32.新しい街(2)
街についた私はとりあえずお金を手に入れるために、買い取ってくれそうな出店を探すことにした。しかし、そう簡単にはいかなかった。
街はとても賑わっていて、今まで村の穏やかな暮らしになれていた私からしてみれば、ついていけない事ばかりだ。そこらで客を呼ぶ活気溢れる声が響き、それに呼応するように値切りを要求する客の声が上がる。
──未知の世界だ。
だが、人々の顔は私もよく知っているものだった。みんな一様に買い物を楽しんでいて、眩しい笑顔が満ち溢れている。その顔には憂いなどなく、それがかえって私には薄ら寒く感じた。それは、天使の裏の顔を知ってしまったからだろう。やっぱり天使が統治しているとこうなるのよね、と私は独りごちる。
その後、あまりの熱量の高さに圧倒され、呆然としていた私は人の波に流されまくった。ようやく一息つけるところに着いたと思い顔を上げると、そこは人気のない裏路地。出店もあるにはあるが、あまり繁盛してはいなさそうだ。
「お嬢ちゃん、林檎はいるかね、今なら100リフィアだよ」
近くの出店のヨボヨボのおばあちゃんが差し出したのはしわくちゃの林檎で、いかにも鮮度が悪そうだ。それに、林檎の相場は1個大体50リフィア。相場の倍もする。
私は結構ですと丁寧に断った。
そのおばあちゃんから少し離れたところで私は毒づく。
「...この街、こんな場所もあるの?表通りとは全然違う...こんなの、まるでスラム街みたいじゃない...」
『みたいじゃなくてそうなんだろ。...ますます人々がどうして天使なんかを崇拝してるのかわからないぜ...』
天使の統治でなくなったとされているスラム街。でも、これがスラム街でなくて、何がスラム街なのだろうか。
足元を走る子供たちはみんな痩せっぽちで、まだ肌寒い季節なのにボロボロの半袖と半ズボン。髪は伸びっぱなしでいつ洗ったのかもわからないくらい汚れている。
子供ばかりではない。大人だって何人も道端に座り込み、物乞いをしている。
これは一体どういうことなのだろうか。
この生活をしている人たちは、この現状を作り出した天使に、それでも信仰を捧げているのか?だとしたら相当異常だ。
そんな思いを抱えながら裏路地を進んでいくと、細い道に、武器屋と書かれている古びた看板をみつけた。
薬草は傷薬にもなるし、魔物の牙や角は武器になる。ここなら買い取ってもらえるかもしれない。そう思った私は入ってみることにした。
コンコン、と古びたドアをノックをしてみる。
返事がない。
さすがにやってないということはないだろうとドアノブに手をかけてみると、やはり鍵はかかっていない。ギィギィ音のするドアを押し開けて、私は店に入った。