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初授業⑤


 魔法剣とは。

 簡単な話し、剣に魔素(エーテル)を通わせて、強化するものだ。肉体強化の武器ヴァージョンなわけ。

 魔法を使うのはルール的になしかもだけど、肉体強化は禁止されていないからね。かなりグレーな技術だとは思うけど、悪目立ちしなければ、早々に反則を取られるものでもないはずだ。

  この試合で最大の懸念は、木剣ではドルゴゴスヴェン君の持つ棍棒に太刀打ちできないこと。技量とかではなく、強度的に。

 ぼくが思いきり振っただけでも弾けそうな、なんの変哲もない、ただの木製の剣。

 それを強化する。

 どう強化するのか? 耐久性を上げるのだ。

 魔法とはいえ、そんなに万能ではない。急に重くなったり、切れ味が増したり、剣筋が速くなったりしない。

 単純に、思いきり棍棒に当てても壊れないようにするくらいの強化である。


「――ふっ!」


 おっと。

 段々とドルゴゴスヴェン君の攻勢が熾烈さを増してきた。

 なかなか仕留めきれないぼくに対する焦り? 違う。たぶん身体が温まってきて、普段の調子が出てきたのだろう。

 颶颶(びゆうびゆう)という激しい風切音が、ぼくの鼓膜を震わせている。

 試合の開始から1分は経っただろうか? 3分なんてあっという間だ。躱し続けるのは無理ではないにしても、危険は増すばかり。

 よし。ものは試しだ。やってみよう、魔法剣。

 

 ちなみにこの魔法、あまりこの世界で馴染みがないらしい。

 小学校のときにみんなの前でやって見せたら、えらい驚かれた記憶がある。

 発想的には、肉体強化と同じはず。ぼくがやらなくとも、たぶん誰かがやっている――と思ったんだけど、違った。

 小学校の教師曰く、勝手知ったる自分の身体ならともかく、武器にまで魔素を流し込むのは至難の技だそう。組織や構成している物質が違うからかな。

 あとは想像力の勝利かもしれない。元々前世では昭和後期生まれの男子だったんだ。武器を魔法で強化する、なんてのはいくらでも観たよ。

 あれもできる、あれ。きっと誰もが憧れたであろう、超大作SF映画に出てくる光の剣。

 流石に魔法剣で驚かれたから、小学校のときには一度も披露していない。また、結構ため(・・)に時間が掛かるから、魔物(モンスター)相手の実戦でも使ったことはなかった。


「うらぁっ‼」


 そんなことを考えていると、先ほどよりもさらに攻勢を増すドルゴゴスヴェン君。もう一段階上の速さになった。

 これにはきっと、苛立ちの感情が入っている。あの棍棒の大きさに、速さ。とっくに接触していてもおかしくはない。でも避けているばかりで攻撃をひとつもしないぼくに、彼は苛々しているのだろう。

 さらに速度を上げた棍棒を、やはり紙一重で回避し続けるぼく。

 勝負を決めるなら、ここだろう。


 ぼくは木剣に魔素を通す。思い描くは決して折れない、砕けない、一向(ひたすら)に丈夫な剣だ。

 やはり身体と違うから、魔素を全体に浸透させるのには時間が掛かる。

 その間にも、雨霰と降り注ぐ攻撃。それらを全て躱しながら、魔法剣を仕立て上げる。


「この――!」


 時間にして数秒か。魔法剣は完成した。

 ドルゴゴスヴェン君は早くも苛立ちマックス、てな感じだね。

 でも、これ以上はお待たせしないよ!


 狙うは棍棒が縦一文字に降り下ろされる瞬間。他の攻撃に比べて、そこだけは回避すると僅かながら減速しているように感じるからだ。

 ぼくは(せわ)しなく動かしていた回避の足を止め。正眼の構えを取る。

【お前の攻撃を受けてやる】という挑発的な姿勢だ。

 ここで相手が退くようなことがもしあったら、それはそれで困るのだけれど――


「小賢しい!」


 よかった。そうはならなかった。

 ドルゴゴスヴェン君は、ご注文通りに、縦一文字で棍棒を振り落とさんとする。

 脳天直撃したら即死じゃない?

 なんて、先ほども考えていたことが頭を(よぎ)り。

 次の刹那には、ぼくは飛び出し、この試合で初めて木剣を振るった。剣は、頭を狙う棍棒に、直角で斬り込まれ。


 ――(ばん)ッ!


 ていう凄まじい音と共に、棍棒が破裂した。



 はいい?

 あんまりな爆音だったので、仕掛けたぼくすら、駆け寄る足を止めてしまった。

 ドルゴゴスヴェン君も、細目をぱちくり(・・・)させながら、ぼくと、すっかり持ち手だけになってしまった棍棒を見比べている。

 ――もしかして。あの棍棒、殺傷力を弱めるために、中は空洞だったのかもしれない。

 そりゃそうか。芯まで詰まっていたとしたら、試合用でなくてマジの棍棒だもんね、それ。

 つまり。当たったとしても、相手を押し潰す前に、自壊して致命傷を与えない構造なのだ。

 それに対して魔法で耐久力が上がった木剣を、それなりに『力』の能力(ステイタス)は高いぼくが振って当てる。

 ぼくが全力でなかったにしろ、中身が空空(すかすか)だったなら、そりゃあ弾け飛んでも不思議じゃないよねえ。


「そこまで」


 闘技場(ステイジ)の中で、ぽかんと呆気に取られていたぼくとドルゴゴスヴェン君は、トウヤ先生の声で我に返る。

 見ると、少しばかり困ったような苦笑いをしているトウヤ先生と。

 ぼくらふたりと同じく、呆然としているクラスメイトの姿があった。


「クリウス=オルドカーム君、反則敗けだ。魔術は使ってはいけないよ。武術と魔術を組み合わせた総合的な訓練や試合は、2年生の後半から始めることになっている。悪いが、それまでは待っていてくれ」

「はあい」


 個人的には、肉体強化の延長みたいな感覚で使ったのだけれども。

 とはいえ、肉体強化でないのだから、反則を取られても反論の余地はないよねえ。

 ――そういや、こんなんでよく入学試験で注意されなかったな。


「ただ相手の攻撃を寸出で避けきる身のこなしは大したものだ。冷静に相手を観察していて、ここぞというところで行動に出たタイミングも良い――行動を起こしたのが魔術だったのは戴けないけどね」


 あはは、とトウヤ先生は笑いながら言う。

 笑いながら言っているんだけれど、どこかその糸引くような細い瞳には、どこか窺い知れぬ光があるように見えた。


「次にドルゴゴスヴェン=スミヤセベーゼル君。手にした武器が良かった。その体躯に筋力では、今日用意した他の武具たちでは、逆に扱い辛かっただろう。まあ、その(・・)棍棒も、強度に問題はあったかもしれないけど――それはおいておくとして。武器の重さや大きさを忘れるほどの使いこなしようは、一対一よりもむしろ多勢を相手にするものだ。みんなもこれから解ってくると思うが、戦時では一対一で決闘、なんて場面はほとんどない。常に多くの相手とやりあうのが戦争だからね。だからドルゴゴスヴェン=スミヤセベーゼル君の今日の試合運びは、非常に理に適っていた」

「へへへ、先生。それは誉めすぎだ」

「誉めることは悪ではないし、タダ(・・)だよ。正しいことを正しく言っただけさ。それを言わなければ、本当の悪になる――けどまあ、反省材料としては、力勝負は強いけど、相手が技巧派だったり、素早かったり、そもそも時間稼ぎが目的でまともにやり合わない場合。一対一の場面はほとんどないとは言ったけど、全くのゼロじゃない。君は、今のままだと相手によっては、本来の力を出せずに負ける可能性がある。今の戦い方を維持し、苦手な相手にも対処できるよう、訓練を積む必要はあるね」


 ううむ。

 トウヤ先生の話は、流石は最高学府たる大学校の教師。的を射ているかどうかは本人しか解らないけど、聴いている分には、外れてはいない。

 アキがトウヤ先生は能力こそ低いものの、教育者としては優秀だ、みたいなことを言っていたけど、どうやら間違いではないらしい。


「――じゃあ、論評はこの辺にしておいて。

 クリウス=オルドカーム君。来てくれるかい」


 ぼくが感心してうんうんと頷いていると。

 遂にお呼びがかかりましたよ、個人指導。

 武術面における、己の真の適正が解るのだ。

 どうやらぼく、自覚していなかったけど剣は苦手らしい。では、本当はなにが得意なのか? 明らかになるわけだ。


「はい」


 ぼくは返事をし、トウヤ先生のところに行く。

 それからちょっと離れた机に案内され、椅子に座らされて、水晶玉みたいなボーリングの玉みたいなものに手をかざして――あれ? 他のひとたち、こんなことしてなかったよね?



 そうして。

 出てきた数値に、ぼくは唖然とした。



 クリウス=オルドカーム 適正



 剣 ~ 12        億


 槍 ~ 37


 弓 ~ 21


 杖 ~ 54


 盾 ~ 19


 体術 ~ 65


 その他 ~ 1       兆

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