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反省会かもしくは飲み会か三日目①

長くなりましたので分割しますm(_ _)m


6/6 20:11

文章内で矛盾点がありましたので修正致しました。


「大体ねえ、クリウス! あんたは男のくせになよなよ(・・・・)し過ぎなのよ! チ〇コ付いてんでしょう、チン〇! しっかりなさいな」


 ――どうしてこうなった。

 ぼくは頭を抱えながら、酒を些か飲み過ぎたモエに、ばんばんと肩を叩かれている。

 アキは静かに酒を飲んでいる。おんなじ席なのに、まるでこちらとは他人のような振る舞いだ。

 あと、酒の肴に蒸しパン(ステイブ・バン)は、身体に悪くない? あんな甘いもの、どう考えても身体に悪いと思うよ?

 黒服護衛三姉妹も同席しているが、ぼくとモエを気にする様子はなし。アキの護衛なんだから当然か。酒を一滴も飲まず、淡々と水だけちびちびと飲んでいた。

 護衛だから当然だけれど、こういう場でも水しか飲めないのは辛いと思う。

 昨日も彼女らは盛場(バール)にいたんだけど、席に着かず、ずっとアキの後ろに侍り、護衛の任を果たしていた。

 今日はアキが着席を命じたので、なんとか、不承不承ながらも席に座ったというわけだ。


「ちょっと、聞いてるのクリウス? あたしの話はまだまだ終わらないんだから!」


 余所見をしていたら、モエに怒られた。


「あとねえ、あの女試験官! あんた見過ぎだから! 女の価値は身体で決まるもんじゃないのよ! おっぱいなんて、大きさじゃないの、感度よ感度!」


 ――誰か教えて。どうしてこうなったのさ。

 ぼくはさらに頭を抱えながら、試験の後のことを思い出した。



  ※



「どうだった、試験は?」


 失意のどん底に落ち、打ち(ひし)がれながら校舎を出ると、ダウーさんとターヤさんがいた。

 昨日に会わなかったのは、裏方で武術試験の採点作業を手伝っていたからだとか。

 大変だね、上級生は。そんな大変ななか、わざわざぼくなんかに会いに来ることもないだろうに。


「だめ、でした」

「駄目だったのか、まさか」


 ぼくが問に答えると、ダウーさんは瞠目し、信じられない、とばかりに驚く。

 ――まさかもくそも、あんな問題量だ。自信を持って『大丈夫』なんて返事ができるような、アキやモエみたいな神経をぼくはしていない。まあ、彼女らは本当に大丈夫なのだろうけれど。


「どのくらい解けた?」

「8割くらいです。その内2割は、自信がありません」

「最後まで解答したか?」

「最後は、変な問題でしたね。なんとか、自分なりの考えは書きました」


 傷心のぼくに対し、ダウーさんは立て続けに質問を浴びせる。

 こちらとしては、早く試験のことは忘れ、帰郷の準備をするために宿に戻りたいんだけど。


「――なら大丈夫だろう。クリウス、俺は学力試験の採点員でないからはっきりと言えないが――安心しろ、学力試験で落ちることはない」


 ダウーさんは何故か自信ありげに、胸を張って言う。なんの根拠があるのかは判らない。

 それに、昨日は会わなかったから、彼は知らないのだ。ぼくが魔術試験でも失敗したことを。

 でも、そのことを告げるのは憚られた。こうもぼくなんかのことを自分のことのように想ってくれるひとに対して、後ろ向きな発言をすることはできなかった。


「どちらさま?」


 それまでぼくの後方で、アキと話し込んでいたモエが、こちらに気付いたらしい。

 互いの顔色を窺いつつ、ぼくに訊いてきた。

 ダウーさんとターヤさんは、当然彼女らのことを知らない、はず。もしかしたらアキのことは知っているかも。直接の面識はなくても、あの紅い髪が、当代(アクタル)ベースラインの証とは、認識しているだろう。


「俺はダウー=エスト。クリウスに命を助けられた、しがない剣師(ウオリア)だ」

「私はターヤ=フルシネンヤ。同じく、クリウスが命の恩人よ。あなたは?」


 そんな大それた命の恩人、とか、自己紹介に必要かなあ?

 堅苦しいほどに律儀なダウーさんたちだから仕方ないかもしれないけれど、聞いているこちらは背筋がむず痒くて仕方ない。


「あたしはモエ=クルガン。見ての通り、クリウス=オルドカームの友人(・・)のひとり。あなたたちとおんなじね」


 明らかに年上と知れる、体躯の良いダウーさんとターヤさんに対し、はっきりと告げるモエ。さすがは四女といえ将軍(ゼネラル)家の出身だ。いきなりため口(・・・)から入っていったよ。


「――クルガンとは、将軍家?」

「ええ。我が父、エスビストは確かにこの国の将軍よ。でも、いまは一介の受験生。クリウスの友人として、普通に接してね」

「ふむ――」


 いやいや、一介の受験生というなら、ため口とかその態度、どうなの? 相手は年上で大学生ですよ?

 加えるに、ない胸を張ったところで失笑しかないしさ。

 ただモエの言葉を受けたダウーさんはこちらを見て考え込み。ターヤさんは驚きで目を丸くしている。


「もしや、クリウス。そちらの紅い髪の御仁も、知り合いか?」


 いや、ダウーさんが見ていたのはこちらだけでなかった。

 ぼくらのわずか後ろで、黒服護衛三姉妹と話をしているアキも、しっかりと視界に入れていたらしい。

 気付いていたけどね。ダウーさんの鋭い目付きが、らしくもなくぼくとアキをちらちら見比べていたのは。


「はい。あちらは――」

「アキ=ベースラインよ。あたしとクリウスの友人のひとり。で、黒服の三人は、ミモザとシェーラ、パティエラ。やっぱり友人よ」

「むむ――」


 勝手に残り全員の紹介を済ませるモエ。

 ぼくの言葉を遮ってまで、自分で言うことなのかな?

 放っておくと、変な紹介しちゃいそうだから?

 まあ、あくまで堅苦しい関係なしに、ただの受験生。将来的にはあなたたちの後輩になる、みたいな感じの方が、アキやモエには居心地が良いかもしれないけど。

 でもさあ、ベースラインなんて言ってしまったら、元も子もないよ。

 その姓を名乗れるお家なんて、ひとつしかないんだから。


「凄いわね、クリウス。もうこんなにお友だち(・・・・)が増えたのね」


 ダウーさんが難しい顔で押し黙っていると、ターヤさんが、やはり驚き顔で言った。

 でもなんとなく、その『お友だち』という言葉は抜けている感じがする。

 ぼくみたいな農民の子に、こんな大それた友人ができたことに驚いているわけでなく。どちらかといえば、大切な試験を迎えた受験生が、暇を縫って友人を作ったことに驚いているようなニュアンスだ。

 それも当然か。ぼくだって、前世で遊びに行くときはともかく、大学受験の時にナンパしたりなんてしなかったよ。


「誰と話しているかと思えば、あのときのギルドに一緒にいたふたりか」


 ターヤさんの抜けた発言の直後に、アキはこちらに気付いた様子で、歩み寄ってきた。

 彼女にとって面識こそないものの、飛竜(フリイ・エリビス)討伐でギルドが湧いたときに、あの場にいたのだ。顔は覚えていたことだろう。


「――はっ。申し遅れました。俺――私はクリウスに命を助けられた、この大学校に在籍する、ダウー=エストであります――」

「いい。そう畏まらんでくれ。そういうのは()だけで充分だ。

 私はアキ。ベースラインだが、いまこの場ではクリウスと同じ受験生でしかない。友人の友人として扱ってくれ」


 ダウーさんが敬意を示し、改めて挨拶をしようとしたところで。アキはそれを途中で遮った。

 彼女の顔色は、心なしか暗い。最初のときもそうだったけど、アキは堅苦しい雰囲気や関係は、慣れているけれども得意でないらしい。

 まあ、そりゃモエも一緒か。お家では、ぼくなんかが想像もできないくらいに二人ともお嬢様(・・・)なのだろうから。

 外でくらい、気さくでざっくばらんな関係を望んでいるのだろう。


「では。失礼をしまして――俺はダウー=エスト。大学校生だ。故あってクリウスに命を助けられた身だ。その彼の友人とあれば、俺にとってもかけがえない友人だ。よろしく頼む」

「――私はターヤ=フルシネンヤ。同じくよ。よろしくお願いします」


 二人の挨拶に、アキはよろしく、なんて、どこか納得したように応えた。


「じゃあ、ダウーにターヤ。お近づきの印に今晩付き合わない? あたしとアキと、クリウス、三姉妹と」


 うん? ねえモエ、なにが『じゃあ』なの? あと、ぼくもメンバーに入っているの? 正直、ぼくはそんな気分じゃないよ。早く家に帰る荷作りするんだから。

 改めて挨拶をしたダウーさんとターヤさんに、モエの提案である。

 三日連続で、ギルド横の盛場(バール)に行く気だ。

 モエは前世で何度となく見掛けた、くいっとグラスを傾けるジェスチャーをする。

 飽きないのかな、そんなに飲みに行って。


「うむ。試験は終わったしな。少しばかり息抜きをしても構うまい」


 ありゃ。アキは乗り気だよ。ぼくはなんの返事もしていないけれど。

 ――これで断ったら、怒られるのかなあ?


 ただ、ダウーさんとターヤさんは浮かない顔だった。

 お互いにちらりと目を合わせている。


「――すまない。今日はこれから、大学校で試験の採点作業を手伝わねばならん」

「昨日と今日、明日はギルドの斡旋で、大学校で仕事なの。二人とも、夜遅くまで。申し訳ないけど、また誘ってもらえるかしら?」


 武術試験の採点の次は、学力試験も採点するらしい。

 しかもギルドの斡旋て。大学校は、そんなこともギルドに依頼を出すんだなあ。ボランティアて、学生たちを募っているかと思ったら、そうではないらしい。


「それは残念」

「ああ。ではまたの機会に。もし受かっていれば、しばらくは同じ大学生だ。きっと機会はある」


 アキとモエは、心底残念そうに顔色を曇らせる。

 そんなに大人数で騒ぎたいの? なんか溜まってるんじゃない、きみたち。


「あのお、ぼくは参加するとは一言も――」

「じゃあ、またね。ダウー、ターヤ!」


 思わず出たぼくの抗議は、モエの別れの挨拶で遮られた。

 ぼくの参加は、もう決まっていることらしい。




 そうして、ダウーさんたちとは別れ。

 一度解散して、着替えてから盛場に。とはならなかった。

 ぼくが拒否して逃げ出すのが目に見えていたのか、モエはこちらを引き摺るように、盛場へ連れてきたのだ。

 いや、違う。実際に引き摺られていたからね。なにこの子、そんな身体のどこに、馬鹿力出す筋肉が付いているの?


 で。

 話は冒頭に戻るわけだ。


「あのさ、モエ。若い女子がそんなお下品なことを言わない方が」

「うっっっさいわね! あんたはさっさと飲みなさいな!」


 うん。アキはともかく。

 モエとのお酒は当分いらないなあ。

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