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さあ入学②


 大学校の歴史は古い。

 少なくとも大災害(ブラックエンド)の後。この(アカ)の国が形作られたときには、既に原形が出来上がっていた。

 創始者として名が挙げられるのが、国王ウィングルドとベースラインである。

 当初は国軍の養成所として設立された。

 再びの魔法使い(ウイザード)の襲撃に備えるべく。また敵国(アオ)との争いに勝つべく、優秀な戦士を育てる場として、この大学校は形作られていった。

 敵国としては、そのような組織が面白いはずもなく、幾度も攻撃を仕掛けてきた。

 現在のような海上での散発的な戦闘ではなく、何海里(ル・ベト)も離れた海の向こう側から攻めてきて、上陸戦も行われたとのこと。

 国軍養成所は、何度となく崩壊と全滅の危機に(さら)された。

 ただ、優秀なるウィングルドとベースラインのお家の人々は、それら全てをはね除けた。

 中の国内での再三に渡る宣伝(プロパガンダ)により、戦意の高い人材が、後を絶たず入所したのも要因として大きかった。

 養成所の設立から百年は、毎日が存亡の危機に瀕した戦いの連続だったが。ウィングルドとベースラインに率いられた学徒は、全ての攻撃を防ぎ、敵を撃退していった。


 やがて發の攻撃は弱まる。強固な養成所の守りを突破することがいつまでも出来なかったからだ。

 おそらくは敵国内での政変か。とにかく以前のような集中的な攻撃は少なくなった。

 その隙に、養成所は大学校へと名を変える。あらゆる危機に対応できるよう、戦闘だけでなく、あらゆる学問の専門家を従え、教育する場へと性質を変化させた。

 それはやがて人を呼ぶ。その人はさらに別の人を呼んで、大学校を大きく発展させていった。

 ひとつの校舎では収まりきらなくなった大学校は、戦闘の合間に学び舎をひとつ、またひとつと増やしていく。

 育成の範囲はなにも軍属に限ったことにはならない。将来に發を征服するときが来たのなら、かの痩せた土地を肥やし、そこで商業を営み、自活せねばならない。そういうことができる人材も必要だ。

 だから大学校は、さらに農地を作り、工場を作り、商店街を作って、街を建てた。学園都市の完成である。

 それまで志願者の全てを受け入れていた大学校は、急激に膨れ上がる都市の人口と、反比例して低下する国軍の戦力や規律(モラル)を憂慮し、入学試験を設けた。これがおよそ100年前である。

 そこから毎年500人ほどを選抜し、学園都市及び王都に住まわせて、有事の際の臨時的な戦力とした。

 国力や戦力の低下がないよう、入学者に定員は設定せず、成績優秀なものはすべてを受け入れたし、能力(ステイタス)に劣るものはすべてを落とした。

 こうして学園都市ウィズダムは現在のような形を作り上げる。

 初等教育が全国に浸透したこともあって、優秀な人材が数多く育ち、年々に入学志願者は増加し、実際に入学できるものも増えていった。

 ちょうど10年前――マグマ=リン=ウィングルドが入学した年――には、入学者が千人に達した。そのほとんど全てが、当時の入学に必要な最低限の能力を持った、世間一般で秀才と呼ばれる人間だった。間違いなく、大学校は全盛期を迎えていたはずだった。


 しかしながら、その年に事件(・・)は起きる。

 敵国である發より、久方ぶりとなる大規模な攻勢を受けたのだ。

 昼夜問わず続いた攻防によって、全壊した戦艦(いくさぶね)は30を超え、国軍の被害は数千人に上った。

 大学校に通う生徒には兵役が発するため、彼らにも被害は多少ならずともあった。とはいえ学徒を最前線に多数配置するはずもなく、後方の補給部隊の任がほとんどだったから、その戦自体では、あまり被害はなかった。

 手酷い被害があったのは、学園都市への直接的な奇襲によるものである。

 悪魔の騎士(ナイト・ライダ)を名乗る敵の一団が、ある日突然に、白昼堂々と、入学したばかりの生徒がいる学び舎を襲撃したのだ。

 経験豊富な教師や生徒は、兵役の任に就いている。その場にあるのは、年齢的な問題で前線を退いた老教師と、一般教養と簡単な戦闘技術を習得し始めたばかりの新入生だ。

 おそらくは手練れと思われる悪魔の騎士に、全く太刀打ちができなかった。

 千人を超えた新入生が、その襲撃の後にはたった200人ほどに数を減らしていた。

 悪魔の騎士たちはなんとか撃退されたものの、大学校と学園都市には、死者と再起不能者を合わせて800人も出した事実が、重くのし掛かった。

 以来、入学試験は見直しがされ、合格水準が上がった。入学志望者数は横ばいを続けるも、合格者は年々減少している。

 今年は特待生、奨学生、一般生を全て合わせて、たったの68人。2クラスが精々だ。過去最低と言われた昨年の合格者が257名。それを遥かに下回る人数である。不作を通り越して、まさに凶作だった。

 ただ、人数が少ないからと言って、能力が低いわけではもちろんない。むしろ、年々ハードルの上がる入学試験を突破したのだ、粒揃いの優秀な人材が揃っていると言い直して過言でない。

 大学校と学園都市、ひいては中の国は、これよりさらに発展を迎えていくのだ――。




 うん? 長かったかな、このお話。

 これでも、かなり要約したつもりなんだよねえ。


 入学式の初めには、やはりお決まりの学長挨拶があった。

 シオーネ=ラル=ウィングルド学長は、想像していたよりもずっと若かった。まだ40とかそこらだろう。もっと弱弱(よぼよぼ)なお婆ちゃんかと思っていたけど、そうでないらしい。

 加えてウィングルドの姓ということは、あの(・・)リン少年、もとい王太子殿下の親類なはず。容姿から雰囲気から、全く似ても似つかないけどね。

 まあそれはいい。彼女の学長挨拶は、要約して『これから頑張りましょう』みたいな感じ。非常に短くて、簡潔で、解りやすいお話だった。

 上述のように長かったのは、なぜか学長挨拶の後に続いた、副学長挨拶である。

 ロード=スウォン副学長。このひと、入学試験の前にも出てきてご高説を頂戴したけれども、とにかく話が長い。

 個人の考えや、合間に挟まれる豆知識的な小噺まで含めて、今日はたっぷり一時間強に及ぶ長話を披露してくれた。

 前回は特に私語厳禁てわけでなかったから、アキとモエもちょいちょいお話していたけど。今回はそうでない。。

 だから、真剣で重苦しい空気のなか、ただただ副学長の話を聞いていたよ。

 ――どうして運動や仕事をしている八時間はあっという間なのに、黙ってひとの話を聞いている一時間は長いのだろう?


「やっと、終わった――」


 隣から漏れるのは、モエのげんなりした声である。

 話の途中、ちらちらと彼女の様子を横目で見ていたけど、どうにも落ち着きがなかった。今にも飛び上がって駆け回りたそうに、ウズウズとしていたね。モエは、こういう雰囲気は苦手らしい。いや、ぼくだって好きではないよ?


「分かりきっている話を延々と話すのは、確かに関心するものではないな」


 対するアキも、表情こそ平然と変わらないものだったが、その声色には、やはりうんざりした気配が(こも)っていた。


「この後は――それぞれの教室で、各担任から説明会(オリエンテーシヨン)を受けて、昼食して、在学生との交流会があって、終了かあ。先は長そうだね」


 ぼくはこの会場に案内される前に手渡されたスケジュール表を見ながら言う。

 担任からの話は、副学長ほどではないと思うけれど、それなりに堅苦しいのは違いあるまい。

 早くも、入学式から気疲れしてしまうよ。


「ところで。取り敢えず四人(・・)が同じ(イー)組で良かった。シェーラとパティエラには申し訳ないが」


 あ。そうそう。

 クラス編成も発表されていた。

 式場のすぐ横に大大(でかでか)と掲示されていたから、さすがにぼくも見落とすことはなかったよ。

 あまりにも合格者が少なかったから、クラスは二つだけ。

 一組か(リヤン)組のみだった。

 ぼくとアキとモエは、揃って一組。残念ながら護衛三姉妹は、ミモザさんだけが同じ組となった。

 常に一緒にいる彼女らだから、いまはこうして平静を装っているけど、シェーラさんとパティエラさんは、内心歯噛みして悔しがっていることだろう。

 アキとモエと一緒の組で、素直に手を叩いて喜べないのには、そういった事情があるからだった。


「担任の先生て、どんなひとかな?」

「大学校だからね。厳しいひとだとは思うわよ。少なくとも、うちの父さん(パパ)よりは厳しいでしょう」


 うん。モエのお父様がどんなひとか、詳しくは知らないけど。

 彼女から聞いた話、かなり激甘(おやばか)な人物だとはうかがえる。

 大学校は国の直営だし、卒業生の大部分は軍属になる。甘ちゃん(・・・・)が担任をやって、勤められるはずはない。


「なんにせよ、だ。これから最低2年は、四人は同じ組だ。これからもよろしく頼む」


 アキはやや照れた風に頬を掻きながら言って、頭を軽く下げた。

 ぼくとモエも、互いによろしく、なんて小さく挨拶した。


 そのときばかりは。

 シェーラさんとパティエラさんの顔が曇ったのを、ぼくは見逃さなかった。

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