武術試験②
ちょっと短いですが、キリが悪くなりそうなので投稿します。
「で。一体いつまで三人一緒なわけ?」
結局、だだっ広い体育館みたいな待合室が、そのめま試験会場になった。
試験官の説明が終わってすぐに、受験生は起立させられ、会場設営の間は隅に追いやられ、しばし待機。
武術試験の開始は12時の予定だったのに、準備が整ったのは14時である。
元日本人として、この時間のルーズさには、苛立ちを覚えるね。
で。
ようやく会場が出来上がったところで、受験生は各自、自分の試験場所を確認する。
三人揃って、近い場所から確認をしていって――一番遠いところに、三人一緒で番号があるのを発見した。
そうしたらモエが、上述のように言ったわけだ。
「受験番号が近いからじゃない?」
ぼくは答える。
三人とも番号はひとつ違いだから、順番で割当てするなら、当然に同じ会場になるよね。
「だが、私たち以外の番号はてんで離れている。3、52、71、112、143、155――何かしらの意図が感じられるな」
むう。確かにそうなんだよね。
ぼくら以外は、番号に規則性は感じられない。アキの言う通りにばらばらだ。
三人とも剣術になったり、同じ会場になったり。すべてはランダムで、どうなるかは運だって聞いていた。
もはや、なにかの作為的な意図を禁じ得ない。
「こりゃ、あたしたちの誰かが対戦することになるわね」
真剣な顔でモエが言う。ここまで来たらそれも有り得るだろうか?
「いい、二人とも。もしあたしたちの誰かが対戦することになっても、全力でやること。特にあたしに対して手加減なんてしたら承知しない。そして、恨みっこなし! 分かった?」
「当然だ」
私から言おうと思っていた、とアキ。
ぼくはただ首肯くだけだった。
正直、二人のどちらとも手合わせなんてしたくない。
ぼくが実力で劣っているとは思わないけれど、やっぱり、顔見知り相手ではやり辛い面がある。
彼女らは、こういう場合の心の訓練なんかも、しているのかな?
「これより試験を開始する。番号を呼ばれた二人は、闘技場まで来るように。そこで武器を渡す。先の説明でもあったが、どんな形状の武器であれ、交換は不可である」
ぼくら三人が難しい顔で真剣に向き合っていると、試験官の声が上がった。
先ほどの青年ではないようだ――て、あれ。ダウーさんじゃない!
視線を向けた先には、見馴れた(とは言っても半日一緒にいただけだが)筋骨隆々な、ダウーさんの姿があった。
ラッキーだ。この上なく。
ぼくは先ほどの別れ際に、自分から『贔屓は止めて』なんて言ったくせに、少しばかりの期待を持った。
能力測定で厳しい結果が出たのだ。ここで僅かでも、点数は良くしておきたい。
――そんな期待をするために、ダウーさんたちを助けたわけじゃない。
ぼくは自分の愚かな考えを恥じて、頭を振った。
だめだだめだ。変な期待をしちゃいけない。
ダウーさんだって、あの真面目な性格だ。手心なんて加えるはずがない。
「質問がなければ、試験を開始する。
3番、52番、前へ」
さあ、いよいよ開始だ。腕が鳴るなあ。鳴りすぎて、ぷるぷる震えているけれど。
「なあに緊張してるのよ、クリウス。もしあたしと当たってそんなだったら、すぐに勝負つけちゃうからね?」
ぼくの様子を察したのか、モエが声を掛けてきた。不敵ににやりと笑みを浮かべながら。
彼女はきっと、先ほどの発言の通りに、こんなぼくと試験になっても、少しの手加減もしないだろう。
そんなモエに、そしてアキにも、ぼくが全力で剣を振るえないなんて――失礼にもほどがある。
ダウーさんに頼るのもなしだ。
ぼくはぼくの全身全霊をもって、試験に臨まなければならない!
(いや、本当に二人と当たるなんて、決まった訳じゃないけれどね)
ぼくは自分の思考に突っ込みを入れながら、第一試験の様子を見ることにした。
※
「そこまで。3分経過だ」
食い入るように観戦していたら、あっという間に最初の受験生の試験は終わった。
なんというか、やっぱり最初って、勝手が判らないものだよね。
「やはり、というか。互いに消極的な勝負だな」
「うん。まともな規程なら、5合目の3番の払いで勝負は決まっていたわ。6合目で突きを出してね。でも――」
「ああ。怪我をさせるのを恐れた。52番のあの力量では、あの瞬間の突きは止められまい。避けることもできず、喉元が窪んでいた」
解説ありがとうございます。アキ、モエ。
そう、最初の受験生は、減点を恐れて積極的な攻撃ができなかった。
明確な実力差があるにも関わらず。
とはいえその実力差は、相手を怪我させずに勝敗を決する、とまではいかなかった。
普通であれば。例えばここが戦場だったとしたら、すぐに決着はついただろう。
それほどまでに、この試験の規程は厄介なのか。
「どういう採点基準か判らないけど、あれじゃあちょっとねえ」
随分上からな物言いだよね、モエ。さすがは将軍家の生まれか。
きっとこれまでの15年間に、数えきれないほどの試合をし、観てきたのだろう。
でなければ、あんな解説はできないし、あんな言い方もできないはずだ。
それは、アキも一緒。彼女も彼女で、とんでもない訓練を積んできたはずなんだ。
ぼく?
ぼくはあれだよ、あれ。一応小学校でも剣術は必修科目だからね、やったよ。同じ歳の子どもや教師と。
7歳くらいまではいい勝負だったりもしたけど、10歳過ぎてからは勝負にならなかった。主にぼくが、彼らと比べて強すぎて。
前世では剣術はおろか、剣道だってやったことなかったけれど。
どうやらこの身体は、能力が示す通りに、武術に対しては適性が高いらしい。
――とにかく。
二人はぼくとは違って、経験豊富、てことだ。
「次。71、112番」
ダウーさんが次の番号を呼ぶ。
二人の受験生は、神妙な面持ちで闘技場に入っていった。




