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盲目の蛇女は幸せを嘆く  作者: 甘味処 雨
盲目の蛇女は無垢な心を揺らす
4/14

淡い軋みに

扉を開けて


「どうぞ…」


「ありがとう、お邪魔するよ。」


彼は扉の前で少し埃を落とすように

払ったあとに家のなかに入る。


私は扉を閉めると

部屋を眺めた。


私の他に誰かがいる。

そしてその誰かは興味深そうに

部屋を眺めている。


そんな当たり前のようなことが

この世のものとは思えなかった。


「そこに座ってください。

椅子があるでしょう?」


部屋の中心にはテーブルと

椅子が1つだけ、


「では、失礼して」


彼は椅子に深く座る。


「寒くもなく、淋しくもない

こんな空間は、

いつ会っても素晴らしいものだ。」


彼は一人言のように口に出す。


私は1つだけあるカップに

紅茶を入れる。


誰かのために淹れるお茶は

久し振りだと思いながら


彼の前にお茶を置く。

湯気がゆらゆらと揺れて

彼はとても嬉しそうに


「ありがとう。」


そう言いながらカップに口をつける。


私はその声を聞くだけで

精一杯だった。

ええ、と口出す言葉は

虚しく溶けるように消え、

私は彼の顔を正面から見れない。


嬉しいのだ。

こんな普通の事が、

だけれど今までの苦しさと

これから味わう辛さは

この一瞬の目配せを

とてもすべて受けるには

私は心の準備か間に合わない。


私は服の端を握り締めながら

彼の前で耐えるように立つだけだった。


これから夕飯を作って

さっさと寝てもらおう。


そしたらこの喜びも苦しみも

いつしか溶けゆく。


そう思って彼女はシチューを作る為に

台所に向かう。


この無言な暖かな空気も

彼の静かにだが確かに

存在している生活音に

耳を傾けながら、


私は料理を始めた。











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