第20話 変わっていくもの
「え、えっと……その」
いざ、話そうとすると言葉が出ない。
もし、受け入れてくれなかったらどうする?
騙してたんだぞ、簡単に許してくれるはずないだろう。
『もう今までのように友達としては、見られないよ』
さっきひなさんから聞いた台詞が頭をよぎる。
もう春季と今までのような友達ではいられなくなるかもしれない。
ようやくできた親友を、失うかもしれない。
怖い、怖い。
自分の服をギュッと掴む。
手が汗ばみ、震えている。
「ゆ、ゆいさん。無理して話さなくても、また今度でも……」
見かねたひなさんが駆け寄ろうとした。
その瞬間、ひなさんのすぐ横を自転車が通過した。
「わっ」
「あぶなっ……!!」
驚いたひなさんが自転車とは逆側、橋の柵の方によろける。
俺も咄嗟に腕を伸ばし、バランスを崩して柵にぶつかりそうな彼女の体を受け止めた。
「ひ、ひなさん!! 大丈夫ですか!?」
「あ、だい、じょうぶです。自転車見えてなくて、びっくりしちゃって……」
見たところ怪我などはない。
よかった。
俺を心配して近寄ってくれた彼女に怪我をさせるところだった。
ほっと胸を撫でおろしていると、ひなさんがあたりを見渡している。
「あれ? どこ?」
「な、何かないんですか?」
「さっきまで持ってた袋がなくて……」
「えっ」
たしかに右手に持っていた、お土産を入れた袋が見当たらない。
無くしたタイミングといえば、自転車が通ってひなさんがよろけた時だけど……。
「まさか橋の下なんて…………あっ」
「ありましたか!?」
「はい、でも……あれは」
ひなさんが柵に寄りかかって橋の下を見つめている。
見てみると、川の丁度真ん中あたりに枝が突き刺さっており、そこにひなさんの袋が引っかかっていた。
川幅や深さはそれほどではないが、川岸の土は水をよく吸っており、柔らかそうだ。
「あの泥の中を取りに行くのは厳しいですね。汚れちゃいますし……」
「で、でもあれはひなさんが……」
「いいんです。また買えばいいですし、ものはものですから」
そう言いつつ、ひなさんは袋を寂しそうに見ている。
「でもちょっと残念です。ゆいさんとのはじめてのデートってことで、浮かれすぎちゃいましたかね」
彼女は力なく笑った。
その表情を見ていたら、考えるより先に足が動き出していた。
ひなさんの足元に鞄を置くと橋を渡って、川へ続く草が生い茂る坂を滑り下りていく。
「な、何してるんですか」
川岸に着くと、泥の面積の小さい所を探す。
川へ行くのに障害になる泥をできるだけ避けられる場所を。
「……ここかな」
「え、ちょ、ゆいさん!? 汚れちゃいますって!!」
俺は黙って泥の中に足を突っ込む。
グチャリ、と重い音と共に足が沈んでいく。
完全に沈んだら抜けなくなる、とすぐに前へもう一歩踏み出し、先に入れた足を引き抜く。
「本当にいいんです!! ゆいさんが無理して行く必要なんてないですから!!」
「いいからそこで見てて!!」
「っ!?」
泥の中で踏ん張っていたせいか、いつもより大声が出た。
泥を抜けて川へ踏み入れる。
スカートやスニーカーが水を吸って体に張り付き、想像以上に重く感じる。
それでも進んだ。
今はそんな重さなんてどうでも良かった。
「バカだったよ、どうしようもないほどに……」
「え……?」
俺は大学にいる時以外の春季を何も知らなかった。
それどころか、普段会っていた春季のこともちゃんと知っていたか?
いや、今までだって、ちゃんと彼女のことを知ろうとしてきたか?
それでいて、助けてもらったら親友ヅラって、どんだけ自分勝手だったんだよ。
春季の男装をする理由、それは彼女を取り巻く〝普通〟への処世術だった。
俺も原因がよくわからない苦手意識のせいで、女装しなきゃ女の子とまともに話せない。
俺だって〝普通〟じゃない。
理由はバラバラだけど、他人事じゃない。
それがわかった今、男装の春季を完璧な王子様のままで見られるわけがないじゃないか。
彼女は悩みながらも必死にもがく、かっこいい主人公だ。
「今までような関係じゃいられなくなるかもしれない? そんなの当たり前じゃないか!!」
人は日々を過ごす中で、少しずつ変わっていく。
見た目も、考え方も、好みも、相手への接し方も。
けれど、それでその人との接し方まで大きく変える必要があるのか?
「それを怖がっていて、うまくやり過ごせばなんとかなるかもしれないなんて考えで、そんなんで相手を理解できるわけがなかったのに……」
元々は俺の一目惚れから始まったことだ。
彼女が女の子が好きで、彼女の目が〝荒崎結太〟ではなく〝新田ゆい〟に向いていたとしても、男装と女装を使い分けていたことがわかったとしても、春季は春季だ。
見た目がどうとか、嘘をついてるとか、恋愛感情がどうとか、それよりも先に見つめるべきことがあるだろう。
朝比奈春季の無二の友達でいること。
答えはシンプルだったんだ。
俺は枝に引っかかった袋をそっと引き上げると、橋の上にいる〝友達〟に見えるように高く掲げる。
「困ってる人がいたら迷わず助ける。悩んでいたら隣にいてあげる。それが私の〝普通〟だから!!」
もう迷わない。
俺は、荒崎結太として、新田ゆいといて、朝比奈春季の隣にいる。
これからどんな関係に変わっても、絶対にそれだけは変えない。
友達のために、今できることを全力でやっていこう。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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