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第13話 透明と半透明

「わぁ~~、可愛い!!」


 ひなさんが気になっていたガラス細工の雑貨屋。

 店内はダークブラウンの木を使った、落ち着いた雰囲気だ。


 そして彼女は、商品棚に飾られている商品を見て目を輝かせている。


 それはガラスで作られた大きさ二、三センチほどの動物の小物だった。


 ねこ、犬、ペンギン、パンダなどたくさんの種類があり、お辞儀をしていたり手を振っていたり、それぞれが違ったポーズをしている。


「すごい細かい。ほら、手作りだからみんな表情が違いますよ」

「あ、このねこちゃんはトウモロコシを持ってますけど……なんだか重そうな顔してますね」

「あはは、ほんとだ。ずいぶん大きなトウモロコシなんですね」


 ガラスのつけ方や向きによって、怒ってるようにも、笑っているようにも見える。


 同じ動物でも、ガラス小物を選ぶときはどんな表情のものがいいかなどで人によって好みが別れるらしい。

 そういう話ができるのも、こういう雑貨屋の醍醐味だったりする。


 いつも一人で来ていた俺にとっては、他のお客さんが楽しく話しているのを傍で聞いているだけだったけど、まさか自分も体験できるとは思ってなかったな。


「ひなさんはこういうの集めるの好きなんですか?」

「はい。部屋は広くないのでたくさんは置けないんですけど、小さな棚にスペースを作って、そこにちょっとずつ足していってるんです。楽しいんですよ、いろんなポーズの子を組み合わせて、一つのシーンを作るの」


 部屋の隅でしゃがんで、ウキウキしながら小物を飾り付けているひなさんを想像してみた。


 うん、後ろ姿見てるだけでも可愛いじゃん。


「なるほど、だから表情とかもこだわっちゃうんですね」

「そうなんです! あんまり物を置けないから慎重に選ばないと、って思ってたら同じ商品の前で五分以上悩んでることがしょっちゅうで……えへへ」

「わかります。体感だと一瞬なんですけどね」

「はい、でもそれが一番楽しかったり。えへへ、変ですよね!」


 緊張が取れたおかげか、ひなさんはよく笑うようになってきた。


 いいことだ。


 というか、男装モードの時もこれくらい笑ってもいいのにな。

 絶対似合うだろ、笑ってる王子様なんて。


 ……ん、何を期待してるんだ、俺は。




 その後、俺達は店内の商品をゆっくり見て回った。


 透明なガラスに青い色ガラスが混ざってまだら模様になった水差し、どうやって加工したのか想像できないほど複雑に雪の模様がついたグラスなどがたくさんあった。


 その度にひなさんが驚いたり、感動したりしている。

 周りにガラスがあるからなのか、体の動きを小さくしながらはしゃいでる姿がとても可笑しかった。


「そろそろ全部見終わりましたね、何かいいのありましたか?」

「あ、それじゃあ、これお会計してきます。ゆいさんは少し待っていてもらえますか。すぐに済むので」

「ゆっくりで大丈夫ですよ。私は外で待ってますね。いってらっしゃい」


 ありがとうございます、と言ってひなさんは店の奥にあるレジへ向かっていった。




「ゆっくりでいいとは言ったけど……」


 俺は店の前でひなさんを待っていた。


 おもむろに時計を見る。

 ひなさんがレジに向かってから五分くらい経っている。


 会計にしては時間かかってるな。


 並んでるのかな、と思ったけどレジは店の奥にあって、外からはよく見えなかった。


 ピロン♪


 ん、春季からメッセージ?

 困ったときは連絡しろとは言ったけど、中でトラブルがあったのか?



 From.春季

 結太、今ゆいさんとガラス雑貨のお店に来てるんだけど、ちょっと助けてくれ。



 Dear.結太

 おう、何かあった?



 From.春季

 何かゆいさんにプレゼントしたいんだけど、何をあげたらいいか全然決まらないんだ。どうしたらいいと思う?



 ああ、それで時間かかってたんだな。

 逆に安心したよ。



 Dear.結太

 決まらないなら、本人に選んでもらってもいいのでは?



 From.春季

 それも考えたんだけど、やっぱりちょっと驚かせたいじゃないか。サプライズっていうやつ、こういうの?



 たった今サプライズじゃなくなったけどな……。

 なんか、ごめんよ。


 でも気持ちはわかる。

 俺も誰かにプレゼントを渡したことなんて、片手で数えらえるくらいしかない。


 いざ誰かに何か渡すとなっても、相手が何に対して喜んでくれるかが全然思い浮かばない。


 普段からそういうのを考えているならまだしも、そんなギブアンドギブみたいな思考になったことないし。


「こういう時に自分のコミュ力の乏しさを思い知るよね……」


 そういえば小学生の頃に誰かとプレゼント交換したような気がするんだけど、なんだったっけ。


 だめだ、すぐには思い出せないや。

 参考になるかと思ったけど、仕方がない。


 このまま悩んでても時間が経つだけ。

 春季は俺からの返信を待っている。


 店の前で待ちぼうけの俺も辛い。


 巡り巡って、外でゆいを待たせてしまっている、とひなさんが焦るばかりだ。



 Dear.結太

 とりあえず直感を信じろ! お前のセンスならきっと喜んでくれる!!



 すごいアバウトな助言をしてしまった。すまん。


 さっきのひなさんとの会話やここで買えそうなものから想像するに、大ハズレなものを買うとは思えないけど。


 ピロン♪



 From.春季

 直感……。でもそうだよな、何を選ぶかよりどんな気持ちをこめるかが大事って聞いたことあるし。気づかせてくれてありがとな。



 そんなポジティブに捉えてくれるとは思わなかった。

 君は俺よりできた子だと思うよ……。


 日にさらされてウィッグの中が暑い。


 もう一回店内に戻ろうか。


 早く出てきてほしいと素直に言えない自分が浅ましく思えてきた。


「お待たせしました!」


 返信が来てすぐにひなさんが店から出てきた。


「遅くなってごめんなさい。結構経っちゃいましたよね」

「全然大丈夫ですよ。目当てのものは買えましたか?」

「は、はい! 頭の上に大きなケーキを掲げたパンダちゃん。一番苦しそうな顔したのを買えました!」


 ひなさんは半透明のレジ袋からパンダのガラス小物を取り出し、嬉しそうに見せる。


 一体どんなシーンに使うんですか、それ。

 突っ込みたかったけど、やめておこう。


 そしてそれを袋にしまうと、そそくさとバッグにしまう。

 袋の底にまだ何か入っていたのを、俺は見て見ない振りをした。


 サプライズって言ってたしね。


 見てない、見てない。


「そ、それじゃ、どこかお茶できる場所に行きましょうか。この日差しの中でゆいさんを外で立たせてしまったので、休憩も兼ねて」

「ありがとうございます。えっと、そこのオープンテラスのあるカフェとかどうです? 日陰もあるし」

「いいですね! 気持ちよさそうですし、私も気になってたんです!」


 ひなさんは満面の笑みを浮かべて俺の手を取ると、カフェへ向かって歩き始めた。


「行きましょう、ゆいさん! なんだかお腹空いてきちゃいました!」

「そ、そうですね……」


 この数時間で、ひなさんがどんどん明るくなっていく。


 友人からの助言をもらいながら、はじめてのデートを本気で楽しんでいるのかもしれない。


 いいことだ、俺も楽しい。

 でも、それは俺の自作自演に過ぎないんだともう一人の自分が突きつけてくる。


 ひなさんの笑顔を見る度に、心の奥にモヤモヤが立ち込めるのを感じた。


 ここまで読んでいただきありがとうございました。


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