誰もが病んで老いて死ぬ、しかし誰もが明日ではないと思っている。
『おい地獄さ行ぐんだで!』
言わずと知れた、プロレタリア文学の金字塔、小林多喜二著、蟹工船の冒頭句が出勤のたびに頭をよぎる。別に工船の監督から罵声は飛んでこないが、患者さまから雨あられと罵倒が飛んでくるのは慣れないものだ。
『病院に殺される!』『おまえらは良い身分だよな!』『こんなに苦しいのに!役立たず!』……。
まぁ、感謝されたくてこの仕事をしている訳でもないし、「人間はお金が無くてもありがとうがあれば生きていける」なんて某ブラック企業社長の名言を信じているわけでもないが、治療薬がない以上こちらもお手上げなのだ、許してくれ。
まったく、憎悪のこもった罵声とは、悲しみと怒りが入り混じった独特の感情をわたしにもたらせてくれる。
患者からもきついが、悲しいながら亡くなられた家族からの声も厳しい。もちろん「大変よくしていただきありがとうございました。」と話してくださる家族がほとんどだが、【モンスター】とはどこにでもいるもので、比喩表現でなく【病院に親を殺された】くらいの勢いで特攻してくるやつもいる。
怨恨で刺されるのは困るな。警備員さんは仕事をよろしくお願いいたします。……ま、辞めちゃったからいないけれどね。本当に、どんどん人が減っていく。
ああ、白衣の洗濯もしなければ。業者に頼むのをやめたので、自前でやらねばならないし、後部座席の着替えもたまってきた。コインランドリーはこんなご時世でも24時間やっているし、機械はわたしを病原菌扱いしない。なんだかホッとする。