安堵の浮遊感
日も大地をあまなく照す頃
窓から差し込む光で
彼女は起きた。
いつの間にか
彼女の後悔は消え、
精神のショックも幾らか癒えた。
まるで母の傍で寝た後は
こんなものなのだろうかという
幸福に包まれて体を起こす。
代わりに彼がいなくなっていた。
恐る恐る牛舎の扉を開ける。
眩く、目の前が真っ白に、
そこには彼の姿も残滓もなく、
普段の1日が始まった。
人が死んでも、人が生きても
感情のまま生きても
陽は登り、月は落ちる。
こちらの必死にしがみつくことすら
後ろへ後ろへ追いやって、
回り回って生きていく。
残されたものは、忘却しかない。
たったひとつ残して居なくてはならない物を
見定めて私は今度こそ
涙を忘れることが出来た。
だけれど口は、その口の奥底
にあるであろう心は
まだ子供だったのだろう。
表面は取り繕えても、
いつになっても寂しい自分が
悲鳴をあげる。
「また…会えたら良いのに…」
「だけれど…あの村に立ち入るなら
私の過去を知ってしまうなら…」
その先の言葉は飲み込んだ。
考えたくもない。
あの一瞬でも好ましいと思った
人に、疎ましく思われるあの瞬間は
引き裂かれるより辛い。
そこに何も希望を持たなかった。
裏切られるだけの人生だったから、
だけれど、
昨日の彼を思い返せば
今日の彼は取るに足らない。
幸福の一欠片だけ持って
これからも過ごそう。
そう思って彼女は
今日も1日を刻み始めた。