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魔女の変わり身  作者: 桜木はる
【魔女の孤独】
8/14

 プッチは、私の顔を目を丸くしながらじっと見つめて、唖然としていた。

 どうやら、私が薬を作れるという事を聞いて驚いたらしい。

 一応、結構有名な方だとは思ったけれど……。

 ここまでは名前は知られていないようだ。

 それから、私とプッチは世間話をした。

 とは言え、大体の時間はプッチが話していた。

 その間、プッチは本当に楽しそうに話していたので、私もつられて気分が明るくなった。

 そして、少し経ってから、ルンベリーが料理を運んできた。

 運んできた料理を見ると、綺麗に盛り付けがされた野菜炒めがお皿に乗せられていた。


「はいこれ、お米もあればよかったんだけど、丁度切らしててね。沢山作ったからこれだけで我慢してね」


 といい、上質な木で作られたフォークを私とプッチと自分の前に置いた。


「良い匂いですね……」

「これでも料理には自信あるのよ」


 さすが、性格という難点を取り除けば殆ど完璧なエルフになれるトゥエルフ。

 私も、皆の想像通り、薬や魔術を作れるだけでなく、普通に料理も作れる魔女になりたい。

 そうすればきっと、『魔女の私』は――


「……どうしたの、ミシュ。顔色が悪い、というかちょっと白い? 食べたくないのなら無理せず食べなくてもいいからね」

「何でもないです。体調は万全なので、食べます」

「そう……」


 私は目の前にある料理を、何も考えずに食べた。

 いつもの人だけを探すことを考えよう。

 今は、〝私の今〟じゃない。

 食べ終えた後、私はルンベリーの書斎に連れてこられた。

 いかにも高級そうな木で作られた本棚には、私が読める本、読めない本が区別されて並べられていた。


「さっき薬を作ってるとか言ってたよね? それで、私の薬剤の参考書を少しあげようと思って。まぁ、お土産程度に」

「はぁ……でも私全然……」

「いいからいいから、何でもいいのよ。遠慮をしなさんな」


 そう言って、本棚から本を三冊選んで、私に一気に手渡した。

 厚く重い本ばかりで、私は本を抱えながらふらついた。

 一気に渡されても困る。

 それに、私の家にだって薬剤の本は沢山ある。

 たぶん、ここよりも多い。

 私は、本を一旦机に置かせてもらい、一冊ごとに表紙を見た。

 一番上に置いた、一冊目の本は名前が『薬学の基礎』というもの。

 ちなみにこの本は私は持っていない。

 基本的に薬剤の本は、焼けた自宅の地下から持ってきている。

 もちろん、私の姿はあちらの世界では知られているので、変身をして胡麻化しながら運んできている。

 正直、この本よりも分かりやすく作られた本は持っている。

 次の本は、真ん中にあった本、名前は『キニエイトの薬学』。

 知らない名前だ。


 そして最後、三冊目は、『レース』……。

 これ私が書いたやつだ……いつだったかな、そう、あれは、私がこっちに来てまだ間もない頃。

 遊び半分で妖精を呼んで、新たな人格と体格を作った。そして、様々な薬を作って、その薬をとある町に売りに行ったことがあった。

 もちろん、その前に色々と研究をして、自分なりに分かりやすい本のようなものを書いていたのだけれど。

 私がその町に来た頃、その町ではとある悪病が流行っていて、奇跡的に私が試作した万能薬が効果を発揮した。

 薬の材料や作り方などは頭に入っていたため、帰りにその本が邪魔になって……確か、小さい女の子に強請(ねだ)られて、その本を渡した記憶がある。

 でもその子、耳が長細いエルフではなかった気がするけど……。

 ……? 私は何かを見過ごしている気がする。ここにきて、とてつもなく重要な何かを見落としているような……。

 そんな気がしてならない。


「あの、この本……」


 私はルンベリーに、昔私が書いた、他の本よりも小さめな本を見せた。

 すると、ルンベリーはその本の中身を見て、ため息をついた。


「この本ね、小さい頃に食糧調達の為たまたま来た町で、人々にかかった悪病を一夜にして全て治した不思議な人から貰ったの。ちなみにね、本当に不思議なことに、その人は百年以上経った今でも、その町で薬を売り続けている。この本をもらって、その人を越えようとずっと努力してきたけれど、ダメね。材料も手がかかるものばかりだし、聞いたことのない材料もある。私には到底作れそうにないから、あなたにその本をあげるよ。あ、でもね、今でもその人を越えようと努力はしてるよ」

「……なるほど」

 

 その後、本を腰のポーチにいれ、ルンベリーに私が使う寝室を案内してもらい、私は部屋でやっと一人になれた。

 そして、置いてあった机に向かい、私は星のマークが本の中央についた日記帳を取り出した。


――――☆――――


 今日は、プッチの特技を見せてもらった。

 農業の神だとかなんとか……。

 まさか、プッチにあんな特技があるとは思わなかったなぁ。

 その後、このエルフィーナ森林にあるレストランで、トゥエルフのルンベリーと出会い、カジュエルフのサラに出会った。

 サラの作ったバリーアパントは、いつもの人の作るものより美味しかった。

 そして、ルンベリーに無理やりティラウレという村に連れてこられた。

 ティラウレに住むエルフ達は、性格以外が良いエルフ達ばかり。

 容姿端麗、美男美女のそろいぞろいで、頭が良さそうなエルフも多かった。

 それにしても、ルンベリーは何で私の本を持っていたんだろう? それがずっと引っかかってる。確かに私は、人間の女の子に渡したはずなのに、何でそれをエルフであるルンベリーが所持していたんだろう……いつもの人と何か関係があるのかもしれない。


――――☆――――


 日記帳をしまい、毛布の上に寝転がり、目を閉じた。

 早く家に帰らないと、ご飯は心配ないけれど、みんなが待ってる。

 ……次の日、ルンベリーに、頬を優しくつねられて起こされた。

 朝ご飯は、ルンベリーが作ったパンとスープだった。プッチもその場にはいて、私を見るなり「おはよう」と声をかけてきた。

 私も挨拶を返して、席に座りパンをスープにつけて口にした。

 お、美味しい……スープにどんな食材や調味料が使われているか知らないけれど、お野菜が汁に溶け込んでいて、濃厚な味、濃厚な香りに仕上がっている。

 このスープの作り方、教えてもらいたいな。


「ルンベリーさん。このスープの材料と作り方、教えていただけませんか?」


 ルンベリーはそれを聞くと、キッチンに入って食材を幾つか取ってきた。


「まず一つ目」


 私達で言う、キャベツの見た目をしたものを指さした。


「『イチギャベジ』。これは、サズベニの土でないと作れないから、プッチに言わないと貰えない」


 ということは、私がこの森に来ないと、あの扉を、いつもの人の目を掻い潜って開かないと貰えないわけだ。

 次に、ルンベリーはイチギャベジの隣にある食材を指さした。


「これは『ジャガイモ』。多くで取り扱われているなものだから貴方が住む世界にも普通にあるはずよ」


 ジャガイモは私の森で作っているから、ジャガイモに困ることはないと思う。

 ジャガイモショックでも起こらない限りは。


「次に、『エイニンジン』。真ん中が少し浮き上がっていたり、端に行くほど薄くなっていたり、生き物みたいな変な形をしているけれど、甘みが強い野菜よ。これはこの森にはない。あるとしたら、カイギって町だったかな……?」


 ルンベリーはカイギの町を知っている……? ということはつまり、私の住んでいる大陸を知っている……。

 昨日の本と言い、過去の人間の女の子と言い、もしかしてルンベリーって――


「あと、『デトオニオン』。これは、この森に植生してる。自然の中でしかできない植物よ」

「なるほど……」

「作り方に関しては、まず、鍋に水を入れて、沸騰するまで温めて、そこにこの『ベリーライグ』っていう万能調味料を適当な量入れればいい。ベリーライグは有名な調味料のはずだから、あなたの住むところでも手に入るはずよ」


 ベリーライグという調味料は初めて聞いた。

 カイギの町の調味料専門のお店に行けばあるかもしれない。

 そのお店には、普段はお砂糖とお塩とお味噌しか買いに来ないため、他の商品に目を向けた事が無い。


「そして、五分くらい経って少し甘い香りがしてきたら、予め切っておいた野菜を全部投入し、三十分間煮込む。それだけ」

「野菜を先に傷めたりとかしないんですか?」

「んー、なんでか、傷めない方が美味しいの。ここの野菜は結構特殊なのかもね」


 便利な野菜だ。子どもの頃、お母さんに教えてもらったスープの作り方とまるで違う。スープを作る時は、キャベツとかタマネギとか、炒めないと美味しくならないよと言われてた。


「あなたが、いつでもここに来られれば、野菜もすぐ手に入れられて、スープも自分の家で作れるんだろうけど……」

「偶々迷い込んでしまったもので、ここにいつでも来れるかどうかは……」

「そうだよね~」


 ルンベリーは、残念そうに深いため息を吐いた。


「あ、ちょっと用事思い出したから、外出てくるね。プッチ、その間、その子の探している人の探索に当たって」


 そう言って、ルンベリーは独りでに立ち去って行ってしまった。


「分かってるっての……。ほら、行くよ」


 プッチは私の手を引いて、家の外に出た。そこから、村を出て、森の中を探し回った。

 もうあの扉があった場所が思い出せない。もしいつもの人に再会出来たとしても、戻れるかどうか……。

 …………? プッチの耳が少し動いた。


「今、何か聞こえなかった?」

「いえ、そんなことはないと思いますが……」

「確かに聞こえたのよ。「あー」って」


 あー……? そんな声は聞こえなかった。

 私の耳が遠いだけかもしれないけれど。


「誰か近づいてくる、茂みに隠れて!」


 プッチに突き飛ばされ、私は無理やりに茂みに隠された。

 草木の間からプッチの視線の先を眺めていると、大きなカバンを背負った、人型の何かがプッチのところにやってきた。

 そして、プッチを見つけるなり、唇を少し動かし、何かを唱え――

 その誰かが、唇を動かし終えた後、頭がボーっとして、次第に意識が遠のいていき、私は気を失ってしまった。


 ……目を覚ますと、いつもの人が目の前で座って私を見ていた。

 私は飛び上がり、身体を机に強くぶつけてしまった。私が痛がっていると、いつもの人は、心配そうに私にビンに詰められた緑色の液体を差し出した。


「大丈夫!? これ飲んで、回復してよ」


 私は差し出されたビンの蓋を開けて、両手でビンを持ち、一気にその液体を飲んだ。

 すると、次第に痛みは消えていき、すっかり痛みは無くなった。

 冷静を取り戻しあたり見回すと、私がいる空間は、カイギの町に来る度に毎回見るいつもの人の家だった。

 一体何が……? 私は今まで起こったことを詳しく、いつもの人に話した。

 すると、いつもの人は話を聞いている途中ずっと目を点にしていた。

 そしてその後、大笑いした。


「あはは、そーんなことありえるわけないでしょー。バリーさん、夢でも見てたんだよ。バリーさんさ、ずっとこの部屋で寝てたんだよ? 今の今まで、この部屋でずっと」

「で、でも……」

「だから、エルフなんて伝説の生き物、この世の中にいるわけないってさ、あはは」


 いつもの人は、私の話を信じてはくれなかった。

 日付のことを言っても、今日は元々その日だったといい、私の話を聞いてくれなかった。

 それに、すぐ近くにある扉の事を言うと、「この大陸の東にある大森林に繋がっている」と言われ、扉の先を見せられた。

 そこは、私が最初に見た不思議な植物や生き物、また、巨大な樹が植生している場所ではなく、確かに東にある森の一部分であった。

 私は、扉の先を見せられ、唖然としてしまい、言葉が出なかった。

 本当に夢だったのだろうか……あんな壮大な夢が……? じゃあ、あの出会いは、一体何だったの……?


「もう夕方だし、親が心配してるんじゃない? ほら、早く帰りなよ?」


 いつもの人に背中を押されて、私は家の外に出された。

 いつもの人は玄関から手を振って見送ってくれたものの、それ以上は何も話してくれなかった。

 不思議だ。私は確かにあの森に行き、色々な物を食べた。

 そして、エルフ達と数日ではあったが、一緒の時を過ごした。

 ……エルフィーナに、ワープポイントを作っておけばよかった。

 そうすれば、全ての謎が解決できたというのに。

 だからこそ、仕方ない。

 今度、いつもの人の家にコッソリ忍び込んで、あの扉の謎を解明しよう。

 私は、調味料屋さんにベリーライグを買いに行き、路地裏に入り、泉で組んだ水を飲み、魔力を回復して、クリスタルに回復したばかりの魔力を込めた。

 そして、私の家の前の景色を鮮明に頭に思い浮かべ、クリスタルを両手で強く握りしめた。

 青白い光に包まれたまま、私の姿は町の路地裏から消え、森の家の前に戻ってきた。

次話もよろしくお願いいたします!

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