前に進むということ
【本気で日本の明日を考えているのは気象庁だけだ。】
どこで聞いたジョークだっただろう?落語家の独演会だったか、ネットの掲示板だったか、はたまた友人との雑談だっただろうか。
兎にも角にも慎ましやかな生活を送っている時分には笑い話となる余裕もあったが、こちらが地獄を見ている時ならば怒りを通り越し呆れの種にしかならない。
今更になって五輪だのGOTOだのを本気で議論し、野党さんも自分が事業仕分けで医療費を削減したのを棚に上げて、時の首相を糾弾している茶番劇をみていると、少なくとも我々現場の末端が報われることなど夢のまた夢であろう。
同僚がどんどんと倒れていき、病棟を回せる人間が本当にいなくなってきた。4月には臨床実習試験を完了していない新人も入る。誰が教育するのだ?
今更言うが、わたくしの働く病院は精神科を併設している。いや、精神科でなくともこのご時世、精神科対応レベルの認知症患者などどんな病棟にも掃いて捨てるほどいる。
……問題は本当に掃いて捨てられていることだ。【致死性のある感染症を患った精神病者】など、どこも引き受けてくれない。かといって一般病院の隔離部屋なんて数に限りがある。
となれば、必然的に【選定】するしかない。家族が居ない者、回復の見込みが薄い者、扱いが厄介な者……。クラスターが発生している我が病棟において、端の大部屋は最早病床ではない、ただの倉庫だ。
『何故こんなところで働かないといけないのだろう。』と何度も自問自答する。答えは出ない。現状に文句を言いながら現状維持するなど、愚かの極みだ。
努力も忍耐も人を裏切る。それは看護師を経験し、人の生き死にを見ていれば、幾多も感じることだ。わたしの努力だって報われるかわからない。今行っていることが本当に正しいのかもわからない。
後の世で、わたしは非人道的な行いに加担した人物と非難されるかもしれない。
それでも彷徨いながら、迷いながら、人に寄り添おう。
【前に進む】とは抽象的な概念ではない。ただわたしは今日も、これから職場に向かって歩み始める。