4.天使様の本性(3)
「私たち人間を、ラグエル様はどう思っておられるのでしょうか」
意を決して発した問いを、天使様は盛大に鼻で笑った。
「冥土の土産に聞きたいことがそんなくだらないこととはな!だが、私は寛大な大天使であるからな!貴様のそのちっぽけな質問にも答えてやろう」
まさに、悪魔のような表情を浮かべ、天使様は私のそばまで近寄ってきた。
そして、私の髪を引っ掴み、無理やり顔を上げさせる。頭皮が引っ張られ髪の毛が抜ける音と、勢いよくあげさせられた首が嫌な音を立てた。
近寄ればいっそう分かる刺激臭は、明らかに眼前の天使様から漂っている。
私は思い切り顔を顰めた。
あの女性はよく隣で平然としていられたものだ。慣れか、嗅覚がイカれているのか。
どうやら私が顔を顰めたのを痛みのせいだと解釈したらしい天使様は、満足そうに口角を上げる。
「貴様ら人間など、ただのゴミよ。...だが貴様は違う。高貴なるこの私の糧となり、血と肉になるのだ!」
なんと返答して良いものか探しあぐねていると、聞いてもいないのに天使様は勝ち誇ったように続けた。
「この壁の首も皆貴様と同じだ。聖女や聖人になって、私の邪魔をされては困るのでな。見つけ次第狩るようにしてるのだ。全く忌々しいヤツらよ!殺しても殺しても湧いてくる蛆虫が。この大天使たる私に歯向かうなどあってはならんことだというに!」
「聖女...?」
聖女、聖人は聖なる力を用いて人々を害悪から守り、救い、癒す者。そして、多くの人々をその手で導いてきた。
だけど、聖女や聖人は何年も前、魔族との戦いが終わった頃に全員いなくなってしまったはずだ。それ以降は平和な世の中ゆえに、新たな聖女、聖人は生まれてこない。子供でも知っている常識だ。
それが、私と同じ?
天使様に歯向かう?
聖女はこの世の全てを愛する。唯一敵対するのはこの世の邪悪のみのはずで、しかも現代には一人もいないはずなのに。
「残念だったなぁ?聖女としての本分も果たせぬまま、私に力を奪い取られて貴様は死ぬ。人々を助けることも?救うこともできず!おのが身を投げ捨て!たった一年の平穏な生活を人々に与える。はっ...実に──美談だ。涙が出るな!」
椅子の後ろに控えている女性がその言葉にクスクスと笑みをこぼした。