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宇宙海賊は異世界でも笑う  作者: 乙晃弥
第二章 教団侵攻編
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第1話 居場所をさがして その2

「失礼いたしますわ」

 

 レベッカが少女の眠る部屋の戸を開けた。

 オリガとケインが一緒だった。

 ケインは不満げな表情である。


「・・・・・・この子が目を覚ますまで待ってやれないんですか」


「・・・・・・わたくしたちはこれまで常に後手に回っていますわ。今この瞬間も敵は動いてるかもしれません。少しでも早く、何が起こっているのかを知る必要があります・・・・・・この子を守るためにも」


 ケインの問いにレベッカは淡々と答えた。


「そりゃあそうかもしれませんがね、やっぱり気は進みませんねぇ。ずかずか人の頭に入り込むってのは」


 ケインはそう言いながらも少女の額に優しく右手を置いた。


「悪いな。少しばかり覗かせてもらうぜ」


そう言ってケインは目を閉じ、右手に意識を集中させた。

 瞬間、彼の頭に少女の記憶が流れ込んできた──


 暖かな日差しが差し込む部屋の中、目の前に老人が立っている。

 長い白髪と豊かな髭、深いしわに隠れるようにしている瞳には暖かな微笑が含まれている。

 簡素ながら上品にあつらえられた家具や調度品が、老人の丸みを帯びたオーラとマッチしていた。

 少女はこの老人に親しみの感情を持っている。記憶を通じてケインにはそれが分かった。


「おかえり、セレナ」


 老人のただ一言に少女──セレナは安堵し、気を緩める。


「ただいまおじいちゃん。今日は沢山採れたよ」


そう言って少女が突き出した両手には、赤や黄や青、色とりどりの花が抱えられていた。


「あぁ、綺麗だねぇ」


 老人はそう言ってセレナの頭を撫でた。

 彼女は老人のゴツゴツと硬い掌から逃れるように首を傾げつつも、笑顔である。


 バンッ──


 けたたましい音を立てて不意に玄関の扉が開いた。

 太陽を背に、黒ずくめのローブ姿の人間が2人立っている。

 

「・・・・・・セレナ。こっちへおいで」


 老人は落ち着いた声でセレナを呼び寄せ、己の背後へ隠すように立たせた。


「コウデルカだな? 一緒に来てもらおうか」


 黒ずくめのうちの1人が言った。


「その名を再び聞く時が来るとは・・・・・・どうやってここを見つけたのかね?」


「10年ほど前に極めて強い魔力を感知した。その発信源がこのあたりだったのさ。何をやったのかは知らんが、あれだけの魔力を練れる人間はそうはおるまい。見つけ出すのに随分手間取ったがね」


「こんな老ぼれを熱心に探す奴がおるとは思わなんだ。つい脇が甘くなってしまったようじゃな。それで、一体どういった用件かな?」


 老人は泰然とした態度である。


「我々と一緒に来て欲しい」


「ふっふっふ。私が生きていることを信じて探していた連中なんぞ、ロクなもんではないわ。行かぬよ。そもそも人の言う通りに動くのは気に食わんしな」


「では仕方あるまい。少々手荒くなってしまうが、力づくで!」


黒ずくめの2人は懐から漆黒の背表紙の本を取り出し、何やら詠唱し始める。


「昔から自分より賢い人間というものは見たことがないが、ここまで愚かな人間も初めて見るわい」


 老人がそう言うと──

 

 「なんだ!?」


2人組が手にしていた本を蒼炎が包み込み、男達は思わず本を床に落とす。

 この間老人は指ひとつ動かしてはいない。


「さ、帰るが良い。次はその身を炎に包まれることになるぞ。私もこの子にそんなものを見せたくはない」


 男たちはあっけに取られ突っ立っている。

 本が落下した床には黒く焦げた痕だけが残っていた。


「──全く。何をしているのやら」


 不意に戸口で声がした。

 瞬間、部屋に巨大な右手──悪魔の手とでも形容するべき凶々(まがまが)しい爪を持つ、巨大な右手だけが戸口を破りながら侵入し老人を捕らえた。

 悪魔の手は老人の身体を完全に握り込み、かろうじて首だけが親指と人差し指の間から生える形になっている。

 進路上にいた2人の男は、身体を引き裂かれ物言わぬ肉塊と化している。


「おやぁ? 随分と簡単に捕まるのぅ。お主本当にあのコウデルカか?」


 グチャグチャと、肉塊を跨ごうともせず男が部屋に踏み入ってくる。

 この男も老人ほとではないが、歳を食っている。黒いローブを着てはいるが、フードは被らず禿げかかった黒髪と、冷徹そうな顔があらわになっている。


「ふっ、その名を名乗ってこの歳まで生きながらえているんだぞ?」


 巨大な手に捕らえられ、宙空にあっても老人は飄々(ひょうひょう)としている。


「なるほど。偽者ならとうにくたばっているか。たしかにコウデルカの名はそれほどに重い。ま、ひとつ確かめさせてもらおう」


 男はそう言ったきり特段なんの動きも見せなかった。

 が──


「コヒュゥッ──」


 老人の喉から空気が搾り出される音がした。


「おやおやおやおや、まさか、まさか何も出来んのか?」


 男は嘲るような調子で言う。


「おじいちゃん・・・・・・」


 すっかり腰が抜けてしまって、床にへたり込んだセレナは消え入りそうな声で呼びかけるも、老人から返答はない。

 彼女の胸に言いようのない不安と焦燥が満ちていく。

 老人は力を振り絞って少女の方へ顔を向け、何かを伝えようと口を動かしている。

 しかし、身体を締め付けられているせいで声を出すことが出来ない。


「もういい。お前が本物だろうと偽者だろうと、我々が望む存在ではないわ」


 男はそう言うと踵を返し、一歩踏み出した。

 その瞬間──部屋が赤く染まった。

 悪魔の手によって老人は引き裂かれ、方々に肉片が飛び散った。

 ポーンポーンと、老人の首が転がり、セレナの目の前で停止した。

 その首の苦悶に満ちた眼差しを受けた瞬間、セレナの中で何かが決壊した。


「嫌ぁぁあああっっ!」


 空気を裂くような絶叫と共に、彼女の視界は真っ白な光に包まれた。

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