しい大学生生活を送っていく。


 そんな自信があったんだ。



 俺が偶然入ったカフェで、彼女に出会うまでは。


 ここまで読んでいただきありがとうございました。


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