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10.目覚めたもう1人の私(3)

『...ベノムっ...!なんで2階なのに飛び降りたの?!死ぬかと思ったじゃない!!』


「宿主だって考えてたことじゃないか。逃げるなら窓しかないって。第一、生きていたんだからオールオッケーだろ」


ベノムは至極面倒そうに頭を掻き、茂みから起き上がった。

とりあえず逃げるか、とベノムは身を翻し、茂みに隠れるように走りながら、堂々と正門から天使の家の敷地を出る。今回ばかりは衛兵がいなくて助かった。


「...衛兵や見張りはいないのか...?」


ベノムは不思議そうに独りごちる。

そう問い掛ける間も周囲に気を配りながら走り続けているのは流石だ。騎士だと自称していただけある。


『衛兵だけじゃないわ。あなたの言う騎士や武人、見張りの職業も何年も前に廃止されたの。犯罪なんて起こるはずないから必要ないのよ』


私がそっと答えると、ベノムは驚いたように息を呑んだ。


「犯罪のない世界ということか...?ありえない。じゃあ食べ物に困って窃盗をすることがないとでも?些細な規則違反がひとつもないとでも?」


思い切り顔を顰めて畳み掛けるようにベノムは問いかけた。


『...ない。少なくとも私の知る限りでは、だけど』


「.........イカれてる。ありえないってレベルじゃない」


『...?犯罪がないのはいいことでしょう?』


何を当然のことを言っているのか。犯罪がないのはいいことで、犯罪を犯す人は異端者なのだ。


「......いいか、宿主。洗脳の恐ろしさはな、洗脳されている側が、洗脳されていることに気が付けないことなんだ」


今のお前に何を言っても無駄だ。とまるで吐き捨てるように言われ、私は困惑した。

何が彼の逆鱗に触れたのかわからない。


『......私、何か変な事言った?』


「いや?別にそれがこの世界の常識というやつなんだろ。...しかしまぁ、世界も変わったもんだな...」


俺のいた頃とは大違いだ。そうしみじみと呟くベノムは、村の住宅地を避けるように森の方角に走っている。


『あなたのいた頃って、何年前の話?ていうか、あなた一体何者なの?』


「...説明するのは時間がかかるから後でな。それで、今は一体何年だ?」


正直疑問は早く解決したい。でも、この状況で長話できないのも十分に理解出来る。さっきから分からないことだらけで頭がパンクしそうだが、仕方の無いことだしひとまず置いておこう。


『...後で絶対ちゃんと説明してよね。えっと...1603年よ。魔族との戦いが終わってから年号が変わって、天使暦は今は194年ね』


「...驚いたな...400年近く昔じゃないか」


『......ねえそれって、』


後で説明するとは言われたが、ベノムの独り言につい聞き返そうとしたところで、ベノムは不意に足を止めた。

私は言葉を途中で飲み込んで、その代わりどうしたの?と聞いた。


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