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第11話 2×2の作戦会議

第2章 デート・イン・トランス編

 ピロン♪


 狭い部屋の中でスマホの通知音が鳴った。


「えーっと、この音は〝結太〟の方だな」


 俺は二台ある内の無骨な黒いスマホを拾ってメッセージアプリを開いた。



 From.春季

 夜遅くに悪い。次の土曜にゆいさんをデートに誘う件なんだけど。どんな所が喜ぶと思う? やっぱり映画館とか遊園地とかがいいのかな。



「ピュアな中高生かよ!」


 思わず叫んでしまった。

 この部屋の壁が厚くて良かった。


 時間は夜の九時過ぎ。さすがにまだ寝てる人は少ないかな?


 俺はお風呂から上がって、美顔ローラーで顔やら体をゴロゴロしていた。


 保湿は欠かさず、むくみとかも取っておかないと、肌のダメージはメイクに大きく影響する。

 毎日の手入れを怠っては完璧な女装はあり得ない。

 女装は一日にしてならず、だ。


 それにしても春季、まともにデートとかしたことないのかな。


「まあ俺もデートスポットって言われてパッと思い浮かばないけどよ……」


 そもそもデートでも誘えば、なんて春季に提案したのは自分なんだから。



 Dear.結太

 ゆいさんとはお店巡りとか共通の趣味があるんだろ。最初のデートだからって気を張る必要はないでしょ。



 〝ひな〟のオドオドした感じが素の性格なら、デートの経験が少ないと言われても納得できるかもしれない。


 俺も〝ゆい〟として行動する以上、普段通りでいられそうな場所の方がいいしね。


 ピロン♪



 From.春季

 そうだよな、ありがとう。ちょっと今から連絡してみるよ。



 俺に告白した時もそうだけど、意外に行動派だよな。


 〝ひな〟の状態だけ見たら、てっきり大人しくて自分から行動を起こさないタイプにも思える。


 対して〝男装モード〟の春季はかなり自律してるように見えた。

 はじめて合った時は、こいつめっちゃ自分に自信ありそう、とか思ったもの。


「一体どっちが本音なんだろう……」


 ピピロン♪


 今度は〝ゆい☆〟のスマホが鳴った。水色のカバーを付けて星のデコレーションも施してある。

 たぶん春季……じゃないな、ひなからだ。



 From.ひな

 ゆいさん、夜分遅くにごめんなさい。次の土曜日ってお時間空いてますか? 行ってみたいお店があるので、ぜひ一緒に行きたいと思ったのですが。



 お、早速助言通りのお誘いが来たぞ。


 というかスマホによって口調変わるの本当に面白いな。

 今頃スマホを二つ握ってるんだろうな。


 想像するだけで可笑しくなってきた。


 ……ってそれは俺も同じだった。



 Dear.ゆい

 お疲れ様です。ぜひご一緒させてください! ひなさんとまたお話できるの、とっても楽しみです!



「これでよし」


 舞台は整った。後は当日、どう立ち回るかだな。


 ピロン♪



 From.春季

 オーケーもらったぞ。それで、デートの最中って何話せばいいんだろうか。



 やっぱりこいつ、デートしたことないんだな。


 男装モードの春季がこんな天然発言してるのを想像しただけで吹き出しそうになった。


 いや、笑ってる場合じゃない。


 現実はそんなに優しくないんだ。

 俺の返答次第で、このデートが成功するかグダグダで終わるかが決まるんだから。



 Dear.結太

 とりあえず普段通り、好きなものの話とかでいいんじゃないかな。困ったら連絡してくれればその都度答えるから。


 From.春季

 わかった、ありがとう。頼りにしてるぞ。



「……なんか俺、恋愛の達人みたいなコメントになってない?」


 余裕かましてるけど、その時どんな台詞がいいかなんてまったくわからない。


 いやいや、冷静にツッコんでも仕方ない。

 自分が動きやすいように誘導するためなんだ。


 本当にややこしい。頭がこんがらがりそうだ。


 というかこれ、フッちゃえば楽なのでは?

 デートするって決まった時、そんな悪魔の囁きも聞こえた。


 デートの最中に些細なことでわざと機嫌を悪くして、プイッとそっぽを向いてサヨナラすればいい。

 今取れる選択肢で一番楽な方法だ。


 でも、それはやりたくない。


 フッてしまえば、春季とひなの悲しむ顔をダブルで見ることになる。

 俺としてはそっちの方が辛い。却下、論外。


 何よりも春季との友情に傷をつけたくない。

 それが、俺がこの泥沼に足を突っ込む一番の理由なんだから。


 しかしそれは、自分が女装した男だという嘘を積み重ねていくことと同じ意味だった。


 状況は完全に八方塞がりだ。

 進んでも下がっても、どうあがいた所で自分の首を絞めることには変わらない。


 そんなのわかってる。


 やるしかない。

 後のことは後に考えよう。


 とにかく、このイベントを乗り切ることに集中するんだ。


 けれど、


「……デートのためにも、ちゃんと寝ておかないとなぁ」


 異常な作戦を立てているのとは裏腹に、ワクワクしている自分もいるのも確かだった。


 ここまで読んでいただきありがとうございました。


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