15.新たなる冒険の始まり(4)
『天使は不老不死なんだ。殺すには、聖人聖女の邪悪なる者を祓う力が必要だ。だから天使はお前らを集めて狩ってたんだろうな』
聖なる力は、邪悪なるものにとっては毒のようなものだからな。
ベノムがサラリと話を流そうとしているのを慌てて私は止めた。
「ちょ、ちょっと待って!あいつ、私を食べるって言ってたわよね。それはなんなの?毒なのに食べるの?おかしいでしょ!」
『あいつらは他人の力を吸って生きる寄生虫だ。力であればなんだっていいんだ。ただ、なんというか、自分に向けられた刃はさすがに力に変えられない......うーん...なんて言えばいいんだ...俺こういうの説明するの苦手なんだよな...』
頭でも抱えそうな雰囲気のベノムだが、今情報をくれるのはベノムしかいないのだ。説明が苦手でも頑張ってもらわねば私も動けない。
『あーもう、説明するのは無理だ!どうせ時間が経てばわかる事だし、そのうち俺の...あー......お前の前世が目覚めるだろうしな。たしかあいつ学者って言ってたし、説明するのも得意だろ』
「──前世?」
あれ?とベノムは声を上げる。
言ってなかったか?というベノムの問いかけに私は、言われてないわよ!と間髪入れずに返した。
「じゃあ、あなたもしかして私の前世なの?!」
『ああ、というか、子供の頃教わってないのか?』
「教わらないわそんなこと。......あぁ、なんてこと。私、前世男だったの...?」
ベノムは心底不思議そうに変だよな、と呟いた。
『人間には必ず魂ってやつがあるんだが、その魂に引っ付いているのが人格みたいなもんだ。でも、性別は魂の色みたいなもんなんだよ。途中で色が変わるなんて、本来ありえないんだ』
魂ねぇ...と私は呟きながらもう一本薪を火にくべた。
日の出までまだまだ時間がある。だんだんと夜も更け、寒さが厳しくなってきた。風が容赦なく体温を奪っていく。
この時期で無装備の野宿はキツかったか。というかあの時一回家に戻って毛布の類でも持ってくればよかったかもしれない。
まあそれも今更だが。
上の空な私を察したのか、ベノムが不満げな声を上げた。
『...おい、俺の話聞いてるか?』
「聞いてるけど...初めて聞くことばかりだし、どんだけ変な事なのかも基準がわからないんだもの。ついていけないわ」
軽くため息をつきながら私は体を縮ませて、本来頭にかける薄布を体にまきつけた。多少はマシだが、布が薄すぎるのか保温効果はあまりない。
「.........寒い」
我慢しろとにべもなく言われる。
うるさいわかってるわ。そう反論したかったが、すんでのところで言葉にはしなかった。
こんなの完全なる八つ当たりだ。さっきから心がささくれ立っているようで感情の制御が上手くできない。
ダメだ。こんな自分になりたい訳では無いのに...
私がひとしきり自己嫌悪していると、ベノムが不意に声を上げた。
『宿主、さっきから思ってること全部聞こえているんだが...』
「.........は?!」
私は驚いて膝にうずめていた顔を思い切り上げた。しかも思ったより大きな声が出てしまったようだ。この声に反応して魔物が寄ってきやしないだろうかと辺りを見回す。
...とりあえず異常はないようだ。
私はほっと息をついて、胸をなでおろした。
いや、違うそれよりも、
「プライバシーもへったくれもないじゃない!...全部って、どこからどこまでよ!」
『いや、たぶん...何から何まで?』
「...……最悪の気分よ」
げんなりした声で私がぼやけば、ベノムは慌てたようにフォローを入れてきた。
『いや、18で生贄にされて親元から離れて旅に出て、今までの常識なんか通用しないことばっかりで、現在進行形で死の危険に晒されているわけじゃん。心が不安定になるなんて当然ことだよ』
「そういう問題じゃ......待って、私18歳だなんてあなたに言ったかしら」
『え゛......あー.........』
「最悪!本当に何から何までじゃない!」
あの恥ずかしい心のうちまでベノムには筒抜けだったのだ。
最悪以外の何物でもない。
私は手で顔をおおってさめざめと悲嘆にくれた。