第1話 残念、男でした
「私……あなたのこと、好きになっちゃったみたい、です」
目の前の美女が言った。
艶のある黒髪ストレート。キリッとした目に茶色がかった瞳、真っ白な肌が緊張で少し赤みがさしている。
だぼっとした深緑のパーカーの裾から白いブラウスが覗き、黒のスキニーデニムを履いている、
誰もがうらやむクール系美女。
彼女は少し潤んだ瞳でこちらをじっと見ている。
めちゃめちゃ可愛い。
人生でこんな展開があるなんて思いもしなかった。
カフェで偶然相席になった美女にいきなり告白されるシチュエーション。
マンガの中だけの話かと思ってた。
妄想くらいするさ。
それが、まさか。
モテ度でいえば中の下くらいの俺に訪れるなんて、誰が予想できる?
「あ、あの……聞いてます?」
「え……あ、はい! もちろん、聞いてました!」
「そ、それで……お返事を聞いても?」
美女の頬は真っ赤に染まっていた。
心臓の鼓動まで聞こえてきそうだ。
やば、緊張がこっちにまでうつってきた。
「え、えっと、その前に。どうして、会ったばかりの自分なんかを……好きになったのかなぁって」
「……私も、正直戸惑ってるんです。会ったばかりで、少し会話したくらいでこんな気持ちになるなんて」
「で、ですよね」
「これが、その、一目惚れ……というものなんでしょうか」
彼女は目をキョロキョロとさせながら、自分の放った言葉にすら恥じらいを感じているみたいだ。
いやいや、めっちゃ可愛いじゃん。
クールな印象を感じさせる外見とのギャップで、更に可愛さが増してる。
「お話した時間は短いですけど、とても濃密で、楽しくて……。もっとあなたのことを知りたい。もっと私のことを知って欲しいなって、思ってしまいまして……」
アリだよ。ドストライクだよ。
むしろこちらから頭下げてお願いしたいくらいだ。
ただ、ひとつだけ問題があるとすれば……。
「ここでお別れしたら、もう会えないかもと思うと、胸が苦しくて。だから、この気持ちをちゃんと伝えておきたかったんです、ゆいさん!」
「…………」
意を決した彼女は、顔を上げてまっすぐに俺を見ながら強く言い放った。
ゆい。
もちろん、俺の本名じゃない。
〝俺〟の名前は荒崎結太。
正真正銘、男です。
結太とゆい。
似てるようで、受ける印象が全然違う二つの名前。
もちろん初対面だし、ニックネームで呼びあう仲でもない。
けれども彼女が名前を間違えてるとか、そういうわけじゃない。
「ゆいさん。私、こんなに可愛いらしくて、心惹かれる女性に会ったのはじめてで……」
説明が遅れてしまったが、今の俺の格好を言っておく。
ふわりとウェーブのかかったアッシュグレーの長髪、大きな黒い瞳、うっすらピンク色の唇、柔らかな肌。
淡い水色のワンピースの上に、ゆったりとした薄い黄色のブラウスを着ている。
とどのつまり今の俺は、ゆるふわ女子の姿をした〝女装男子〟である。
目の前の美女は、俺が〝ゆい〟という可愛らしい女の子だと勘違いして告白してしまっているのだ。
ほんの少し前の自分に問いただしたい。
なんでこうなった?
そう、まずは状況を整理したい。
ことのはじまりは三日前、俺が普通の大学生として過ごしていた昼下がりまで遡る。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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