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――! あの巨大な生物は一体何?
鎧を身に纏ったその巨大な生物の手には、巨大な剣が握られていた。
私は息を潜めて木の根の後ろに隠れた。
バレたら瞬殺されるバレたら瞬殺される……!
巨大な生物は開けた場所で立ち止まり、周囲を見渡した。
そのあと、剣を薙ぎ払い、無差別に大木を切り倒していった。
私の近くの大木も切り落とされ、目の前にその木が倒れ落ちた。
私を隠していた根も、切られて、その巨大な生物に位置が知られた。
『――――!』
巨大な生物は私を見て、鼻息を激しく吐きながら剣を振り下ろしてきた。
私は間一髪で攻撃を避けて、また茂みに隠れた。
巨大な生物は私が逃げた先にある大木を切り倒して、退路を塞いだ。
なんて賢い魔物なの……?
退路をふさがれた私は、巨大な生物の攻撃を避けながら周囲を走った。
その後も大木を切り倒され、完全に退路を断たされてしまい、巨大な生物の前に立たされた。
「こんなわけ分からない場所で死ぬわけには……!」
私は魔法を唱えた。
「ポイズンシールド!」
私の周囲に紫色のバリアが張られた。
その瞬間に剣を振り下ろされて、バリアを一瞬にして壊された。
バリアが爆発して、あたりに毒がまき散らかされた。
その爆発の衝動で、私は吹き飛ばされて倒木に体を強く打ち付けた。
「はぁ、はぁ……なんで毒にかからないの……?」
巨大な生物の鎧の中には確実に毒が入ったはずなのに、効いている素振りをは全く見せなかった。
倒れている私に近づいてきて剣を振りかざした。
もう駄目だと思い、私は目を瞑った。
…………あれ? 全然攻撃してこないような……?
すると、大きい物が倒れる音が聞こえた。
目をゆっくり開けると、先ほどまで剣を振りかざしていた巨大な生物がぐったりして倒れていた。
それに、硬そうな被り物は粉々になっていて、頭の天辺にある大きな穴から赤い血がドロドロと流れ出ていた。
私の横に誰かが飛び降りて着地してきた。
「お前、何処の者だ? 見たところエルフではないようだが」
女性の声が聞こえたと思い、横を見ると、弓矢を構えた耳の長い黒髪の女性が私の事を細い目で見下ろしていた。
わわわ、胸、えふかっぷくらいはありそう……
「えっと、私はその……この森に迷い込んでしまって」
黒髪の女性は弓を引き絞って私の顔を狙ってきた。
「嘘をつけ! この森はお前のような少女が易々と侵入できる場所ではない! まさか貴様、魔王の使い魔か何かだな?」
私は腕を使い胸の前でバッテンを作り、魔王の使い魔でもないし、敵意がないこともアピールした。
「いや本当に、何も分からないんです!」
黒髪の女性は私の目をじーっと見つめ、敵意がないことが分かると弓矢を構えるのをやめて、木でできた艶のある弓を腰に掛け、矢先に鋭い棘がついた矢を背負っている矢筒にしまった。
「…………」
謎の沈黙時間が続く。
「…………」
まだまだ続く。
「…………」
「あの」
「なんだ」
鬼のような形相で私の目を見た。まだ警戒をしているみたい。
「ここって、何処なんですか?」
「……知らずに来たというのか?」
そうなんです。知らないんです。
「はい……」
「……ここはエルフィーナの森。様々な種族のエルフが住む森だ」
「エルフ……? エルフにも種族ってあるんですね」
「ああ、この森にいるのは、トゥエルフ、ダクエルフ、カジュエルフ、ダダエルフの四種だ。この森だけの話だから、もしかしたら他の種族もいるかもしれんがな」
「へぇ……ちなみに、あなたは何の種族で?」
「私は誇り高きダクエルフだ」
小さな胸を張って両手を腰に当て肘を張った。
案外情報が聞き出せる。この人もしかして典型的なバカなんじゃ……?
私はその後も情報を集めるために訊き続けた。
「そういえば、先ほど倒された魔物は?」
「倒され……? あ、ああ、あのオークオークか。この神聖なる森を荒らす邪悪な存在なんだ。だから私が矢で一発でやってやったんだ、ふっふふ」
あれ? どうしたんだろう。
さっきまでの自信満々の顔が一転して、苦笑いしてる。
それにしても、オークオーク……初めて聞く魔物の名前。
ここがどこの大陸かは分からないけれど、私のいる大陸にはいない魔物だ。
名前通りオークの上位生物だと思われる。
「そういえば、私の友達がこの森に来たと思うのですが、知りませんか?」
「どういう格好をしていた?」
「私が最後に見た時は、白衣を着ていたと思います」
「はくい……?」
ダクエルフは首を傾げて目を点にした。
もしや白衣をご存じでない……?
「はくいなんて着物は知らん! それにそんなわけわからない服を着ている者だったら、私にでもすぐに分かるわ!」
少し怒ったのか、唇をとんがらせて腕を組んだ。
このツーンとした感じはなんだろう。
「えっと、じゃあダクエルフさんの住んでいる場所とかって、何処にありますか?」
「え? あっちだけど……あっ、南方である!」
一瞬素に戻った気が。
ダクエルフが指で指示した方向は、あの耳の長い生物が逃げて行った方向だった。
「すみません。図々しいかもしれないのですが、そこに一旦連れてってもらえないでしょうか? 私一人じゃ帰り方も分からなくて……私と逸れた人なら戻る方法を知っているはずなのですが」
私はダクエルフの手を両手で掴み取り、希望の眼差しでダクエルフの目をじっと見つめた。
ダクエルフは私に見つめられてすぐに赤面した。
「わ、わわわかったよ。連れてけばいいんでしょ? もう……」
私の手を振り払って、指をさした方向とは逆の方角に歩いた。
あれ……?
「そっち方角逆じゃないですか?」
「ちょ、いや、違うのこれは! フェイントよフェイント! あんたを混乱させるためのね!」
少し動揺をして、振り返り顔を赤くして、私の顔を指さした。なんて分かりやすい嘘なんでしょう。
「それ、今する必要あります?」
「ないよ……ないけどいーの!」
この人からかってたらずっと楽しくやっていけそうだなぁ。
私たちは歩いて、木の根を避け、ツタや植物を手で払い、無言のままダクエルフの住む場所に来た。
「ふっふっふ……紹介しよう。ここがダクエルフの集落、『サズベニ』だ!」
周りの大樹よりも、ましてや私の森にあるマナの大樹よりも大きな樹。その大樹の枝の上や樹の根の近くに建造物がいくつもあり、ダクエルフかと思われる耳の長いエルフたちが沢山いた。
「ちなみに私はこの村で一番頭が良いの! ふふふ」
つまり皆バカってことなの?
次話もよろしくお願いいたします!