表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

初日

 どれほどに文明が発展しようと、人間の感情とは始末に負えないようだ。


 今日、ついに私は住む家を失った。この文面を公衆の目に晒す予定でいるが、【あの流行り病】が原因で、わたしは病院で看護師をしていると言えば――更に付け足すならば、勤務する病院で大規模なクラスターが発生したといえば、大体の経緯いきさつは御納得いただけるだろう。


 後世にこんなものを読んでいる酔狂な人間がいるとすれば、『ああ、あの教科書に載っている流行り病か』となるはずだ。


 下手に栄えた田舎であるだけに、わたしが〝あの病院で働く看護師だ〟と特定されるのは簡単だった。それから地獄の日々だった。毎日病原菌のような扱いを受け、自宅には嫌がらせの張り紙や落書きが羅列し、ついには賃貸契約の更新を打ち切られた。


 新たに住宅を探そうとあがいたが、全て断られた。散々美辞麗句を並べられたが、畢竟ひっきょう、「病原菌に貸す家などない」とのことらしい。

 

 そんなわけで今日からこの軽自動車が愛しい我が家となる。遷延性の基礎疾患をもっており、転職など望むこともできない。頼れる親族も友人も恋人もいない。


 幸いなことに今は罹患していないが、もし忌まわしき流行り病に罹患すれば、わたしはこの軽自動車に【自宅待機】することとなる。


 病院の駐車場からは【医療従事者に感謝とエールを!】という旗いくつもが見える。本音と建て前は大切なことだが、人間の悪感情とはこうも恐ろしいものであったとは。


 願わくばわたしの愛車が走る棺桶にならないことを祈るばかりだ。


 明日も仕事。今日はここまでとする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ