2.天使様の本性
やたらと露出の多いわがままボディな女性が、天使様(と思しき人物)にしなだれ掛かりながら、これまた醜悪に笑った。
「ラグエル様。村は今作物の実りが良くないそうですわ。明日食べるものにもお困りのようねぇ。可哀想に。そんなに痩せて」
明らかに馬鹿にするような含みを持たせて、女はこちらを見やった。
私はカッと顔が赤くなった。
私たちはみんなで協力して、少ないお米と野菜を分け合って生きているのだ。それも全部、採れた野菜やら米やらの大半を天使様に納めているからだ。その捧げ物でここまでぶくぶく太っておいて、なんて言い草だ。
もちろん怒りは覚えたけど、それを正直に言う勇気もなく、私は顔をふせたまま黙っていた。
天使様はつまらなそうに首を竦めて、女性の頬を掴んで顔を近づけた。
私はその時点で怖くなってパッと目を逸らしたが、所々入る女性の声や、聞くに耐えない水音などは否応なしに聞こえてくる。
「て、天使様!私は、何をすればよろしいのでしょうか!」
やってしまった。
私はつい堪えきれずに口を挟んでしまった。
天使様は不機嫌そうに舌打ちをしてこちらに寄ってくる。
「貴様のような虫けらに望むことなど何もないわ!何も出来ない役立たずが!そこで黙っておれ!」
じき殺してやる、と私を蹴り飛ばした天使様は、何事も無かったかのようにまた玉座に座り、女性の身体を撫でくりまわした。
当の私は、脇腹に天使様の硬い靴のつま先が突き刺さったせいで、咳き込みながら倒れ込んでいる。あの靴には実は鉄板が仕込まれていますと言われても納得できるほどの破壊力だ。正直痛みもそうだが、なにより呼吸ができない。息をすると腹部から突き刺すような痛みが走り、その度に身悶えしてそれに耐えた。
あれが、私が信仰していた天使様?
到底信じられない。
私が聞いていた天使様は、穏和で美しく、人のために心を砕いてくださる存在。
人々を苦しみと悲しみから守り、我々を正しい方へ導いてくださるお方。なかでもこの地を統括する大天使ラグエル様は、公正と調和を司っておられる。だからこそ、この村には諍いがひとつもなく、皆が協力し合い、暮らせているのだ。私たちが生活できているのも、全て天使様の御業あってのこと。
それがなんだ。
蓋を開けてみれば、村人たちに貧しい生活を強い、自分たちはのうのうと村人たちの血税を湯水のように使うただの強欲な悪魔のごとき存在じゃないか。
しかも私に向かって虫けらだと吐き捨てた。それは私たち人間に向かって吐いた暴言と同義だ。天使様にとって、人間は虫けらのような存在だとでもいうのだろうか。
私たちの血税で生活しておきながら?
ふざけるな。