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謎の共通認識を持ったルンベリーと私は、プッチがいない席で料理を食べて色々話した。
ルンベリーは弓の名手らしく、大会で、戦闘能力全振りのダダエルフ三十人や、同族のトゥエルフ、あとダクエルフに対して一人で戦いを制したとか。
何より凄いとされているのが、一秒で矢をつがえて一秒で矢を放つ速射ができ、それも正確に的を射ることができるとかで、ダダエルフからも尊敬されるくらいだそう。
だが、そのルンベリーでも敵わなかったダダエルフがたった一人いたらしい。
それが先ほど絵で見せてもらった褐色肌のエルフ。
でも、そのエルフは去年の大会には出なかった。
……それが、行方不明になったらしい。
丁度一年前に姿を消し、誰にも姿を見せないという。
今でも、家族にもここにいる種族のエルフにも心配され続けているという。
一部では、魔王の手下になったとも噂されているらしい。
そのエルフの名前は≪リグル・ソート・ソウル≫といい、この森にいるエルフで敵う者は誰一人いないとか。
その後、サラに別れを告げ、店を出たルンベリーと私は外にいるプッチを迎えに行った。
プッチは木製の手すりに寄りかかりながら私たちを待っていた。
「プチ」
「なに」
ルンベリーがプチに話しかけた。
「この子一回、私の村に連れて行ってもいいかな?」
「なんでよ」
「探している人がさ、もしかしたらこっちにいるって可能性もあるじゃない? 道中とかも見てみたいでしょうし。それにプチだけじゃ心配」
「そりゃそうだけど……ん? 最後の――」
「それじゃあ連れてくね!」
ルンベリーは唐突に私の手をがっつり握りしめてきた。
「え」
やばい、先手を取られた。
私はなんとか手を振りほどこうとしたが、握る力が尋常じゃなくてとても振りほどくことはできなかった。
「……私も行く。一応保護者だし」
「そう」
私を挟むような配置になり、また歩き始めた。
次に目指すはトゥエルフの村『ティラウレ』。
何もかもが充実している村、とも言われるほど。
が、性格に難ありなエルフが多いとか。
トゥエルフと結婚したいという女、男エルフは結構多いと聞いた。
何もかも完璧な人間がいないように、何もかも完璧なエルフはいない。だから完璧に一番近いトゥエルフを嫁や夫にする。
一般的に言うなら、正しい判断だと言えるかも。
全ての種族のエルフを見ていない私が言えたものではないけれど。
ルンベリーは淡々と森の道なき道を歩いて行く。
森の中は方向の感覚が狂う。
もし私が誰にも見つけられていなかったら、飢え死にとか……森の住人に食い殺されていたかもしれない。
そう考えると身の毛がよだつ。
あ、でもいつもの人に食い殺されるよりは怖くはないかな……。
「そろそろ村に着くよ」
ルンベリーは大樹の隙間を指した。
隙間から大きな家が見える。
「あれは村長の家」
「うわぁ……大きいですね」
「ほんと。一応村の会議にも使われる家なんだけど、あんなボロ家を作るために私たちが払っている税金を使われたくなかった」
あの家税金で作ったんだ……。
そして私たちはその木と木の間を抜けた。
その途端、ルンベリーは私の手を離し私たちの目の前に立ち振り返った。
そして手を大きく広げて話し始めた。
「改めて紹介するよ! ここは【ティラウレ】。先祖代々続いてきた、トゥエルフの村!」
前に広がる景色は浩大で、段段になった土地には田んぼや家々が建っていた。
人口も見た限り、サズベニよりも格段に多い。
中央広場らしき場所には、少し欠けた部分があったり、一部苔が生えていたりしたが、一人の少女と神々しいエルフの石像が建てられていた。
名前が書いてあるだろう石板はもう古く、とても文字が読めるような状態ではなかった。
と言っても、エルフの文字自体、私は読めないのだけど。
「相変わらずアホみたいに広いわね……この村は」
「最近もう少し大きくなったのよ」
「これ以上広くなる必要ないでしょ……」
「うん。正直もう広がらないでほしい」
一応思ってるんだ……。
村に入ると、ほとんどのエルフがルンベリーに挨拶をしていた。
ルンベリーに付いていくうちに、嗅いだことがあるような薬の香りがする家屋にやってきた。
「はい、これが私の家。そしてこの村の薬屋であり治療医でもあるのです」
「へぇ……私の探してる人も、薬品みたいなものを作ってるんです」
「ふむふむ。ということは、人間の薬剤師さんってことね」
「……? はい。そういうことですね」
いつもの人の事は何も言っていないはずなんだけど……。
「それじゃ、村を案内するね」
と、言われるが儘に村を案内されてしまった。
無理やり手を引かれて、無駄に大きい村の施設や人や家々全てを案内された。
もう夜になり、疲れた私はルンベリーの家の空き部屋で寝転がった。
もう暗くて、夜は野獣や魔物が多く出るため、外出は危険だということで今日はルンベリーの家に泊まらせてもらうことにした。
ちなみにプッチも一緒に泊まることになった。
パジャマはルンベリーが子どもの頃に使っていたものを借りた。
と、借りたのはいいものの、これがまた着づらく、パジャマ……というより、幼児用のドレスみたいな……少し羞恥心が芽生えてくるような寝間着。
私がこれを着て恥ずかしがってるのに対し、ルンベリーはずっと、私の格好を見てニヤニヤしていた。
本当にこのエルフはいつもの人によく似ている。
こういうのを変態または変人というらしい。
これは前者かな。
「いやぁ、可愛いね。いつ見……あ、いや、本当に、妹になってほしいくらい」
「なりません」
「そ、そうだよね~、あはは」
どうやら100パーセント本気だったらしい。
こういう時に、「冗談」という言葉を口にしないという人は、100パーセント本気だったって、何処かで誰かに言われたことがあった。
逆にそう言う人は、大体半分くらい本気らしい。
「ということで、今日の夜ご飯は、トゥエルフの伝統料理である『ミーミュト・ルベリー』にします」
また可笑しな名前がついた料理を……
そう言って、ルンベリーは台所にいき作業を始めた。リビングのイスでプッチと座りながら料理を待つ。
それまでは無言だったけど、その状態が嫌だったのか、プッチから話をかけてきた。
「でさ、あんたの探してる人ってどんな人なの?」
「えっと……」
私は台所をじっと見つめた。
「まぁ、何というか、例えを出すのであれば、ルンベリーさんみたいな人です」
「つまり変人ね!」
「大体あってます」
プッチは一枚の薄い紙を取り出し、それに持っていた羽ペンで謎の文字を書いた。
「あと、なんか特徴はないの?」
「特にないですかね……あ、その人も薬のようなものを作っているので、もしかしたら、薬に使える植物を採取しているのかも……」
「なるほど……ますますルンベリーに似てきたわね。もしかして、ルンベリー本人だったりして?」
「え」
「なーんて、嘘よ嘘。冗談に決まってるでしょ」
少し信用してしまった自分がいた。
だけど、改めて考えなおしてみると、ルンベリーはエルフ、いつもの人は人間。
種族が違うのだから、一緒なわけがない。
「でも、薬づくりなんてよくやるわね。調合だとか配合だとか、あたしはよく分かんないわ」
「そうですかね。私もちょっとやってるんですけど、結構簡単ですよ」
「へぇ……」
次話もよろしくお願いいたします!