14
草むらにあった少し大きめの石に躓き、尻餅をついて転んでしまった。
その時、ポーチに何かが入っていることを気づいた。
そうだ、これはルンベリーからもらった、私の本……
私はその本をポーチから取り出し、立ち上がって、崩れ込んだエリに近づいた。
「あの、これ」
エリの目前にその本を差し出すと、エリちゃんはその本を両手で手に取り、不思議そうな顔をして私の顔を見た。
「その、あの人から、あなたにだって」
エリちゃんは首を傾げた。
「これは、なに?」
「たぶん、薬の本かな……」
「おくすりのほん……」
「その本に書いてある薬を使えば、町の人を救ってあげられるって。次はあなたが町の人を救う番だって言ってたよ」
「ナズさんが……」
エリちゃんはその本をじっと見つめる。
そして、何かを決意したように力強くうなずいた。
「――私頑張る」
「…………」
何も言えなかった。
これをこの子に押し付けてもいいのか?
こんな重大な責任を……。
――私は現実から逃げた上に、人に全てを擦り付けた。
最低だ。
魔女の仕事をエリちゃんに頼んだんだ。
「きっとこれは、ナズさんの最後の言葉なんだ。ナズさんが来ないんだったら、今度は私が皆を助ける」
「…………」
エリちゃんはやけにやる気だった。
そう……突発的にやってしまったことだ。
私も責任を取らないと。
これでいいのかは分からないけど…………
「困ったときは、〝北の森に住む女性〟を訪ねなさいだって言ってたよ。ただし、その森のことは誰にも言わないことって」
何故こんなことを言ってしまったのだろう。
自ら居場所を教えてしまうなんて。
でも、
「……うん! お姉さん、ありがと! 私、ナズさんの想いをきっと受け継いで、皆をこれからも守り続けれるような薬師になる!」
これで良かったのかもしれない、と、少しだけ思った。
エリちゃんはは立ち去って行ってしまった。
また、静かな空間が訪れた。
私は何をすればいいのか分からなくなって、立ちすくんだ。
「――これがマグナの解なのか」
セピの声が後ろから聞こえた。
「うん。これでいいの」
「しかし、自分の居場所を教えてもよかったのかの?」
「いいの」
「そうか」
数秒間の沈黙が続いた。
気まずい空気だったからか、セピが話を切り出した。
「今日はもう帰るとするだの。魔物共に火を全て消させ、撤退命令はもう下したでの」
「そう……またね」
「また……あぁ、もちろんだの」
セピは私を気遣ったのか、静かにその場から消えていった。
さて、私も帰ろう。今日はもう疲れた。すぐにシャワーを浴び、もう寝てしまおう。
私はネオクリスタに魔力を注入し、自分の家を思い浮かべて転移をした。
明日はあの森に行くんだ。
絶対に、ルンベリーの正体を暴いてみせる。
そして、きっと――
私は気を失うように、すっと寝てしまった。
次話もよろしくお願いいたします!