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「へぇ、すごいですね」
「……何だ、その興味なさそうな、すごいですね、は。とりあえず、お前が探している人が見つかるまでは私の家でこき使ってやるからな。さすがに一人で帰らせることは危……」
そのダクエルフは私をちらっと何度か見て、何かを考えた。
「何処から来たかも分からない奴だし、もし魔王の手先だったらって考えるとこの集落の場所とかバラすかもしれないしな!」
「ありがとうございます」
私は笑顔でそう答えた。
ダクエルフは耳を赤くして腕を組んで私がいる方とは反対の方角を見た。
坂を下って村の入り口に着くと、一人の女の子エルフが手を振って走ってきた。
「プッチお姉ちゃんおかえりー!」
「ただいまー、我が妹よ~」
プッチお姉ちゃん……
走ってきた女の子はプッチお姉ちゃんと呼ばれているダクエルフに顔が似ていた。本当の姉妹なのだろう。でも、妹の方が胸があるように見えるのは気のせい?
「その人はー?」
「あー、この人はこの森で迷っているところを私に助けてもらった人よ。えーっと、名前は……」
プッチお姉ちゃんと呼ばれるダクエルフは私の顔を見た。
「ミシュ=アノセクト=アリーズです」
「ミ……そう! こいつが探している人が見つかるまで、少しの間私の家で守……こき使ってあげることにしたの!」
「へぇ……お姉ちゃんは相変わらず優しいね」
ダクエルフの女の子は少し笑いながらそう言った。
――――☆――――
その後、プッチお姉ちゃんと呼ばれるダクエルフは私を集落のエルフ皆に教えるために、私を全ての家に連れまわした。
もちろん村長にも村長の奥さんにも会った。
どうやらこのプッチと呼ばれるダクエルフは、今の村長夫婦の娘らしい。
つまり、今の村長がプッチのお父さんというわけだ。
先代は既に亡くなったらしく、自然に還したと言っていた。
村のエルフは全員優しく迎え入れてくれて、分からないことがあればいつでも聞いていい、とも言ってくれた。
何故だか、プッチが優しい理由が環境によるものなんだなとよく分かった。
そういえば、村にいたダクエルフは殆どが私より年上で、年下の子は数えるくらいしかいなかった。
それに、何百歳ってエルフだって私よりも綺麗なエルフ多かったし。
年下の子は数えるくらいしかいなかったかな。若いっていいことなんだなって思った。
明日はどうなるのやら……。
――――☆――――
家具が充実していて、結構広めの良い部屋にいる私は、日記を書き終えてベッドに横たわった。
聞いたところによると、ダクエルフという種族は基本的に農業をする種族らしい。
教養の殆どが農作業に関するものばかりで、他の種族と比べると戦闘的な技術も殆どなく、一般的に言う頭あまり良くない部類に入る種族らしい。
というより、ただただ一般的な勉強があまり理解できないらしい。
なんか、理由は不明だけど、ダクエルフが住む村で育てる野菜はいつでも新鮮な状態を保てるだとかなんとかで、それは他の種族の村ではできないからダクエルフは農作業専門の種族みたいになったとか。
別種族のエルフとは敵対関係だというわけでもないので、農作物を共有したり、他の種族から食べ物をもらったり、普通にただただ遊ぶとか、そういうこともあるらしい。
別種族同士の結婚も数百年前から全種族で認められ、文化の違いはあるものの、前よりも幸せになる家族が増えたと言っていた。
この村にも、他の種族と思われる男エルフや女エルフがいたし。
あ、そういえば、一定年齢以上になると、筆記、または実技の試験選抜で他の種族の村の学び舎に行くこともできるようになるみたいで、プッチが特別頭が良いというわけではない。
ただ、年末にある大会で高成績を残したため、自分が頭が良いと錯覚してるだけ。
それでも、農作業に関しての知識は物凄い量が頭の中に入っていて、他の種族のエルフが作業に手間取っていると、分かりやすく説明して手伝ってあげていたり、分からないことがないか呼びかけたりと、優しくて面倒見の良いエルフのお姉さん、という言葉しか出てこなかった。
そういえば、皆と話すときは自分を常に上に立たせるように話していたかな。
自分の事を稀代の天才だと思っているエルフなのか、将又別の理由があるのか、それは私でも分からない。
……よし、もう寝よう。
歩き疲れたし、明日は早いとか言ってるし。
ちなみに、プッチはおばさんたちからプチちゃんと呼ばれていた。
プッチ本人はそう呼ばれるのを少し嫌がっていたが、後々話を聞いてみたところ、人前で言われるのが嫌なだけで、自分だけの時に呼ばれるのは良いらしい。
むしろ気に入ってるとかおばさんたちが言っていた。だから私は明日からプッチをプチちゃんって呼ぶことにする。
それじゃあ、お休みなさい……。
私はすぐに眠りについた。
次の日、背中部に羽がついているパジャマを着たプッチに優しく揺すられて起こされた私は、リビングに案内されて朝ご飯を食べさせられた。
が、その料理は野菜炒めのようなものだったけれど、見た目はともかくなかなかの味付けで、正直この世の物とは思えない味だった。
私が何十年前かに行った世界の、『かっぷぬーどる』という簡易的な食べ物を食べた方が幾分マシな気がする。
赤くて辛そうな見た目してるのに滅茶苦茶に甘かったり、極端にしょっぱかったり、見た目だけで味が酷い。
食べ物は見た目だけでは決まらないね。
「あの」
「なんだ」
「何でそんな強気の態度なんですか?」
目の前で何の躊躇もなく自分の料理を食べているプッチは、私の話を聞ききょとんとした。
「威厳ある態度をとりたいのよ」
……何故?
「な――」
「分からないわ!」
即答! 圧倒的即答!
プッチは机を両手で叩いて立ち上がった。
「ちょ」
「さあ、ミ……えっと、仕事にいくぞ!」
玄関にかけてある、鍔が円になっている帽子をかぶり、黒い長靴を履き、農作業用の緑色のつなぎを着て出て行ってしまった。
名前を憶えてくれないかな……。
私も同じ格好をして、玄関から出て行った。
プッチの所有する畑はこの村とは少し離れた場所にあるらしく、私はプッチの後に付いていった。
途中、私が木の根っこに躓いて転んだ時、心配そうな顔でつなぎについた土や植物を手で払って落としてくれたり、今の姿では私が自力で登れない壁を上がる時、私を背負って一回のジャンプだけで登ってくれたりと、本当に良い人なんだろうなって思った。
そして漸く、私たちは畑に辿り着いた。
「ここが私の畑よ! ……だ! どう? 驚いた? ……驚いたか!?」
別に無理しなくていいのに……。
目の前には綺麗な整地が施された広大な土地が広がっていた。
まだ作物は植えていないようで、土の上には雑草ばかりが生え散らかっている。
「広いですね。……まさかこれ、一人で全部管理してるんですか?」
「もっちろんよ! だって私の畑だもの!」
素直に凄い。
ここまでの畑を一人で管理することができるのは百年生きている私でさえ一人も見た事がない。
それに、サズベニ村にある畑とは規模が違い過ぎる。
「これどのくらいで作業終わります?」
「ざっと二時間ね」
早い!
「2時間でこの広大な畑での作業が終わるんですか!?」
「そうよ。私だけが使えるウラワザがあるのよ」
ウラワザ……だって……?
次話もよろしくお願いいたします!