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魔女の変わり身  作者: 桜木はる
【魔女の薬屋】
9/14

 私が戻ってきたことに気づいたのか、ツラムが家から飛び出してきて、私の胸に飛び込んできた。


「はいはい、寂しかった? すぐに戻すから待っててね」


 私がそう言うと、ツラムは私の体から離れて、地面の上に座った。

 私は魔法陣を描き、呪文を唱えた。


「ルース・アン・バインド……≪マグナ≫」


 そう唱えると、紫色の妖精が出て来て、私の目の前で、舌を横に出しながら可愛くウィンクをして、私の周りをまわり姿を魔女の姿に変えた。

 そして妖精は、手を振りながら消えていったの。

 ツラムは、また私の体に胸に飛び込んできて、私に抱えてもらう。少し重くなったかな? それなら嬉しいよ。

 家に入り、調味料を棚にしまい、私はすぐ机に向かった。

 さて、続きを書こう。ツラムは私の傍から離れ、近くにある別の机の上に停まった。


「ツラム、外で遊んできてもいいよ。私はこれから、あなたと話せなくなるから」


 そう言うと、ツラムは窓を開けて、外に飛び出していった。

 森の仲間たちと遊びに行ってきて。


―――――――――


 その魔女は……幼い時、初めて――外の町に一人で出た。

 肌が白いと人間からは気味悪がられる。

 そして、すぐに魔女だと気づかれてしまう。

 魔女は、町から追いやられた。

 子供達には石を投げられ、大人達からは刃を向けられた。

 魔女は悲しかった。

 ただ、皆と普通に接して、普通に人間と話して、仲良くなりたかっただけだったのに。

 人間は恐ろしい。だから、人間と同じ立場になれば、魔女は人間と対等になれると思った。

 ……まずは、薬屋になろうと思った。

 人間は病魔に侵される。

 だから、人間は薬を作る人に頼って行く。

 魔女は、森にすむ妖精に頼み込み、自分の姿を人間のような肌の色にし、人間の大人の姿に変えた。

 妖精は、魔女に気に入って、魔女と契約を交わし、魔女に一生付いていくことを決めた。

 妖精が何故そうしたかは分からない。

 魔女は再び町に赴いた。

 町では疫病が流行っていた。

 魔女は、予め作っておいた試作万能薬を町の人に配り歩いた。

 誰かも分からない、白衣を着た女性に町の人は不信感を抱いていたが、初めに苦しんでいた人が魔女に貰った薬を飲むと、すぐに痛みや熱が引き、良くなった。

 その事を聞いた他の病人は、一斉に万能薬を飲んだ。

 すると、病人の状態は良好になり、次第に病原体も消滅……なんと一日でその疫病を解決した、

 謎の薬剤師として名を轟かせた。

 その光景を見た旅商人が、その噂を各所で広め、その薬剤師は有名になった。

 来る日は気まぐれなものの、その日を今か今かと待ち続けて、遠方から来ている人も多かった。


 ある日の帰り、とある女の子から声を掛けられた。

 その子の名前は……もう覚えていない。

 薬剤に興味があると、その女の子は言った。

 魔女は、その子に一冊の本を渡した。それは、万能薬を作るために使った、魔女がメモを残したノートだった。

 ……その子は、今どこで何をしているか分からない。

 その子が生きているとしたら、もう百を超えたおばあちゃんになっているだろうと、魔女は考えた。


―――――――――


 ……これしか書いてないのに、もう夜になっちゃった。

 そろそろツラムが帰ってくるかもしれない。

 明日に備えて、薬を作って寝よう。

 万能薬を、私の膝の高さの大き目の壺にいっぱいになるように作り、他に、いつも持っていく回復薬、解毒薬などを、別の壺にそれぞれいっぱいになるように作った。

 時刻は二時を周り、もう真夜中になっていた。

 ツラムももう帰ってきていて、私のベッドの上で体を丸めながら眠っていた。

 私は日記帳を手に取り、今日……というより、昨日の事を纏めようと、日記帳を開いた。


「――!」


 何故、こんなに大事な物に気づかなかったのだろう。

 私には、記憶の曖昧な二日間を記した日記帳がある。

 ……確かに、これは私が書いた日記だ。

 プッチのこと、ルンベリーのことなどが書かれている。

 間違いない、私は確実にエルフィーナの森に行ったんだ。

 そして、本物のエルフに出会い、そして最後に、何者かによって気を失わされた。

 これだけで、私があの森にいたという証明になる。

 そして、あの扉がエルフィーナの森に繋がっているという証拠にもなりうる。

 今更ではあるけど、日記を自分だけの空間で書いていてよかった。

 そうと分かったら、今回は早めに、明後日にでも行こう。

 いつもの人の目を掻い潜ってでも、あの森に行く。

 目的はないけれど、こうもモヤモヤしていると気持ちが悪いよ。

 真実を確かめに行くの。それだけ……。

 ――早朝、私はツラムに置手紙を残して、ネオクリスタを使い、この大陸の南にある港町『ケークエイク』の近くにある、林に囲まれた湖の辺に降り立った。


「ルース・アン・バインド・≪ナズ≫」


 私は、魔女とバレないよう、姿を変えた。白肌から、人間味を帯びたもう少し肌色の強い色へ。

 髪の色は、日の光も透き通るような純粋な蒼へ。そして、謎の白衣と丈が短めのスカートへ。

 ついでに知的そうなメガネも。

 ……あぁ、木々の合間を縫って、私にあたる風が丁度良くて心地よい。

 久しぶりだ。

 この姿になるのは。約一か月ぶりくらい。

 そう、これが、ルンベリーの言ってた私の姿……。

 仮の名前は【ナズ=ポスリン=レース】。

 ちなみに、名前に特に意味はない。

 私が港町で薬を売るときに使う姿である。

 今回は試薬を全部持ってきた。

 万能薬も作った分は全て持ってきた。

 以前来たときは、万能薬がすぐに売り切れてしまったから、今回は多めに作って持ってきた。

 そういえば、ずっと前、何処かに、万能薬の調合に使うための『衰弱毒アルペドプチン』をどこかに落としてしまった。

 一個でも貴重だったものだから、今でも後悔している。どこに落としてしまったのだろうか……。

 ましてや、それを誰かの手に渡っていることは信じたくはない。あれ一つさえあれば、〝数体は容易に殺せる〟。

 港町で疫病の解決をしてからというもの、私の薬を買い求めに来る人が増えた。

 おそらく、その時にいた旅商人が、私の噂を旅の途中で広めてしまったことが根本の理由にあるだろう。

 厄介なことをしてくれたものだ。

 せめて私に許可をとってから広めてほしかった。

 あのあとこの町に来た時、あらゆる人から万能薬をせがまれて、本当に困った。

 さ、薬の忘れ物は一つもないし、そろそろ町に赴くことにしよう。

 久々にケークエイクに、港町の人々はどのように咽ぶのであろうか。

 喜色……悵然……悲憤……。

 もし、私が少しこなかったからと言って、「お前が早く来ていれば、家族は……」なんて言われたら、私はどのような表情で哀悼の意を示せばよいのだろうか……。

 この町に来るときは、決まってこのことを考える。

 他人事ひとごとのはずなのに、私に頼る人がいると、どうしても《私の不在時での死の責任》について考えてしまう。狩られた側の気持ちではないはずなのに……。

 そうこうするうちに、ケークエイクについた。

 町の人々は私の姿を見て、何かコソコソと話していた。

 何の話かは聞くことができなかった。

 いつもの薬を販売する場所である港付近の市場に向けて歩いていると、一人の子どもが話しかけてきた。

次話もよろしくお願いいたします!

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